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一関ベィシー七訪記(1)
  • 10月中旬の週末に、青森、秋田、岩手と紅葉の名所を経巡って、ブナ、ダケカンバ、カエデ、ナナカマド等々の色付きを楽しんできました。そしてそのドライブの締めは、当然ながらベイシーとなる訳で、奥州市胆沢にある日本最大の円筒分水を見た所で電話をして、週初めの月曜ながら営業中であることを確認の上(^^;、1時間も経たぬうちに、恐らくは7回目になる訪問を果たしました。
    相変わらず居心地がいい店内で・・・
  • 「一関ベィシー」の菅原さんは、Nelsonの一コ上の1942年生まれと記憶しますが、まだまだお店の方はご隆盛で、今回行った時も結構なお客さんの入り具合でした。店の運営の統括に止まらず、オーディオ機器の調整、掛ける盤の選択、実際のLPの「演奏」に至る全ての面に神経を使っておられる様子にお変わりはありません。確かに、鼻眼鏡の頻度が増えているとか、立ち居振る舞いに年齢なりの貫録が付いたとかの変化があるにしても、音はこれまで通りのレベルをしっかり維持されています。訪問時は何かの打ち合わせに没頭されていましたが、耳で店内の音を絶えず確かめられているようで、盤の終わり近くになるとサッと席を立たれて、レコード室に入られます。オーディオ機器の後ろのレコード棚からおもむろに次の盤を選ぶと、もう1台のLinn LP12のターンテーブル上に盤を置かれます。盤の終わりに出てしまい勝ちな擦過音を微塵も出さないように、JBLのSG520のスライド・ヴォリュームを下まで押し下げて入力を切り替えてから、次の盤に針を落とし、再び(恐らくは当日の機器のご機嫌に合わせた)音量を最適なレベルにまで押し上げて行く・・・という手順は流れるようであり、何の乱れもありません。やってみた方はご存知でしょうが、店内の大部分の客が「次は何が掛かるのか?」と耳ダンボになっている中、毎回、毎回ミスすることなく、盤を交換するのは大変なことです。邪魔な音を少しも出さずに、タイミング良く音量を絞り、次の盤の開始溝に針を上手く流し入れると同時に、また適正な音量にサッと持って行く。出た音を確認しながら前の盤から針を上げて、それを中袋に入れてジャケットに収めた後、原位置に盤を戻し入れる・・・のを間違いなく繰り返すのは、御商売とは言え修練が要るのです。どんなに体調が悪くても、この基本動作を正確にやり続けなければならないから、気を使うものです。まぁ、行ってみて必ず開店しているとは限らない(^^;ので覚悟が要りますが、選曲、音、雰囲気等々に加えて、風格というか、「正しいジャズ喫茶」とは如何なるものかは、この盤交換の流れ一つ取ってみても良ーーく判る名店です。
    セット・リストは、、、
  • 店内に居た間に聴けた盤は、「Art Pepper Meets the Rhythm Section」「Kind of Blue/ Miles Davis」「Nina Simone at Newport」「1958: Paris Olympia/ Art Blakey」です。これらの盤を、盤交換の時に少し頭を傾けながら、棚をさぁーっと撫ぜつつ、すっと取り出して行った結果がこうなのです。ココでは、ウマいコーヒーを飲みつつこれらの盤を聴いていて、あれこれと思いをめぐらしたことの中、「選曲」と「音」について、思い出しながらメモします。
    選曲・・・と言うか選盤
  • どんな盤を聴く(聴かせる)のか、というのは、大切な話です。ジャズ喫茶に来る客には、やはり良いジャズを聴いて貰って、気持ち良くなって貰わないと、また来ては貰えません。ですから、やはり店で掛けるのは名盤、というか大名盤中心になります。上記セット・リストで言えば、最初の2枚がそれです。後の2枚は、名盤ではあってもマニア盤に近く、これ等が好きな人は結構居ますが、万人向けと迄は言えません。ジャズ喫茶では、この両者、名盤とマニア盤のバランスが大事です。「自分も良く知っている名盤を、ジャズ喫茶自慢の装置で聴いてみたい。」と言う希望を叶えることも大事ですが、この人はこんな良い演奏もするんだという出会いがある盤を聴かせることも大事です。
  • ここで大事なことは、「耳タコ盤だなぁ・・・」等と名盤を侮らないことです。このベイシーで、この良い音で・・・とまでは限定しませんが、これらの大名盤を繰り返し聴き込んで耳を訓練し、良い演奏を見極める耳を持つことです。「良くない」という言い方は間違っていると承知の上で言いますが、良くない演奏で耳を汚しては、イケナイのです。骨董屋さんの修業は、駄モノを排して、良いモノだけを見続けることだと言いますが、ジャズでもそれが当てはまります。優れた演奏を聴き込んで、耳を馴染ませておけば、自ずとジャズ耳が備わります。良い演奏を聴き続けること、コレが大事なのです。
  • あのメグのオジサンは、館山の名人、佐久間さんの掛ける盤がいつも決まり切った盤だから不満だと良く書いています。それは間違いです。佐久間さんは、オジサンのようにオーディオ機器をショップで買っては、直ぐに買い替える人ではありません。好きなジャズのイメージがしっかりとしていて、それが一番良く再生できると信じるアンプを自作する方です。狙いの出力管、佐久間さんの場合は大概は直熱管なのですが・・・その姿、形と規格表をためつ、眇めつ、色々と考えを巡らしながら、あの名盤を一番良く鳴らすには、前段の真空管に何を使うのが良いか、結合トランスは何を使うかと突き詰めて思案されます。その妥協の無さは、先ず誰もしないだろう「前段への出力管の採用」に如実に表れています。
  • そして、そのアンプを他人に聴かせる時には、絶えず念頭に置きながらそのアンプを作り上げた、その目標であるタッタ一枚の盤を掛けて、聴く人の反応を見たいのです。まぁ、百歩譲っても、そのアンプで再生したい盤は、多くても数枚の中から選ぶしかありません。出て来るだろうジャズの音を想定した上で回路図を書き、配線に気を付けながら組み上げたアンプなのですから、掛ける盤が限定されているのは当たり前です。その大名盤があったからこそ、そこまでの苦労をしてそのアンプを組み上げる気になったのです。翻って、同じことが我々一般のジャズファンにも言えます。我々も及ばずながら、名盤で耳を鍛えて置いた上で、更に自分好みの盤の探求に邁進すると言う道をたどるべきだと信じます。
  • まぁ、、、色々書けば長くなりますので、後半は、(2)に譲りました。今回の旅では、猟盤も忘れずにして来ました。そっちはまた後日、「猟盤日録」でメモします。

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