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一関ベィシー七訪記(2)
  • 10月中旬の週末に、またまたベイシーに行ってきた話の後半です。前半は、ここにあります。
    LPの良さが身に染みる店の仕立てと、それを維持する努力の蓄積
  • ウマいコーヒーを飲みながら、いつも通りに良い音を聴いていると、大昔の本で、菅○さんが珍事として友人に報告した話を思い出しました。今時のCDと違って、アナログのLPは片面通しで掛けるのがジャズ喫茶の常道です。「なぁ、よぉ。この間、盤を表裏通しで聴こうと言う気になったんだよ。表を聴き終わって、盤をひっくり返して裏面を掛けたら、店のオンナの子が驚いたんだよ。えぇっ、レコードって裏からも音が出るんですかぁ、だとさ・・・世の中は遂にそうなったかとこっちも驚いたねぇ。」、「ンだ。恐ろしい世の中になったなぁ・・・もう、CDしか知らない奴が跋扈しているのよ。」と言うようなやり取りだったと記憶します。
  • もう一つ、思い出しました。ベイシーを最初に訪れた時のことです。この店の選曲は全部、完全にマスターが取り仕切っている、と言うことを知らずに、大胆にもリクェストをしてしまったことを思い出しました。丁度、店の客は僕一人だったので、リクェスト盤を掛けて貰おうか、と思ったのです。最初に、板橋文夫の名盤、「濤」が聴けますかと僕が言ったら、マスターは気の無い感じで「無いっ・・・」と答えました。そうか、余りポンニチのジャズメンは好きじゃないのかな、と思った僕は、菅○さんがタイコ屋さんだと言うことに気付いて、「Speak, Borther, Speak/ Max Roach」は聴けますかと聞き直したら、「良いよ。」と言う返事をもらいました。この盤は我が愛聴盤であり、カルテット4人の楽器が自室でどう鳴るかはしっかりと覚えています。だから、その演奏をこの店ではどんな音で聴かせて呉れるのか、が良く判ると思ったのでした。
    出て来る音・・・
  • 世にCDが跳梁・跋扈するのは、余り手間を掛けずとも、そこそこ良い音が出せるからです。時々汚れを拭き取ってやる位で、普段は放置していても良い音が出ます。しかし、ベイシーのような正統派のジャズ喫茶はLPの良さがウリで、CDは客に聴かせません。LP音源の維持は、ご存じのごとく、結構手間がかかります。先ずは、盤が反らないように正しく棚に並べることから始まって、静電気がホコリを引きつけるので、少し湿らせてホコリを拭ってやることが大事です。LPを酷使するジャズ喫茶では、半渇きのガーゼを清拭に使うのが基本で、盤面に異物を塗布すると経年劣化が起こることを嫌って、あまりスプレィ類は使いません。演奏に当っては、針で盤を傷付けないように上げ下ろしに注意が肝要ですし、演奏中は振動を与えないようにすべきです。CDだと出力が2Vもあるので、その気になれば直にメイン・アンプで鳴らせますが、LPをMCカートリッジで聴くとなれば、出力は0.2mV程度と1万分の一しかないので、精巧なイコライザーが必要です。こんなに手間がかかるのに、それでもLPに拘るのは、その音です。特にベイシーのようにLinn、Shure、JBLという優れたライン・アップで聴くLPの音には感嘆すべきものがあります。何しろ、スピーカーも構成、配置等に工夫を凝らした上でマルチアンプ駆動する、JBLの3ウェイなのですから。
