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「ジャズ喫茶ベイシーの選択」

  • 「ジャズ喫茶ベイシーの選択」 「ジャズ喫茶ベイシーの選択」は、一ノ関にあるジャズ喫茶ベイシーの御主人、菅原昭二さんがオーディオ誌「ステレオ・サウンド」に連載していた記事に加筆して、講談社から1993年に刊行された本です。菅原さんは早大ジャズ研でドラムスを叩いておられたそうで、渾名も「Swifty」だったと思います。そういう方が故郷に戻られてジャズ喫茶をやる傍らものした、ジャズ及びオーディオに関する随筆集です。ジャズのことが主題ですが、どちらかと言うと後者に重きがあるのかなぁ、と言う気もします。300ページ弱で、定価1600円でした。最近、文庫本が出たと聞きましたから、そちらなら入手容易と思われます。ジャズが好きなら、読んでおいて良い本だと思います。更に、菅原さんに関しては、Stick to your taste and be proud of it (NYからのメール)と、菅○さんの最近の言にもメモしております。
    編集意図
  • ジャズ喫茶ベイシーは、そのジャズの聞かせ方が秀逸であるとして、つとに有名ですが、その所以及びその周辺について、時に色んな場所に書かれていました。それを読んで、この人は文章の書ける人と見込んだのでしょう、「ステレオ・サウンド」が連載記事の執筆を依頼し、それが結構面白いので、長く続いています。そこで、当然単行本化が話に出るわけで、若干の加筆を加えて発売されたのが、もう10年近く前の事です。連載中も実に興味深く読んでいましたが、一冊の本として纏まった段階で読み直しても、実に良い随筆となっています。なお、連載記事は今も「聴く鏡」というニクイ題名で続いています。ジャズを良い音で聴きたい、かつ聞かせたいという視点からみたジャズにまつわる、及びジャズオーディオにまつわる色んな話題が出てきます。特にジャズオーディオに関するジャズ喫茶店主の苦闘の記録としては、一番まともで、しかも徹底した追及の様子が読み取れます。中でも菅原さん自身が、閉店後の孤独な作業の中で感得した、替え針へのこだわり、ケーブルの選択、密閉箱と部屋の容積の相関、電源、室内内装等にまつわる話は、少しこの関係に突っ込んだ人なら頷く事ばかりの鋭い示唆を含んでいます。
    ジャズ喫茶としてのベイシー
  • ジャズキチの友達が、ベイシーに行こうよ、と初めて言ったのが、もう20年以上は前の事です。花の東京に木馬、ファンキィ、DIG、ジニアス等々の名店がある中で、ベイシーは「みちのくにこの店あり」とその名が響き始めた頃です。その時は都合がつかず行けませんでしたが、その後、その訪問談を聞いて興味が沸き、数回は行っています。一ノ関の駅から歩いても10数分、地主町の橋の脇にあるその店は、昔の蔵を改造したものだそうで、区画整理か何かのために移転する前にも、した後にも行っていますが、癖の無い音響空間のようです。システムは記憶が正しければ、リンソンデックにSMEのアーム、シュアV15- Type3が不動の入り口で、それをアンティークもののJBLの石アンプで受けて、スピーカーはJBL。40センチ口径で130Aウーファーのプロ版2220が2発、中音が375にHL95という差し渡し2米近いレンズつきホーン、それに高音がお決まりの075、という構成です。これを、3チャンネルのマルチアンプで駆動されており、Channel DividerもJBL5230系のものです。最近はSACD等も入っているようですが、基本的にアナログ専門です。全体のバランスが良いのか、最初に聞いたときに「眼が覚めるような」素晴らしい音に感激しました。爾来、30年近く、その音を維持されており、そのレベルをキープされている事は驚嘆に値します。我々と違って、ジャズ喫茶は一年に350日以上(でしょう)、毎日10時間近く連続に音を出し続けて、人様からコーヒー代を頂く商売です。「調子が悪い」といって、開店時間中に直すなんて事はもっての他でしょう。お読みになれば判りますが、気になった所を閉店後いじり始め、「何とかなったかな」と思ったら、はや白々明け、なんて苦労があるのです。それを苦労と思っていたかどうかは、議論のあるところですが、、、
    マスターの苦労あるいは道楽
  • ジャズ喫茶は、一般家庭では聞けない良質な環境でジャズを聞かせることが生命線ですから、そのマスターは結構オーディオが好きな方が多いようです。その昔、SJ誌がオーディオ評論家に頼んで、当時入手可能な最高の機器群を色んなジャズ喫茶に持ち込ませ、その店の機器と勝負させる、という企画がありました。「オーディオ道場破り」とか呼ばれる企画だったのですが、細部まで知り尽くした自店での勝負と言う事もあったのでしょうが、多くの店主がそれなりに善戦されました。ベイシーは確か最初に、「免許皆伝」のお墨付きを軽く得た店の一つでした。確かに、1キロリットル近い密閉箱に入れた2発のウーファーは気持ち良く鳴っており、その箱の上に精妙な位置関係を試行錯誤の上設置された中音及び高音のホーンも迫力満点で、滅多に聞けない良い音を出していました。こう言うのを「眼福」になぞらえて「耳福」と言うのでしょうか。西条さんとかいうお坊さんが、「無事の音」という表現を使っていましたっけ。
    「なーるほど」
  • この本のジャズ、そしてオーディオに関する記述は、読むたびに「なーるほど」となり、またそこまで一人で追求し、しかもそのレベルを維持し続けた事には、敬意を払わずにはおれません。極たまに「僕んちの方が良いもん」と言う人も居るようですが、菅原さんは眉一つ動かさずに、こう言う筈です。「ある特定の一枚の再生に限れば、ヨソに負けるかもしれないネ。でも、百枚位かけて評価をすれば絶対に負けないョ。ジャズ喫茶は、どんな録音状態の盤もそれなりに良さを引き出すのが腕の見せ所なんだ。ジャズキチが自分の一番大好きな盤に焦点をあわせてシステムの調整をするのとは、話が違うんだ。」興味をもたれた方は、本書を是非お読みになるとともに、一ノ関の近くにいかれた時は、その本ノ丸を訪問されて、御自分の耳で菅原さんが30年以上もかけて作り上げられたシステムの音を、御賞味なさる事をお薦めしておきます。

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