Real Gone Jazz社のアンソロジー(4)
- 英国のReal Gone Jazz社が300種以上も出しているパブリック・ドメイン音源を使ったボックス物に関するメモの続きです。同社やこのアンソロジーの全体的な話は、すでに(1)と(2)にメモしました。さらに、いくつかのアンソロジーの内容についてメモし始めており、その2回目です。
「Gerry Mulligan」
- 「Gerry Mulligan」の盤をアンソロジーにしようとする時に直面するのがレーベルの問題であることは、彼をいくらか聴いておられる方なら直ぐに気付かれることです。この「ボックス物って」というセクションでは、(1)自社の専属ジャズメンが長年にわたって録音したものをボックスに仕立てる場合と、(2)RGJのように自前の音源や、専属ジャズメンを持たずに、パブリック・ドメイン音源でボックスに仕立てる場合とに大別して話をしていますが、Gerry Mulliganというジャズメンは、Pacific Jazzで売り出した後は、色んなレーベルを転々をしているので前者でボックスを作るのは難しいのです。まぁ、Verve時代が長かったかも知れませんが、こういうアンソロジーを作るとどうしてもゴッタ煮風に見えてしまいます。それぞれのレーベルには特色があって、ジャケットの雰囲気さえ違うのです。その点、すでに触れた「The Three Sounds」ならBlue Note盤で、「Ramsey Lewis」ならArgo盤で、ある程度の話が済むから、話は簡単なのと対照的なのです。
- ・・・と言っても、そこがRGJのように、パブリック・ドメイン音源を使ったボックス物の面白いところです。普通なら、レーベル横断を要するボックス物は、権利関係の手続きに手間がかかって面倒なのですが、パブリック・ドメインではそんな問題がありません。著作権問題での仁義切りが不要ですから、却って話が楽だということになるのです。ということでLP8枚分、CDで4枚が見開きボックスに入っていて980円という、このボックスの中身は以下の通りです。他のボックスとの差異が判るように原レーベル名を注記しておきますが、この情報は当然のことながらなのか、あるいは単に手抜きなのかは知りませんが、このボックス自体には表記されていません。
- Konitz Meets Mulligan (1953, Pacific Jazz)
- Gerry Nulligan Quartet - Pleyel Concert (1954, Vogue)
- Mulligan Meets Monk (1957, Riverside)
- Reunion (with Chet Baker) (1957, World Pacific)
- Getz Meets Mulligan in Hi Fi (1957, Verve)
- What Is there to Say (1959, CBS)
- Gerry Mulligan Meets Ben Webster (1959, Verve)
- Gerry Mulligan Meets Johnny Hodges (1959, Verve)
- この8枚で、58曲が収録されていて、初期のこの人を通覧できる良いボックス物です。Gerry Mulliganと言えば何よりもあのバリサクというでかい楽器でもたつきもなく(と言うのは言い過ぎで、どんな人でもアルトサックスと比べればやはり軽快さが足りませんが・・・といったところで一人だけ、James Carterという例外がいるのを思い出しました。)、ブッ太い音でバリバリ、ゴリゴリとやられると、NelsonはMでは無い(^^;のですが、正に爽快な気分になります。
- もう一つの、この人の特色は、他流試合というのか、双頭バンドのような形で、フロントで相手とヒッチャキのやり取りをして見せる盤が多くあります。上記したKonitz、Monk、Chet、Getz、Ben、Hodgesの他にも、Paul Desmond、Dave Brubeck、Zoot Sims、Art Farmer、Bob Brookmeyer等と、そして変わった所ではAstor Piazzollaとの共演盤も注目されました。更には、見た通りの白人、金髪で、行儀も良さそうな外見ですが、実は演奏するとスゴイのです。白人嫌いのマイルスとも仲が良いので判る通りに、型破りで、人見知りせずに、ドンドン相手の土俵の上で組んず解れつの戦になることを辞さない潔さが、ジャズっぽいというファンが多いのです。
「Illinois Jacquet」
- 「Illinois Jacquet」の盤は一杯あって、結構熱い人ですから、スタイルが結構古めかなとは思うものの、捨てがたい良さがあるので、一応は視野に入れてあります。でも、Nelsonのように本線モダンジャズ真っしぐらな輩にとっては、「全部聴く訳にも行かないし・・・」と困りますから、こういうアンソロジーは有らま欲しき存在です。上記写真の通りに、LP6枚分、CDで4枚が見開きボックスに入っていて、それが980円です。その6枚の中身は以下の通りです。どうやら2枚目は、枚数勘定には入れていないようです。
- Illinois Jacquet Collates (1954)
- Bonus Tracks from 'Jazz by Jacquet' (1954)
- The Kid and the Brute (1954)