  • 各楽器の音がナマかと思えるほどに迫力に満ちていますし、上記したNina Simoneの声だって生気に満ちています。音量が大きいのに、イヤな音が全くしないと同席したカミさんも驚いています。「音がブッ飛んで来るけど、ヒリ付かないし、耳に突き刺さらない。眼前でシンバルを引っ叩いているような迫力があるのに、耳が痛くなりはしない。」 無論、日頃からの適切な手入れの御蔭でしょうか・・・例えば曲間の溝ではどうしても聞こえてしまうプチッ、プチッという針音も殆どありません。初来店の方だと、LPじゃなく、CDが掛かっているのかと勘違いしてしまうくらいです。1時間に3、4枚は掛けるでしょうから、1時間置きくらいで鳴らさずに遊んでいる方のLinnに装着したShure V-15 MkIIIの針のホコリ落しをされている筈ですが、ジャズ喫茶ならではの2連装ターンテーブルでしょうから、お客さんにイヤな音を聞かせなくて済みます。掲示されるジャケットにもヘタレたものなど無く、国内盤のペラのジャケットでもしっかりと自立しています。
  • 誰もがこんな音で、そしてこんな雰囲気でジャズを聴きたいと思うだろう、そんな仕立てでジャズが聴けるのですから、国の内外からこのジャズ喫茶に聴きに来るお客さんが、途切れることはないのです。この店の造り(元は、土蔵だったとか)でジャズ喫茶をやるとして、今のような音を出し、維持するに当って、マスターが「オーディオの常識」と言われることを踏まえつつ、自分の耳で一つ、一つのことを確認しながら苦労を積み重ねられたことは、夙に有名です。例えば、当のメーカー社長から繰り返し懇願されても、ケースを使わずに裸のままでLinn LP12を使い続けておられること、また電線音頭(^^;が盛んだった頃には、マルチアンプなのでかなりの総延長になるSPケーブルを店内に引き回さざるを得ないことに心を砕き、種々の実験を繰り返した上で、やはり通常の電線を使い続けることにされたこと・・・など枚挙の暇もありません。
    それぞれの盤は・・・
  • 入店した時に既に掛かっていたのが、「Art Pepper Meets the Rhythm Section」でした。ベイシーさんはJBL375+HL95ですが、我が家のJBL376+2380で聴くよりは、少しPepperのアルトが中音が膨らんで聴こえます。これはこれで良いなぁ、と思える鳴りっぷりでした。「Kind of Blue/ Miles Davis」は、冒頭の「So What」の立ち上がりが少しもたつきますが、これはLPでなくともCDでもそう聴こえます。ColtraneとCannonballのサックスの音に迫力があります。この2枚は大名盤で、この店では週に何回も掛ける筈ですので、開店当時の盤は擦り切れてしまっている筈です。今聴かせているのは、何代目、と言うか何枚目かの盤に違いありません。「Nina Simone at Newport」は、冒頭の「Trouble in Mind」の出だしで、例の「パン、パーン」というNinaの呼びかけの声で始まりますから、マスターがまだジャケットを提示板に掛けていない段階でも、それと判ります。この盤は、NelsonがNinaの盤で一番最初に買った盤で、もう50年近い付き合いになります。「1958: Paris Olympia/ Art Blakey」は、かの有名な「サンジェルマンでの3枚組ライブ盤」と並ぶ58年もののライブ録音で、絶頂期のJazz Messengersの快調な演奏が楽しめました
  • 上掲の写真の黒椅子の背には、店名の由来であるベイシー楽団に集った著名なジャズメンの名前が貼り付けられています。今回座った席は、「Frank Foster」の名札が張ってあり、そこに日本人名が付記してあります。確かこの店の常連には、バンドの好きな面子の名前を付した椅子を持つ機会が与えられていて、その時には自分の名前を付記出来たんだと記憶します。更に、座った位置の左側の壁面はマスターが師事した野口久光氏の所蔵LPを収納した棚があります。ご家族の依頼もあって、マスターが受け継いで、ここにきれいに展示してあるのだと聞いています。
  • まぁ、、、色々と書くことはたくさんありますが、長くなり過ぎるのでこの辺にして置きます。今回の旅では、猟盤も忘れずにして来ました。そっちは、また後日メモします。

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