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ジャズオーディオ・ウェイク・アップ(山口孝)

  • 「ジャズオーディオ・ウェイク・アップ」「ジャズオーディオ・ウェイク・アップ」は、誠文堂新光社がつい最近、平成16年9月に刊行した本です。この出版社さんは、ご承知のとおり、「MJ 無線と実験」という専門誌を長く出し続けておられる老舗です。パラパラと頁を繰ってみると、その技術志向の本屋さんにしては、本の中身が音楽よりで、一寸今まで無かった攻め方のようですから、買ってみました。一読した結論から先に言っておくと、この本程に、ジャズにおける「音出し」にこだわった本は、今まで読んだことはありません。その意味で、「じっくり読んでみる価値があるなぁ。」と感じ紹介することにしました
    パラゴン使い
  • 山口さんは、パラゴン使いで有名です。JBLパラゴンはステレオ初期に出たいわゆる名器で、一つの躯体の中に左右両チャンネルのユニットを組み込んだ上に、両チャンネルの音が躯体の真中にある太鼓状の反射板で巧妙に反射・拡散されるという仕組みになっています。今の感覚で言えば、「ちょっと古いし、モノ臭いし、、、」というところでしょうが、例えば吉祥寺の某店で聴いた記憶からすると、決してダンゴになってしまわずに音像が作られ、しかもそれがブッ飛んでくる迫力はかなりのものでした。山口さんはそれを大事に使い込んで、得も言われぬ再生にまで追い込んでおられるということです。たしか躯体の数十センチ傍までにじり寄って安坐して、恐らくは睨み付けながら聴くという異端に近い聴き方ですが、そのセッティングで聴いた人は撃たれて帰ると言います。
    本書の狙いは、、、
  • この出版社さんの得意分野は、音楽を取り上げるにしても、その切り口はオーディオであり、金田式DCアンプや、OTL本など、出される本はメカメカしています。それはそれで結構なんですが、こういう切り口で行くと、音楽、例えばジャズのソフト自体の扱いはおざなりになります。それは、そういう出版社さんですから、仕方ありません。でも、我々市井人は、音楽を聞くために仕方なくオーディオをいじっているわけです。ポンと置いて万全の音が出るようにオーディオが完成されたものであれば、ポン置きで済ませてしまって、兎に角早く音楽に没頭したいのです。でも、残念ながら現状はそうではありません。機器をつなぐケーブルを代えると、理屈では説明不可能(^^;だけど、現に音が変わるという程度の未熟な段階にしか、ありません。「一定の音楽志向を持った人にとって、メカから攻めるには相当の根性が必要である。」と日頃から洩らしている山口さんに、新編集長さんが同感して、「どういう音でソフトを聴きたいのか、山口さんの場合では、どういう風にジャズを鳴らしたいのか。」という観点からオーディオに取り組む本を出そうということになったようです。
    先ずは、腰巻から、、、
  • 「ジャズのレコードは、こう聴けばよかった!!、ギターは「鬼のピッキング」、ベースは「肺腑をえぐるビート」、改めてオーディオの素晴らしさを実感する。」って、ホントかね。更に裏表紙でも、「ジャズオーディオとは、時空を超えて直接音の魂に触れることだ。私はレコード再生に生演奏を超えるジャズの感動を求めている。」なんだそうです、ハイ。
    主たる内容
  • この本の主たる内容は、楽器別のオーディオ勘どころと、6人の愛好家とのオーディオ談義とに大別でき、章立ては以下のとおりです。
    • ジャズオーディオとは
    • トランペット
    • ジャズ喫茶「CANDY」林氏
    • ギター
    • ダイナミック・オーディオ厚木氏
    • ドラムス
    • 評論家亀山氏
    • ベース
    • 音楽愛好家原氏
    • ピアノ
    • レイ・オーデイオ木下氏
    • サックス
    • 一関ベィシー菅原氏 (これはジャズ談義ではなく、以前に我がサイトで紹介したことがある「音の力」という菅原氏の名文を再掲したものです。)

    楽器の音色
  • 山口さんは、この本の中で、「ジャズメンの本質は、楽器の音色に全て出てしまうものだ。」というテーゼを果敢にも打ち出しておられます。そして、そうであるとするのであれば、「ジャズ・ファンたるものは、ジャズの演奏というか、個別の楽器の的確な再生に一生を捧げるべきだ。楽器の音から、そのジャズメンの人となりが浮かび上がる、そういう再生を目指すべきだ。」という主張です。Nelsonも、ジャズの文体論において、ジャズの演奏とフレーズ、更にはそれが奏でられる楽器の音色には、文学における文体論と同様に、実は深い関連があるとメモした覚えがあります。その両者が密接な関係にあることは、少しジャズを聴き付けておれば、まぁ、気付くことです。ですから、山口さんのように「一生を捧げる」ほど徹底してはいないものの、Nelsonも「音出し」の大事さは認識しているので、納得できる部分が多くありました。
    寸鉄、人を刺す
  • 当然ながら、ジャズというものは、著者が特筆大書する「音出し」というか、「音色」だけの世界ではありません。俯瞰して見れば、ジャズには選曲、アレンジ、アドリブ展開、インタープレィなどといった他にも重要な要素があります。山口さんは、それは百も承知の上なのです。その上で、ここまで「音出し」にこだわった本を出す意義があると考えられたのでしょう。そして、その狙いは、「寸鉄、人を刺す」という言葉どおりに、ある意味で極論ではありますが、耳を傾けるべき重さを持っています。つまり、言ってみれば、「この本自体がジャズに他なら無い。」のです。

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