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リズムセクション (Rhythm Section)

  • リズムセクション(Rhythm Section)について、更に言えば次のようなことがあります。それにしても、「R」の後ろに、何故「h」が入るのでしょうか、昔っから不思議に思っています。
    リズムセクションの構成
  • Cool Struttin': from 'Cool Struttin'/ Sonny Clark'は、繰り返しになりますが、Art Farmer, tp、Jackie McLean, as、Sonny Clark, p、Paul Chambers, bそしてPhilly Joe Jones, dsという5人編成のクインテットでの演奏です。このうち最後の3人であるSonny Clark、Paul ChambersそしてPhilly Joe Jonesを、リズムセクションと称します。
    フロント、あるいはホーン・セクション
  • 管楽器を演奏する2人であるArt FarmerとJackie McLeanは、フロントとか、ホーン・セクションと呼ばれます。フロントは、冒頭の「Cool Struttin'」を聴けば直ぐ判るとおり、テーマの旋律をリードして提示し、普通はアドリブも最初に担当します。フロントというのは、恐らくステージで一番前に位置することからくるものかと思います。お分かりのように、大体がピアノが別格で横の方に位置し、ベースとドラムスはフロントの後ろに隠れてしまっているものです。フロントがテーマをやり、アドリブをしている間、後の3人がやっている仕事がリズムセクションの仕事です。無論、この3人もアドリブを取る場合があります。
    ギター
  • リズムギターという言葉があるように、モダンジャズ以前の時期では、ギターの役割が結構ありました。今でも、上記の3人に、ギターが加わった4人のリズムセクションというのも無くはありません。例えば、The Way You Look tonight: from 'Stan Getz Plays'等がその例です。リズムセクションの仕事のうちのコードによるサポートを、ピアノのDuke Jordan、ベースのBill Crowと共に,ギターのJimmy Raneyが受け持っています。よく聴けば判りますが、ベースは基本的に単音をピチカートで弾きます。ギターの方は単音も弾きますが、時に複音、つまりコード自体も弾きます。またベースよりギターの方が運指的に身軽であることを生かして、テナーの吹奏に対してギターが対位法的に動いたりして、演奏に深みを与えています。
    ピアノレス、ドラムスレス
  • また、ピアノが平均律楽器であることを嫌ってか、ピアノ無しのベース、ドラムスのリズムセクションを採用する行き方もあります。こういうのを、「ピアノレス編成」等と言います。たとえばSoftly as in a Morning Sunrise: from 'A Night at the Village Vanguard/ Sonny Rollins'が、その好例です。特にこの曲では、ベースのWilbur Wareが印象的なイントロを冒頭から20秒近くソロでやって、直ぐにRollinsがテーマを提示した後に、長いアドリブに入ります。Elvin Jonesのブラッシュが実に絶妙の合いの手を入れながら、Rollinsの火に油を注いでいきます。そしてその間、Wilbur Wareのベースは着実にピチカートを続けており、そのメロディラインが実に綺麗です。この曲の8分に及ぶ演奏から、ベースだけを抜き出して聴いてみても、立派に楽しめる内容になっているに違いありません。またGerry Mulligan/ Chet Bakerのヒットしたコンビも、この方式です。更に、ドラムスレスという方式もあります。一寸辺鄙な盤ですが、Free Spirit/ Ted Brownなんてのがあります。ところで、Cleopatra's Dream: from 'The Scene Changes, The Amazing Bud Powell Vol 5'は、典型的なピアノトリオ盤で、当然ながらピアノ、ベース、ドラムスというメンバーで演奏されます。こういう場合には、リズムセクションという言い方はしません。そういう意味で、ある演奏グループの一部が、グル−プのインフラとしてリズムを担当する場合に「リズムセクション」という用語を使うようです。
    役割分担
