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John Coltraneの「The Complete 1961 Village Vanguard Recordings」
(1):現代モダンジャズの原点


  • 世の中に箱物は一杯ありますが、今回、5回にわたるメモで採り上げるJohn Coltraneによる「The Complete 1961 Village Vanguard Recordings」の完全版、4枚組ボックス程の大傑作は、他にはありません。この箱物に収録されたジャズは、結果的に、その後のモダンジャズの姿を方向付けた、ジャズ史に燦然と輝く金字塔的な作品となりました。それだけにファンの人気も高く、最初にオリジナル盤の2枚が出てから完全版が出るまでに、結局40年近くがかかり、それなりの紆余曲折がありました。VV61inner01
    (情報量もたっぷりの、50ページ近いInner Booklet)
    「金字塔的な箱物」
  • この4枚組ボックスは、およそこの人のジャズを理解しようとするのであれば(そしてそれが現代のモダンジャズの根っ子の理解につながるのがこの人の偉大さに他ならないのですが、、)先ず何よりもこの箱物を繰り返し聴くべきだという程に、比類無きマイルストーンです。第一に、Coltraneがリーダーとして独立して以来、その演奏活動の基本に置いた黄金(Classic)カルテットでの演奏の目指す所がここに示されています(後述)。第二に、それまでのモダンジャズから脱皮して新しい、彼らしいジャズの世界を切り開いて行く意欲を起こさせた、アルト奏者のEric Dolphyとの出会いが記録されている点も大事です(コレも後述)。第三に、実態がどうであったかは別として、この箱物と、それに続く彼の作品によって、新生レーベルである「Impulse」は、事業を軌道に乗せることができ、Blue Note、Riverside、Contemporary等々のジャズの大レーベルを凌駕するまでの存在感を持つに至ったのです。
    「Village Vanguard」での5日間のギグ
  • そういう意義を持つこの箱物は、1961年11月の朔日から5日までのVillage Vanguardでのギグを完全収録したものです。巷の熱心なファンの間で「完全ヴィレヴァン」と呼ばれるのは、そのギグの全てを演奏された順に収録しているからであり、またファンとしてはそれまで5種の盤にバラバラに収録されていたものを漏れなく、一手間で全部聞ける喜びを表している、と言っても良い筈です。というのも、このギグは当初、「Live At The Village Vanguard」(A 10、1962)と「Impressions」(A 42、1963)とが出されただけで、十数年が経過していたのです。しかしこの2作のファンや評論家による評価が高く、また実際にライブに行った人からは5日間のギグなんだから、残りテープがもっとある筈だと突かれでもしたんでしょうか、「The Other Village Vanguard Tapes」2枚組(1977)、「Trane's Modes」2枚組(1979)、「From The Original Master Tapes(1985)と出て、とどのつまりは全部をこの箱物にして、1997年に出す羽目になったのです。
    Evansにも「完全ヴィレヴァン」あり
  • 面白いことに、Bill Evansも同じこの年の6月に1週間のギグを、コレも同じVillage Vanguardで、一本立ちしてから初めてに近い自己のトリオのギグをやっています。そして、その最後の2日分のライブ録音から、同様に出世作となる「Waltz for Debby」他の盤を出していました。同様にこれらの盤も人気盤となり、残りテープから「The Village Vanguard Sessions」(M 47002)という2枚組(Twofer)を出す羽目になりました。そしてやはり同じく2002年になって、それらをまとめ上げた「完全版」がCD3枚組で出ています。ですから、Evansの偉大さを考慮に入れれば、こっちも「完全ヴィレヴァン」と呼んでおかしくはない訳です。ただしこの両者、つまりColtraneとEvansのケースには、違う点もあります。それが原制作者の役割です。「Waltz for Debby」は、このギグの全テープから制作者であるOrrin Keepnews(Evansは敬愛するこの人の名前のアナグラムで、例の「Re Person I Knew」という曲名を付けています)が卓抜したアイデァで、精妙に各トラックを選び出し、配列して、名盤に作り上げて発売したのです。Nelsonには、「Live At The Village Vanguardと「Impressions」には、制作者Bob Thieleの意思がそれほど顕著ではないと考えています、、、というか、Coltraneの方は制作者が頭を捻ねらなくても、素材のままで名演であることが明らかだったのでしょう。それでも、同じ61年に、偉人の出世作が同じクラブのライブ盤から生まれているのは、奇遇としか言いようがありません。これらの経験を踏まえて、その後は、完全版は演奏順にして出すというスタイルが定着したように感じます。

    (長くなるので一旦ここで切って、続編の「Classic Quartet」に続けます。)

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