- 「Denzil's Best」は、バップ期に活躍した名ドラマーのDenzil Bestの手になる曲です。この人は曲作りに秀でており、かの名曲「Move」を作ったことで知られています。また、Thelonious Monk作曲というのが通説の「Bemsha Swing」の共作者ともされています。ちょっとシャレた曲名で、自分の名前そのものでもありますが、恐らくは周りの人が"お前の曲の中でも一番良いョ(best)。#と褒めたんで、「じゃぁ、ソレ、頂き。」となったのかと想像します。
- いかにもジャズらしい、グルーヴ感のある曲です。ライブで時折聴きますが、録音は数少なく、その中の白眉が、ここに採り上げるヴァージョンです、、、といっても、これ以外では現在入手可能なものは、フラナガン命で知られる寺井尚之さんの録音くらいしかありませんが、、、
- この演奏は5分余りという、丁度良い長さです。この曲の決定版であり、これが入った「Eclypso」盤中随一の人気曲だと、昔っから定評があります。
- 先ず、リーダーのピアノが、12秒くらいの、短いけれども印象的なイントロをやります。まぁ、どの曲の前においても使えると言っても過言でないヴァンプですが、でも期待が高まる導入です。余談ですが、Barney Wilenの名作に「Barney」というライブ盤があり、その中の「Besame Mucho」は好きな方が多い演奏です。そこでDuke Jordanが使ったイントロを、このTommy Flanaganのイントロを聴くと、想起します。二人とも中音域中心の手堅いピアノという点で共通しており、そういうヴェテランが引き出しにしまってあった「取っておきの出来フレーズ」を披露したという感じで、両方ともに、言わば「ハメ手」でしょう。さてイントロに続くテーマですが、なかなかジャズッぽい旋律です。リーダーはサポートに回り、ベースのGeorge Mrazが、そのテーマをピチカートで提示します。この手のグルーヴ感溢れるテーマにNelsonは滅法弱く、思わず唸ってしまいます。結構細かいフレーズが混じるんですが、名手George Mrazですから、苦も無くピチカートしています。聴き惚れているうちに、1分2秒頃からTommy Flanaganのアドリブです。この人らしい律儀な展開でありながら、ジャズの雰囲気が横溢しています。その後のリーダー作で目立ち始める力強さは、この録音の時点ではまだ余り前面には出てきていません。そして2分40秒からがベースのアドリブで、良くうねっています。高音部を多めに使っていますが、これに低音の粘りと、ブッ太さが加われば「Ray Brownそこのけ」となるんですが、まぁ、それは無いものねだりです。この演奏は、ベースをフィーチュアする演奏に仕立てられており、ピアノのアドリブ中も力強いベースのピチカートが、グングンと後押ししていて、正に「快感!」です。4分少し前からは、ピアノとドラムスの4バース・チェンジで、もう一押し聴かせます。ピアノの小気味の良いフレーズに、Elvin Jonesがトムトム中心に、スネァもまじえたフレーズで応酬するという展開で、あまりシンバルワークは目立ちません。4順目くらい、4分15秒辺りで出て来る「両手ユニゾンのフレーズがエグイなぁ。」と言って、そこばかり聴きたがる友人が居ます。そのまま4分半過ぎから、ベースが再び見事なピチカートで後テーマを唄います。前テーマと違って、装飾音符を一杯散りばめてフェイクしており、この名曲の余韻を楽しみつつ演奏は終わります。思わず、「ほんま、ジャズは良ぇよなァ、、、」と呟くNelsonなのでした。
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