  • 基本的には、ドラムスがリズムを担当し、ピアノとベースは旋律楽器ですから、リズムに加えてコードを担当します。ただしこれは、あくまでも原則であり、現在のリズムセクションでは、ドラムスが基本リズムを離れたアクセント付けに掛かりっきりの時には、ピアノやベースが基本リズムをキープするとか、この3者間で役割を有機的にサポートしあいます。つまり、連携の良いリズムセクションの場合、ある人がその曲に深みを付けるために、本来の任務を放棄して色んな埒外の仕掛けを試み始めると、他の人はすかさずその人の代わりの役目をします。リズムセクションという名前があるのも、単に3人必要だよというような形式の問題ではなく、時に演奏のインフラの枠を超えてバンドに刺激と活気を与えるためには、いつも一緒に仕事をして、互いの良い所を引き出しあえるという結束が大事ということでもあるようです。超有名なTake Five: from 'Time Out/ Dave Brubeck'では、1分55秒からのJoe Morelloのドラムスのアドリブにおいて、色んな変拍子のアクセントを展開している場面で、ピアノのDave Brubeckが基本リズムを打ち続けています。実はピアノは「弾く」と表現するように、打楽器でもあるのです。この演奏は余り見かけない例外的な演奏と言ってもよく、ピアノが自分のアドリブ以外の部分では、終始リズムを打ち続けています。
    最低限の仕事
  • リズムセクションの仕事は、ソロイストが演奏するバックでリズムやコードをキープすることです。再びCool Struttin': from 'Cool Struttin'/ Sonny Clark'ですが、先ず、ドラムスとベースがリズムをやっていることは直ぐに判ります。時々、ピアノもアクセントを付ける弾き方をして、リズムの仕事に参加します。もう一つ、コード進行による曲ならば、音程を持っているピアノとベースが、リズムに乗りながらもテーマの各小節の進行に応じたコードを付けて行きます。ピアノの場合は、和音そのものを弾く事もありますし、分散させたアルペジオ(分散和音)で弾く事もあります。ベースは、単音を主体に弾きますから、アルペジオになります。これにも、はじくピチカートの場合と、弓で弾くアルコとがあります。いずれにしても、4分の4拍子だからといって、全音で均等に4個弾くというものではなく、シンコペートして(均等な強さではなく、強弱をつけること)弾きます。このCool Struttin'の場合、特にイントロは無く、フロントがテーマを提示しているのを、リズムセクションがサポートしていきます。Sonny Clarkは、コードの音を中心にフィルインのような形で、フロントに合いの手を入れていきます。これを、コンピングとも言います。Paul Chambersは、ほぼ完全にウォーキング・ベースの形で、コードの音を押さえながらも、そのリズムは堅実です。特にどこがどうだということが無いようで居て、そこここでベースの音が効いて大きく聞こえるのは、押さえている音がピッタリだからに他なりません、そしてPhilly Joe Jonesですが、柔らかいタッチのスティックで、シンバルを中心にリズムを刻んでいます。この3人でやっていることが、リズムセクションの典型的な役割と言って良いでしょう。(この辺は、聴く時にフィーチュァされている楽器を漫然と聞くのではなく、それに捕らわれずに特定の楽器だけを集中して聴く癖を付ければ、よく聞き取れるようになります。)一般的な演奏では、テーマを先ず提示し、次に何人かが複数のコーラスにわたってアドリブをして、最後にテーマの再提示で終わりとなりますから、その回数だけ曲のコード進行が繰り返されることとなり、同じことを繰り返したり、あるいは少し変化を付けたりして行きます。これが最低限の仕事です。
    疲れる、かも
  • 演奏中には、リズムセクションは休めません。フロントは、テーマと自分のアドリブをこなせば、後は遊べます。Miles Davisが「俺がいると、聴衆は俺にばかり注目するから、アドリブが済んだら俺は引っ込むんだ」と言って居なくなりますが、それはフロントだからできることなのです。Charles Mingusも同じくバンドリーダーですが、彼はリズムセクションの一員です。だから、舞台を下りることが無いどころか、演奏中はいつもベースを弾いているのです。そりゃぁ、疲れるはずです。世に「籠に乗る人、担ぐ人、その又草鞋を作る人」と言います。リズムセクションはインフラですから、少なくとも 「籠に乗る人」ではないようです。
    望ましい守備範囲
  • 最低限の仕事をするだけでは、リズムセクションは、一人前ではありません。先ずリズムの側面では、通常の4拍子のように、2と4をシンコペートするだけでは、どうしても演奏が単調になります。曲想、あるいは特定の曲にあわせて、独特のリズムパターンが使われることもあります。The Sidewinder: from 'The Sidewinder/ Lee Morgan'でのロックのビート、Ole: from 'Ole/ John Coltrane'のスパニッシュリズム、その他にボサノヴァ等々があります。またTake Five: from 'Time Out/ Dave Brubeck'のような変拍子もリズムセクションの働きが目立ちます。次にドラムスのやる「オカズ」、即ち、演奏を盛り上げるために、ソロの切れ目などで特徴的なドラムの打音を突っ込む事もあります。Art BlakeyがA Night at Birdland/ Art Blakey'のA Night in Tunisia等で、色んなオカズを入れてソロイストを鼓舞したことは有名です。Watermelon Man: from 'Takin' off/ Herbie Hancock'の特徴的なリズムも典型的です。次に、コード関係です。コード進行をサポートするだけでは、最低限の仕事でしかありません。もう少し、ソロイストを刺激するには、リズムパターンを工夫したり、意表を突く音をはさみます。同じ「枯葉」をやっても、ディキシー、スィング、バップ、ハードバップ、その後と演奏の感じが違うのは、一つにはこのコード関係の仕掛けのせいもあるようです。ジャズメンも変化を求めるし、聴く方も「いつも似たような演奏じゃなぁ」と変化を好みます。