- Groovin' with Jacquet (1954)
- Illinois Jacquet and His Tenor Saxophon (1956)
- Swings the Thing (1957)
- Illinois Jacquet Flies again (1958)
- この人は南部のルイジアナ生まれで、テキサスで育ったようで、最後はNYCに住んでいたようです。先年NYCにお登りさんをした時に、ハーレムの北にある墓地で、左掲のようなでっかい墓石を見つけました。傍にあるマイルス御大のお墓に引けを取らない威容でした。テキサス・テナーの一員に当るわけで、その立ち位置はEddie Lockjaw DavisやArnette Cobbの兄貴分というところでしょうか。歳を食っている分だけ貫禄はあるものの、スタイルはやはり少し古い。だからバラード物での出来は素晴らしいけど、音取りの引き出しがどうしても古めなので、モダンジャズとしてはちょっと食い足りません。この6枚+アルファで、54曲が収録されているのですが、フロント楽器なので少し演奏が長くなる分、曲数は少ないのでしょう。
- 人柄も悪くなかったようで、Clifford Jordan等も、この人を尊敬していると言っているのを聞きました。Roots/ Slide Hampton盤の2曲目に納められているMilles Davisの「Solar」のテイクで、演奏前にClifford Jordanが「Okay...I took my Illinois off.」と言っているのが、カットせずに収録されています。何トラックか録って来て、調子が出て来たClifford Jordanが、テープが回り始めてもマイクの前に戻ってきません。やっと戻って来たかと思うと、場の雰囲気が固いと気付いて、冗談好きな彼は当意即妙でこう言って、皆をクスクスと笑わせたのです。ジャズメン、特にサックス奏者同士なら直ぐにピンッと来る地口だったようで、Illinois Jacquetージャケットー上着という連想で、「ちょっち暑くなったから、イリノイを脱いで来たよ・・・」と言って、場が和んだようなのです。「制作者も、そういう彼の場を盛り立てる気遣いに感嘆して、その冗談をカットしなかった・・・」とライナー氏が書いています。ただし、色んなジャムセッションでのMCを聞いた限りでは、Jacquetの発音は「ジャケェ」と聞こえることが多いです。
「Nat Adderley」
- 「Nat Adderley」の盤が、パブリック・ドメインに結構あって、こういうアンソロジーになるとは、不覚にも思い至りませんでした・・・というのも、Adderley兄弟と言えば「Mercy, Mercy, Mercy!/ Julian Cannonball Adderley」という大ヒット作が有名で、それを出したのは確か60年代も半ばになってのことだという思いが強すぎたからでした。しかし、演奏者ナビを見直してみると、テキサスで名をなしてから、車のトランクに楽器を乗せて花のNYCに御上りさんをして、旗揚げを狙った頃の全米デビュー盤が、例の「Bohemia After Dark/ Kenny Clarke」盤で、それが出たのが55年ですから、こういうアンソロジーが編成できても全く不思議でない話だったのです。
- 55年頃にNYCでのデビューを果たしたAdderley兄弟は、当初は自前のバンドは持てずに、それぞれにピンで活動する時期が数年ありありました。ご存知のように、兄貴はコルトレーンの後を襲って、マイルス御大の黄金セクステットでフロントを張って、一挙に名前を売ったのでした。そういう実績を踏まえて兄弟バンドを組みましたが、最初は余りパッとせず仕舞いです。そしてやっと、本格的なデビューとなるヒット作として、59年に「The Cannonball Adderley Quintet in San Francisco」を出すのです。生まれも1931年で、ロリンズよりちょっとだけ若いという古株であり、その前のピンの頃の盤を集めれば、ボックス一箱位になって当然なわけです・・・ということで上記写真の通りに、LP8枚分、CDで4枚が見開きボックスに入っていて、それが980円です。その8枚の中身は以下の通りです。やはり長くお世話になったRiversidemのが多く、Jazzlandもその傍系レーベルです。
- That's Nat (1955, Savoy)
- Branching out (1958, Riverside)
- Introducing Nat Adderley (1955, Wing)
- The Ivy Leagers from Nat (1956, EmArcy)
- Much Brass (1959, Riverside)
- Work Song (1960, Riverside)
- Naturally! (1961, Jazzland)
- In the Bag (1962, Jazzland)
- この8枚で、64曲が収録されていて、管楽器奏者ですから彼がフロントを務めるインスト演奏ばかりです。当然ながらソロを取る人の数も多くなり、1曲の演奏時間も長いので、LP8枚に収録された演奏をたっぷりと聴ける良いボックス物です。
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