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新たな地平を切り開いていった後期のArt Pepper (2)
  • コレを聴きつつ読むと、きっと和める筈です。
  • Art Pepper「Blues for the Fisherman」盤を聴いたのが切っ掛けとなって、彼を影になり、日向になり支え続けたLaurie Peppe夫人についてメモを書き始めています。前回のメモはここにあります。
    Laurie PepperがArt Pepperの私家録音制作に手を染めたのは・・・
  • そのLaurieがArtの逝去後に、精力的にと言って良い程の勢いで1980年頃以降のArtの私家録音を、「Art Pepper: Unreleased Art」と題して出し始めまして、今ではそれが下掲のように無視しえない程の量と質を持つに至っています。



    (現時点で9巻にまで及んでいる「Art Pepper: Unreleased Art」。)

    シナノンでの療養中から彼と行動を共にしていたLaurieは、退所後の音楽活動にも同行して彼のジャズが再び世に受け入れられていく様子を眼にして、彼が薬禍から抜け出そうとするのを支援し続けました。そんな中でLaurieは、レコード会社の連中、Fisherman氏、我らが妙中氏等がArt Pepperの盤を録音し、それを発売していく制作作業を目の当たりにして感ずるところがあったようです。その辺は別途、後にもう少し詳しくメモしますが、ここでは彼女がそれ以来取り組み続けて来た「Art Pepper: Unreleased Art」の現在の姿を眺めてみます。
    Arthur Pepper Music Corp., BMI
  • Laurieが手掛けた「Art Pepper: Unreleased Art」は、Arthur Pepper Music社名義で発売されています。録音、マスタリング以外にも何らかのプロの手が入ってるんでしょうが、素人くさい所も色々と見受けられます。先ずシリーズ名ですが、本題のほかにも「Widow's Taste」とか、「Art Pepper History Project」とか紛らわしい表現があります。主たるサイト名も、「http://artpepper.net」なのか、「www.straightlife.info」なのか統一されていません。ジャケット・デザインはド素人のLaurieが見よう見まねでやったらしく、整理・統一されていないフレーズと素人写真がゴテゴテと並んでいます。伝えたい気持ちの高ぶりは理解できますが、それ等を雑然と詰め込んだだけで、大掴みに「コレ」と訴えかけてくる力に欠けます。CD番号に至っては、巻数番号の順序ではないマカ不思議な数字が並んでいる始末です。コレで内容がヒドければ誰も買わないのでしょうが、そこはそれ、Art Pepperのやるジャズですから、容器のことはさて置いて、中身が大事だと言う気に直ぐなります。取り敢えずどんなライブ録音が発掘されているのかを、以下の通りに列挙します。
    大雑把に見ていくと・・・
    1. Unreleased Art: Vol.1: The Complete Abashiri Concert (APMC-06001, 2CD)
      1981年11月22日に網走市民会館で行われた、最後の来日コンサートを収録した2枚組。録音も悪くなく、アートのアルトの音色がハッキリと捉えられています。彼の死のおよそ半年前に日本で行われた、充実のライヴ録音。
      Art Pepper(as), George Cables(p), David Williams(b), Carl Burnett(ds), 1981/11/22.
    2. Unreleased Art: Vol.2: The Last Concert (APMC-07001)
      アート・ペッパーの最後のコンサートとなった1982年5月30日、ワシンドンでの「KOOL JAZZ FESTIVAL」での録音。この約2週間後に亡くなるアートの最後の輝きが収められています。
      ART PEPPER(as,cl), Roger Kellaway(p), David Williams(b), Carl Burnett(ds), 1982/05/30.
    3. Unreleased Art: Vol.3: The Croydon Concert (APMC-08001, 2CD)
      復帰後のペッパーを支えた黄金のリズムセクションを従えた1981年の3週間にわたる訪欧ツアー中の英国ライブ。国内盤で発売された「ロンドン・ライヴ 1980」に次ぐ録音で、ジャズファンクで幕開けする。
      Art Pepper(as), Milcho Leviev(p), Bob Magnusson(b), Carl Burnett(ds), 1981/05/14.
    4. Unreleased Art Vol 4 : The Art History Project (APMC-09001, 3CD)