    「アウトする」
  • 昔はそうでもなかったようですが、今は、この和音関係が相当に複雑になってきています。これを「アウトする」とよく言いますが、「通常のコードの枠組みの外に出る」という感じでしょうか。そのために、コードの基本和音を更に拡張した9次、11次の和音も動員したり、さらには類縁和音を挿入したりして、味付けをし、またソロイストを鼓舞し、刺激するスタイルが定着しています。確かにHerbie Hancock等のそういう手管を見ていると、想像力、あるいは創造力というものの素晴らしさを感じざるを得ません。あるいは、幻視者としてのBill Evansの魅力の秘密も、この辺にありそうです。これはまた、Ron Carterの押さえる和音、というか音群にも言えることのようです。極端な場合、全然関係の無い和音の音を突っ込む場合もあるようですが、それも含めて巧くやると、実に新鮮な感じがするのは確かのようです。余り定跡どおりではなく、といってメチャクチャでも無くという、その按配が大事なようです。更に今のジャズでは、モード関係のことも出てきますので、もう少し説明が違ってきますが、専門家じゃァ無いんだから、余り楽理ばっかウダウダ言うのもどうかと感じます。いずれにしても、その辺が今様では、リズムセクションの望ましい守備範囲に入ります。
    「All American Rhythm Section」
  • ついでに、All American Rhythm Sectionのことにも触れるべきでしょう。このAll American、、、という言い方は、バスケットボール等の全米ベストメンバーに使う表現です。だから、All American Rhythm Sectionというのも、全米最強のリズムセクションということなんです。Count Basieバンドのリズムセクションが余りにも完成度が高く、また長く安定した活動をしていたので、誰ということなくこういう表現が定着することになったんだと思います。この場合、具体的には、Coun Basie、Walter Page、Freddie GreeneそしてJo Jonesという、ギター入りリズムセクションだと思います。文句の付けようが無い、最高のメンバーです。そしてMiles Davisが50年代に不動のクインテットで活動し始めると、そのリズムセクションを「All American Rhythm Sectionの再来」だと、言うようになったようです。このクインテットも、Count Basieバンドと同様に全米のジャズファンから、等しく愛されたからでしょう。確かに、Red Garland、Paul ChambersそしてPhilly Joe Jonesという面子は、当時最強であり、今聴いてもスゴイ面子だと思います。この組み合わせで実に多くの名盤が生まれた訳です。特に、マイルスの仕事ではない時にも、この連中は良い仕事をしました。それが、Art Pepper Meets the Rhythm Sectionなわけで、御承知のように「The Rhythm Section」という言い方も「All American Rhythm Section」と同様に、「唯一無二の」という尊敬用語です。モードの頃になって、Wynton Kelly、Paul ChambersそしてJimmie Cobbという組み合わせになっても、All American Rhythm Sectionという敬称は、この面子が持っていました。又奇しくも、Getting together/ Art Pepperという盤で、Art Pepper Meets the Rhythm Sectionに続く、新しいAll American Rhythm Sectionとの共演が録音されています。そして、Herbie Hancock、Ron CarterそしてTony Williamsも同様に抜群の技量を持つリズムセクションでしたが、この頃からはあまりこの表現を使わなくなったような気がします。同様に、McCoy Tyner、Jimmy GarrisonそしてElvin Joensという組み合わせも、技量抜群であり、長く安定した活動をしましたが、やはりAll American Rhythm Sectionとは余り言わなかったかな、と思います。繰り返しになりますが、All American Rhythm Sectionとは、所属バンド及びリズムセクション自体の完成度が高く、また長く安定した活動をしていたものに与えられる栄光の称号というわけです。

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