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岩崎千明さんの大音響、細密画そしてデジタル時代

  • この頃年をとったせいがあるのか、ないのか、時に大音響でジャズを聞いてしまうというお話です。
    岩崎千明さんの大音響
  • 岩崎さんは、もう亡くなられてかなりになる「オーディオ評論家」です。恐らく一番古い世代が青木周蔵、高城重躬、池田圭さんあたりで、その次が今長老である菅野、井上さんとこれも亡くなられている山中、長島、瀬川さんらで、岩崎さんはその次くらいの世代でしょうか。ステサン、スィングジャーナルなどにJBL主体の記事を書かれ、多様なシステムを使い分ける中で、JBLユニットの自作組み込みも推奨されていました。中央線沿線小金井の自宅の他、ジャズ喫茶もやられていましたが、兎に角大音響で鳴らした方であり、一関の菅原さん、現役評論家の朝沼さん等がビックリするとともに、恐らく薫陶も受けられたと思われます。余りの大音響試聴で、タンノイのウェストミンスターを焼いてしまったのも、たしかこの菅原・朝沼の二人でしたよねぇ
    何故、大音響か
  • 大音響については、色々な見方があります。良い環境では大音量は必要でない、むしろ部屋自体が音のエネルギーで飽和してしまい、反響で埋め尽くされるのはマズイ、という人もいます。一方、小さなハコで演奏者を目前にするライヴ環境に親しんだ人は、原音自体が飽和感を伴っており、音が充満し、耳を聾することに違和感はありません。目から火花が出るシンバルの強打を間近で聴くことが、苦痛どころか病み付きになっている人が結構いるものです。これは聴く音楽、住宅騒音、遮音環境や、原体験とが絡んだ問題のようです。器楽曲、中南米音楽、ウェスタン、(凶悪な)フリージャズやビッグバンドでは、当然聴き方が違うので、意見が異なるのも当然でしょう。ここではジャズの話しですが、そのジャズでもいつも大音響が必要とは思われませんが、一方情けない程の小音量では楽しめないジャズもあります。人それぞれでしょう。大音響派の雄、岩崎さんは、「演奏の細部まで聞き取りたいので、どうしても聴取レベルが高くなってしまう。」と言われています。これに対して、中堅評論家で木下モニターを愛好するジャズ大音響派の一人は、デジタル技術の進歩でノイズレベルが下がり、昔程の(どの程度かは不明(^^;)大音響を必要としなくなったと述懐しています。
    演奏の細部
  • 環境が大音響を許容する場合に、ヴォリュームを上げると確かに微小音が聞こえてきます。そしてその時に、最強奏も同じ尺度で、微塵の揺るぎも無く聞こえるシステムであると、相当に興奮します。しかも、それは現実のライヴでは経験できない状況です。つまり演奏の進行にしたがって、ホーンの吹き出し口、その次はピアノの本体の中の弦の傍、そして遂にはBドラやハイハットの間近に顔を置く、というような現実には有りえない聴き方が実現できます。そして、そうする間にも、別の楽器の合いの手の音もしっかり聞き逃すことはない、そういう世界です。これは、現実ではなく架空の、オーディオならではの独自の世界です。今や手垢に汚れ始めた用語である「レコード演奏家」の世界はこういうものだと思われます。この手の非現実密着聴取のことは、何を聴こうとするのかや、音像と、音場とでも触れました。結構大きなサイズでありながら、面相筆で動物の毛、一本一本を克明に書き込んだ細密画を鑑賞した時の驚愕の世界に似たものがそこにはあります。すなわち、微細な音と最強音とが渾然一体となって眼前に髣髴するのです。
    Nelsonの場合
  • いつもではありませんが、たまにNelsonも上記したような大音響で再生することがあります。雨戸をしっかり閉め、丁度良いと思っている程度にカーテンを巡らして、ヴォリュームを徐々に上げて行きます。お気に入りの演奏が、いつもと違った佇まいで、あるいはえもいわれぬ衝撃を以って迫り来るのです。この世界では、ステージで行われる演奏を聴くというよりも、ライヴ等の演奏の真っ只中に飛び込むと言う感じがして、正に「ドップリとジャズに浸る」ことが出来ます。色んなことを忘れて、ジャズだけ、という世界です。あまり長くやると、御近所から文句が来るかもしれないので、自制しますが、これが格別の世界であることに間違いありません。(陰の声ーこれってアンタが親しんだジャズ喫茶に近づきたい、というだけのことじゃないの)
    デジタルの世界
  • アナログの世界では、LPならばやはりスクラッチ音が恐いですし、テープはオープンでもカセットでも、ヒスがあり、やはりワウフラが若干残りました。しかし、デジタル、といってもNelsonの場合はまだCDでしかなく、SACD、DVD-Audio、MD、DATなどは持っていませんが、この世界ではノイズのことを気にする機会がグッと減りました。今までノイズに埋もれていた音が、くっきりと聞こえるのです。許される限界までヴォリュームを上げて最強奏音の再生をすれば、微細音も相当に明瞭に再生できます。この時に当然必要なことは、最強奏でも決して腰砕けせず、根を上げず、大音響に耐えるスピーカーと、パワーアンプです。割れた大きな音は耳に悪いだけでなく、スピーカーユニットを破損する場合もあります。何とか大音量に耐えるシステムを工面し、部屋もある程度大きい音が出せるようにしたいものです。Dynamic Rangeが飛躍的に拡大した、こういう新しい世界が楽しめるようになったのですから、時に大音響ジャズ再生の世界を垣間見るのも一興ではないでしょうか。
    蛇足
  • メディアが、いつも通り米国から数年遅らして、5チャンネル再生の鐘を叩き出したようです。またやってる、という感じです。そんな雑音に惑わされず、ジャズを楽しむと言うことに軸足をしっかり置いて、文明としてではなく、文化としてジャズを楽しんで行きたいと思う今日このごろです。

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