      ペッパーの貴重音源をまとめて発表した、マニアにはたまらないであろう企画。20ページのブックレット、めったに見ることの出来ない写真なども掲載。Vol.1は、主にウェスト・コースト時代、Vol.2 は、主にリハーサル音源を集めたもの、Vol.3が、ほぼ後期に当てられていて、山形でのギグ、西海岸・東海岸でのギグの詰め合わせ
      面子や録音時期は雑多で、とてもここには書き切れません。
    5. Unreleased Art Vol.5: Stuttgart May 25, 1981 (APMC-10001)
      未発表音源集待望の第5弾は、シュトゥットガルトにおける81年のライブ音源。
      Art Pepper(as), Milcho Leviev(p), Bob Magnusson(b), Carl Burnett(ds), 1981/05/25.
    6. Unreleased Art Vol.6 : Blues for the Fisherman (4CD)
      1980年にRonnie Scoot'sにて行われた伝説的なライヴ、「Blues for the Fisherman」盤(後日詳述の予定)レコーディング・ギグ時の録音全部を余す所なく完全に収録した4枚組セット。この録音のために立ち上げた「Mole」の初発売盤がコレで、長い間マニア間で高評価を受けていた。ほとんど私家制作盤に近いが、一応はプロフェッショナルが録音した元テープを丁寧にリマスターしている。全25曲の演奏に加えて、今となっては貴重なご本人の肉声が聞けるMCや、インタビューが15トラック分も収録。24ページのブックレット付き。
      Art Pepper(as), Milcho Leviev(p), Tony Dumas(b), Carl Burnett(ds);Originally Recorded By Mole Jazz, live at Ronnie Scott's, London, 1980/06/27,28.
    7. Unreleased Art Pepper Vol.7: Sankei Hall, Osaka
      1980年大阪産経ホールでのライヴ
      Art Pepper(as, cl), George Cables(p), David Williams(b), Carl Burnett(ds), 1980/11/18.
    8. Unreleased Art Vol.8: Live At The Winery, September 6, 1976
      アート・ペッパーがスミス・ドブソンと共演した1976年のライブ。カリフォルニアの「The Winery」と呼ばれる会場で行われた「ラバー・デイ・ジャズ・フェスティヴァル」で秘蔵ライヴ録音
      Art Pepper (as), Smith Dobson (p), Jim Nichols (b), Brad Bilhorn (ds); Live at the Winery, 1976/09/06.
    9. Unreleased Art Vol.9: Art Pepper and Warne Marsh At Donte's, 1974
      西海岸の「ドンテ」で、クール派の名手ウォーン・マーシュを迎えてのライブ。
      Art Pepper (as), Warne Marsh (ts), Mark Levine (p), John Heard (b), Lew Malin (ds) and Bill Mays (p Disc 3, 4), 1974/04/26.
  • ・・・とまぁ、現時点でこのシリーズはここまで発展してきたのです。Laurieは、右も左も判らなかったレコード制作の世界に踏み込もうと考えて以来、既存レーベルに乗っかって色々と手伝って貰いながら良さ気な録音テープを見付けては発売していく過程で、そのやり方を覚えて行ったのに違いありません。
  • 音源自体は、シナノン退所以来Artと行動を共にし続けていたので、ライン録りも含めてほぼ全部のギグの録音を溜めていたのであれば、まだまだあるに違いありません。中にはボーヤが手持ちのDATで隠し録りしたなんてのも混じっていますが、どこやらの倉庫のゴミを拾ってきた物とは格段に違う最低限の音質が保持されているのも、毎回一定の売り上げがあってシリーズの中断にはならない所以でしょう。
  • その辺は、既に多くの先達の伴侶・家族達がしていたのを見習ってはどうか、というArtやその関係者からの助言を活かしたに違いありません。ジャズメンの遺族が良くやる「○○財団(Estate)」や遺作レーベルの発足と言う道を辿るのは、亡きジャズメンをいつまでも覚えていて欲しいと言うこともあり、また生活費をひねり出すという下世話ではあっても、無視しえない「身過ぎ、世過ぎ」の面もあると言います。しかし、Laurie自身のレーベル、「Widow's Taste」の出来は見過ごしにできない程立派であり、ご本人の苦労もかなりのもの違いありません。
  • ・・・とここで、このメモは仕上がりとします。次回は、「Blues for the Fisherman」盤にまつわる面白い逸話を紹介します。

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