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「Impressions/ A Tenor Supreme」における「繋ぎリフ」(5)


  • これで「Impressions/ A Tenor Supreme」に関するメモの最後としますが、この「Impressions」という演奏の舞台回し役と思える「Dave Liebman」は、どういう考えでこれを引き受けたのかという点に触れてみます。とは言え、気付くことは沢山あり過ぎるので、下記の2点に絞りました
  • 前回までのメモをまだご覧になっていない方は、ここここここ、とここでそれらをお読みになってからの方が読み易い筈です。なお、26分余もある演奏の動画は、ここにあります。
    「Tribute to John Coltrane」
  • この「Impressions」という演奏を含んだ「Tribute to John Coltrane」と題された2部編成の特集企画では、このジャズフェスに参加したジャズメンが、幾つかのグループに別れたり、別の所では一緒になったりしてトレーンの偉業を忍び、讃えるという趣向になっており、そのグループと演奏した曲名は、以下の通りだと思われます。
    1. A Tribute to John Coltrane (1):(8月23日)
      Joshua Redman, ts; Geoffrey Keezer, p; Christian McBride, b; Brian Blade, ds; The New York Voices, vocal
      1 Naima; 2 Giant Steps; 3 Lush Life; 4 Crescent.
    2. A Tribute to John Coltrane (2) 'A Tenor Supreme': (8月24日、動画あり)
      Michael Brecker, Dave Liebman, George Garzone, Joshua Redman: ts; Joey Calderazzo, Geoff Keezer: p; Dave Holland, Christian McBride: b; Jack DeJohnette, Brian Blade: ds; The New York Voices
      1 Intro; 3 My Favorite Things (by Dave Liebman 4); 5 Chasin' the Train (by George Garzone 3); 8 The Father And The Son And The Holy Ghost/ India (by Dave Liebman G); 11 Impressions (by Dave Liebman G。今回の繋ぎリフに関するメモの主題とした演奏がコレ。); 2 Interview Dave Liebman; 4 Interview George Garzone; 6 Interview Michael Brecker; 7 Interview Dave Holland; 9 Interview Jack DeJohnette; 10 Interview Joshua Redman.

