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Miles DavisのPrestigeからCBSへの移籍とBob Weinstock社長(5)
  • コレを聴きつつ読むと、きっと和める筈です。このメモの既アップ分は(1)(2)(3)(4)にあります。
    Bobもやるじゃん・・・
  • 巷間言われて来たことを信じている方は以前のNelsonと同様に、Prestigeの社長、Bob Weinstockは余り音楽的な定見も無く、制作費を抑えるためにスタジオでのリハを許さずにマスター・テイク一本勝負に拘り、ジャズメンへの払いをケチる奴だと早飲み込みしてきた方が多いと言います。一介の靴のセールスマンだった父がでっち上げた融資で、ジャズキチの息子がおっかなびっくり転がし始めた会社と聞けば、満更間違いではない・・・というか当然のことでしょう。そんな若造が、年の暮れが迫って金に困っていた、後にJazz GreatsになるMiles、Monk、それにBagsを相手にして「Bags Groove」等々の名盤を20代にして世に出し、年下だったRollinsに目を付けて「Saxophone Collossus」を吹き込ませたのは、瓢箪から駒が出たと言う幸運もあったにせよ、サッカーで良く言われる「ボールがやって来る正にその瞬間にペナルティー・エリアの中に居て、ボールをちゃっかりゴールに流し入れる・・・それだって才能のうちだ。」というか、つまりはWeinstockは「持ってるオトコ」であったに違いありません。
    Bobの氏、育ち
  • Upper West Sideというマンハッタン生まれの彼は、10代の頃から父親や叔父がレコードを買う時に連れて行って貰って以来ジャズに開眼して、
    • 8歳にして一枚9セントという破格の捨て値で親が手に入れた大量のストックを聴きまくったり、
    • 15歳にして手持ち盤を整理するために音楽雑誌でSPの通信販売を始めたり、
    • 18歳にして、今現在も盛業中でNelsonも猟盤に行ったことがある「Jazz Record Center」の隅に自前のコーナーを持たせて貰う
    などと、もう一瀉千里の勢いでした。そのレコ屋に良く顔を出したKenny Clarkeを通じて、ビ・バップの勃興に通暁したのもこの頃のことで、ジャズの世界にドンドン深入りして行くのでした。KennyはMonkを紹介してくれて、「お前がレコード会社を作ったら、Jazz Greatsが皆、お前んとこで録音するように誘ってやるよ。」とけしかけたと言います。その勢いを駆って、20歳で親名義で資金の融資を受けるや、マイナー・レーベルながらレコード会社を立ち上げてしまい、Lee KonitzとLennie Tristanoのクインテットで「Subconscious-Lee」(New Jazz)を初録音までしてしまったのです。
  • 譜面は読めず、楽器もやらなかったけど、ジャズに対する鋭い嗅覚を頼りにして邁進し、営業的にもSPからLPへの移行にいち早く取り組む、という様に先見の明もありました。ジャズメンを兎に角スタジオに放り込んで、「リハ無し・本番一本勝負・別テイク不可」をモットーに録音を増やして行きました。LPが持つ長時間録音の利点を良く理解していたBobは、そこを生かして片面一杯にも及ぶジャム・セッション気味の演奏を、その名の通りの「All Night Long」(他にもMorning、Dayなど)と題して制作したりする茶目っ気がありました。MJQだけは例外で、John Lewisがしつこく粘ったので、「Django」と「Concorde」の録音ではリハを許したそうです) 
  • もう一つ忘れてはならないことがあります。Bobは飛行機嫌いなので、Greyhoundバスで米国中を巡っては、めぼしい新人の掘り出しに努めました。バスでの移動時間をフルに使って、地元のレコ屋やジャズ関係者から近郊の街でのナマ情報を得たり、自社のレコードを置いて貰うための挨拶回りもしたと言います。生涯で約千枚を制作し、特に50年代には毎年75回ものセッションを録音していたBobは、1972年にFantasyに会社を売り、フロリダで引退生活を送りましたが、77歳で糖尿病をこじらせて他界しました。
  • 「Relaxin'」盤の冒頭トラック、「If I Were a Bell」での「Westminster Chime」の引用に端を発して、Bob WeinstockがPrestigeをどんな風に立ち上げて、数多の名盤を生み出すレーベルに育て上げたかについて、今まで教わって来たことを長々とメモする結果になりましたが、今回新たに知ったことも含めて「この人って、結構凄かったんだなぁ・・・」と認識を新たにした次第です。

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