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今様オーディオと「角を矯めて牛を殺す」
  • 今様オーディオは、昔のオーディオよりもズーッと広帯域、高忠実再生が可能だというけど、「角を矯めて牛を殺す」面もある気がする、というお話です。
    アンティーク・オーディオ
  • 昔のオーディオ、とりわけアンティーク・オーディオといえば、アルテックやウェスタンのアンプやスピーカーを使う場合を言うのだ、と思います。ソースの方も、トーレンスやEMTのアナログ・プレイアーだけ、とヴィニール文化に徹底する方も居ます。まぁ、普通程度のアンティーク・オーディオのファンなら、やはり適当なCDPを使って、アンプは真空管、スピーカーは古手のフロア型、というところでしょう。100ヘルツから数キロヘルツ位が再生帯域で、アンプもシングルの出力数ワットのものが一般的です。こういう数字だけ見ると、何か物足りないと言えば物足りませんが、出てくる音はキッパリしていて、暖かみもあります。ここを御覧になっている方は、Bud Powellはおろか、Lester YoungやSidney Bichet等の、40から50年代の録音を聞かれることもあるはずですから、「古くても良いものは良い」と先刻御承知の方でしょう。こういうアンティーク・オーディオを聴いたことのない方は、一度聴かれると、「コリャ、馬鹿にしたもんでもないなぁ」と思われるはずです。
    今様オーディオ
  • 今様オーディオといえば、ワディアやレヴィンソンのCDPと、百ワットを超える出力のアンプで、リンやB & Wの80デシベル後半の中能率スピーカーを、ゴリゴリ鳴らすという感じでしょうか。ソフトに入っている情報をくまなく取り出して、電流を沢山食いそうなスピーカーを丸太ン棒でブッ叩くように振り回して、入力どおりの音をしっかり再生します。低域は40ヘルツ位から大丈夫で、高いほうは20キロヘルツ以上まで出すそうです。中音や低音が高音に引きずられてモジられる混変調に対する対策などもバッチリで、音に濁りはありません。スピーカー・ユニットもネットワークも精密に設計・製作されていて、箱も余計な付加音を出さず、、、と結構ずくめです。大音量再生はお得意のもので、出てくる音も清澄で、隙はありません。そういうハイエンドものでない普通のものでも、今はこういう風なのが流行りですし、そういうものしか売っていません。
    それでも、、、
  • 色んなショップでは豪華な今様オーディオを売っていますが、「今様オーディオ万々歳か」というとそうでもないようです。長く、そしてよく音楽を聞き続けている人の中には、結構な割合でアンティーク・オーディオに近いシステムで聴いている方がおられます。長足の進歩があった筈なのに、これはどうしたことなんでしょうか。今様化には、納得できない所でもあるんでしょうか。
    ピークつぶし
  • 今様化の最たるものが、スピーカーの広帯域化だったようです。広帯域化といいますが、これはピークつぶしと言い代えても良いでしょう。昔のスピーカーは再生能力が富士山型とは言わないまでも、まぁ、八ヶ岳型で、基本的に幾つかのピークを中心に低い方も、高いほうもなだらかに音圧が低下していきます。平均すると、再生能率は結構高いものが多かったようです。これはアンプがまだ非力だったので、能率が高くないと音量が稼げなかったからです。ピークがあるということは、入力を変形してしまっているんだとも言えますが、数十年の時の淘汰を経て生き残った名器は、その変形というか、色付が巧みなものばかりです。一方、現代のスピーカーは、このピークをつぶしてしまい、屋島のような台形の音圧カーブにしています。これによりそれまでの中腹辺りまで全体が落ちますから、それに伴って平均的な再生能率が落ちます。低能率な機器は、音量が出ないので、その昔は嫌われていました。しかし現代では、一キロワット出力のアンプなんて簡単に作れて、能率が低くってもパワーで押し切るので、音量に不満は出ません。こういう進歩 (変化 ? ) により、昔よりも格段に広い帯域を、無理なく再生できるようになりました。
    角を矯めて牛を殺す
  • しかし、世の中は良いことばかりというわけには行きません。妙なピーク音が出ず、綺麗な音が出るようになったのは良いんですが、欠点としては生気が無くなり、おとなしくなり過ぎた感があります。ピークをつぶすためには、元気に動こうとする振動部分に何らかの制動をかけてやる必要がありました。これにより、勝手な動きを止めたところ迄は良かったんですが、何とはない雰囲気や、微細な音に対して俊敏に動く能力も落ちてしまったとも思えます。音楽は、どんなに格好を付けても、ライブを聴くとわかりますが、楽器から出る音自体は、結構激越です。通常は離れて聴きますから見落としがちですが、演奏者自身は激しい音を出しています。こういうピークつぶしのようなアプローチを、昔から「角を矯めて牛を殺す」と言います。「牛の角は曲がっているのが当たり前なのに、真っ直ぐにしようとしたら牛が死んじゃった」というということでは、困ります。音が出る帯域が広いということと、その帯域の中でしっかりした音が出ることとは、別物です。帯域が広くなった分だけ、音がフニャフニャになっちゃったんじゃぁ、それこそ本末転倒です。
    もう一つは、、、
  • これもあるのかなぁ、と思うのが性能数値の一人歩きというか、デジタル化です。実は再生帯域は広ければ良いというものでは無く、高低のバランスが大事なようです。バランスが取れていて、しっかりした音が出るのなら、下が百なら、上も数千で良いようです。でも「100から数キロヘルツ」と言うよりも、「20から40キロヘルツ」の方が「性能が良い」ように、字面(じずら)ではみえます。「3極管シングルで2ワット」よりも、「4並列プッシュプルで500ワット」の方が、売りやすいんでしょう。しかし、オーディオは数値をデジタルに受け止めて済むほど、単純ではありません。(2A3シングルの2ワットのアンプでも、アルテックのA7モニターなら、恐らくは110dB/m、数%もの超高能率ですから、結構な音量を出せます。今様スピーカーの能率は、この数十分の一で、0.1から0.5%位しかありません。まぁ、完成度が高いスピーカーだから、お値段も高いのは仕方ないと割り切ったとしても、それを駆動するアンプがまた数百万円と追い討ちをかけられては、お小遣いが続く方がそう居る訳はありません。)
    、、、ということで
  • 話はスピーカーだけに限りませんが、でもスピーカーの都合が幅を利かせ過ぎているようです。低能率で、低インピーダンスのスピーカーが横行し、アンプに大電流、大出力を要求し過ぎる傾向があります。出力段が20以上もの並列プッシュプルになって、オトナ一人では持てない超重量級アンプが数百万円で売られている、、、こんな馬鹿なことはありません。現在数百万円はしているアンプやスピーカーの内の何台が、数十年後も市場で存在価値を維持し続けることができるのか、エコひいきではなく、それ程の名器は殆ど無いという気がします。30年前のマーク・レヴィンソンの処女作LNP等が、時を経ても名器と呼ばれ続ける資格がある位のものです。アンティークとまでは言わないまでも、95デシベル位の高能率スピーカーを、出力10ワット程度のアンプで動かして、、、という方が合理的に思えてなりません。ジャズ親爺としては、「時の試練を馬鹿にしてはいけないョ」と言いたくもなります。
  • この点については、「今の音はなかったことにして頂いて」や、スピーカー、この摩訶不思議なる物 ーー清水に魚住まず、かもでも、触れています。

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