    世界的なジャズの渦が日本から・・・
  • 上記でゴチックにしたように、動画上では各人のインタビュー内容も日本語になっており、中々興味深いことを話しています。Dave Liebmanはそこで、これと同趣旨の特集企画をWayne Shorterと、読売ランドでの「Live under the Sky 1987においてやっており、その自分が提唱した日本での企画が後に有名になって定番化したんだ、とその経緯を話しています。そのLive under the Skyでの演奏のTV放映を見て感激したファンが、音源発売を切望したのに応えて、後に「Wayne Shorter, Dave Liebman, Richie Beirach, Eddie Gomez, Jack DeJohnette:Tribute To John Coltrane - Select Live Under The Sky '87 10th Special」と題したCDやDVDになっています。これはこのサイトの常連さんであれば皆さんが、既にお手持ちな筈です
  • 現時点でそれの動画を見直すと、冒頭のインタビューでWayne Shorterは下記にも出て来る名クラブ、Birdland出演中にColtraneが楽屋に来て、「皆、追い求める方向は同じなんだよ。頑張ろうぜ」などと激励してくれた際に交わした会話が紹介されています。
  • そしてそれの十年後になる1997年にやったのが、今回の一連のメモで採り上げた「Impressions」が演奏された「Live by the Sea」です。無論、その前後にもトレーン絡みの特集企画はあったわけで、事程左様にトレーンはDave Liebmanに限らず、ジャズメン及びジャズファンに愛されているのでしょう。
  • その辺は、「What It Is: The Life of a Jazz Artist」というDave Liebmanのインタビューによる「半生記」でも採り上げられていて、同書名でググると「Google ブックス」のサイトで読めます。その317頁に記してありますが、「Live by the Sea」での企画の盛り上がりが諸外国では印象深かったらしく、反響が結構あったようでした。丁度その翌年に「紅海ジャズ祭」を始めるので準備中の主催者から、Michael Breckerのジャーマネに接触があり、「アレみたいなこと、ウチでもやってくんないかなぁ・・・」と頼んできたそうです。
  • そして、翌年の初回のそのジャズフェス、「Red Sea Jazz Festival 1998」には、Michael Brecker, Dave Liebman, Joe Lovanoが出ています。この「紅海ジャズ祭」は2015年には、今や恒例行事となった「東京JAZZ」と「Tokyo Jazz and Red Sea Jazz Festival Exchange」という国際交流企画をしたことがあった筈です。
    トレーンとの邂逅
  • Dave Liebmanは、若い頃からトレーンが大好きだったようで、高校2年だった1962年2月にNYCの名クラブ、バードランドで初めてトレーンのギグを見て以来のファンだったとインタビューで答えています。
  • 初めてバードランドに同級生と一緒に行った前年の暮れには、マリガン・ブルックマイヤーのバンドが出ていたそうで、その夜は丁度、アノ名物司会者のMarquetteがモギリにいて、彼らを見て5ドル取りあげると「あんたらは、ピーナッツ席だな。」といって奥の壁際の席に行かせられた。舞台が遠いので少し下駄を履かせて高くしてある場所だったが、それでも全然舞台は見えずに演奏音だけが聴こえた。店内では、おっぱいをブルンッ、ブルンッと揺らして歩き回る(orz)女給さんが沢山いて、Liebmanが生れて初めて見る光景だった。何か飲むかと聴かれてコークと答えると、「ハイ、1ドル。」と言われてヒャァっと驚いたらしい。ブルックリンじゃぁ5セントであり、1ドルと言えば今の20ドルに当たるらしい。でも取り敢えずそれさえあれば、一晩中粘っても文句は言われなかった。
  • そして年明けの1962年2月に、いよいよ思いがけぬ出会いである邂逅の夜が来たのでした。女友達と2軒目にバードランドの前に来た。看板には「エヴァンス3 + トレーン5」と書いてある。未だダウンビート誌を読み始めたばかりの高2であり、エヴァンスって誰だっけであった。「トレーン・・・トレーン」と口ずさんでいると、女友達も楽器を吹いていたせいもあって、「ソっ、ソプラノかぁ?」と何だか吹いている奴の顔の絵を見て思い出した程度。トレーンの脇にはアルト吹きが描かれていたが、こいつは知っていた。オデコにコブがあると来れば「ドルフィーだ。」と気付いて入ることにしたって言うから・・・マンハッタンは羨ましいね、この売れっ子面子が二つ揃っているのに、5ドルで入れるってのは。その夜の演奏が始まり、(エヴァンス分の記述は省略して(orz)、件のソプラノ吹きが音を出したと思ったら・・・ひゃぁあああっ・・・聴こえて来たトリルにゾクゾクっと来て・・・ハイ、一丁上がり。立派なトレーン病ですな。
    ・・・と、この他にも一杯面白い話が出て来ますが、ここまでにしときます。後は自分で読んでください(キッパリ)。
    書くかどうか迷いましたが・・・
  • 自分があまり得意じゃないことは書くべきでないような気もしますが・・・まぁ、怒られるのを承知で・・・。
  • こんなにトレーンが大好きなDave Liebmanですから、やはり音数が多いジャズメンです。そういった彼をMiles Davisが70年代初めにバンドに呼んでいた時期があります。ダーク・メイガスとかの時代で、正直言ってNelsonが余り得意でない時期のマイルスで、聞き込んでいない盤が一杯あります。MilesがMonkに、「自分のアドリブ中は、コンピングを控えて欲しい」と言ったのは古過ぎる話だとしても、Nelsonは「二人共に相通じる理想の音を求め(過ぎ)ていたことが、そうした発言の出た理由の一つだ。」と信じています。
    余白があるジャズ
  • 音楽的なVertuosoではあっても、楽器吹奏的にはVertuosoとは言い難いMilesがその頃求めていたジャズは、曲想を大所で掴んでアドリブを展開する方向でした。絵で言えば鳥獣戯画のように、余白が多くても訴えかけるものがしっかりとしていて・・・表現すべきもの(だけ)を音に出すことがしたかったのだろう、と思っていました。そういった面でも、MilesがMcCoy Tynerを使わなかった、と言うか余り好きじゃないと言うか・・・嫌いだったのは、それに通じる面があると思っています。
  • 「お前みたいな風にバックで弾かれたら、俺はアドリブする意欲が無くなる。そんなに音を敷き詰められたキャンバスに何を描けというのか。俺のアドリブのバックには、お前の出す音数の数分の一で良いんだ。真っ白な空間がないと、俺の脳は活発にアドリブ・フレーズを吐き出せないんだ。充分な余白があれば、俺は自分の絵が描ける。俺はお前じゃない。そんなにこの曲、この曲というか・・・お前、お前し過ぎるキャンバスには・・・トレーンなら絵を描けるんだろうが、俺は自分の絵を描きたくなれない。」と思ったのではないか、と考えます。
  • だからその伝で行くと、Miles DavisがDave Liebmanを自分のバンドに入れたってのは、アリなんですかね。フロントと脇とは違うんだってことなのかなぁ。自分のバンドでいっしょにやる、しかも結構な音数を出すジャズ・ファンクで・・・それで、盛り上がれるモノなのかなぁ。どうも今一つ、中に入って行けないのが、Nelsonの限界なのであります。スンマヘン。
  • 今回もまたメモが長くなってしまいましたが、「Impressions/ A Tenor Supreme」という中々の演奏についてのこもごもについてのメモを、この辺で締めとします。

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