「枯葉」(Portrait in Jazz/ Bill Evans)の展開
- この演奏は、先ずイントロの8秒間が素晴らしく、トラックが始まった途端にエヴァンス・ワールドが眼前に出現します。このイントロは、よく言われるように前出のSomethin' ElseでのMiles Davisのヴァージョン等で時々使われる下降旋律の変形です。それをかなり速めのテンポ設定でやるとこうなります。このテンポ設定と下降フレーズは、エヴァンスの専売特許と言ってよく、例えば「What's New」盤なんかでも聴けるように、この人はこの曲の入りはいつもこの感じです。これを他の人がそのまま真似ると「馬ーー鹿」と言われてしまうくらいのものです。
(余談ですが、山下洋輔さんが、ロックのフェスティヴァルに出た時に、「いやぁ、彼奴等はドミソドのコードを、まんまジャラーンって平気でやるんだよねぇ、、、」と呆れていたことがありましたね。そんなの恥ずかしくって出来ないというのが、ジャズの世界です。)
ここでのScott LaFaroの付けは、聴けば判るとおりごく普通のウォーキング・ベースでなんですが、その後のフレーズにのけぞるという伏線になっています。枯葉のテーマは、若干のフェイクがしてあります。 ベースのアドリブもどき、実は、、、
- 0分10秒頃からテーマが提示されて、0分45秒にはやおらピアノのアドリブかと思いきや、最初はベースのアドリブもどきのようです。「もどき」という理由は後述します。Bill Evansのピアノ・トリオが、それまでのヴァーチュオーソ的なトリオのスタイルではなく、トリオを構成する3人の相互作用を前面に押し出すというスタイルを始めた最初期のトラックですから、冒険ではあったんでしょうが、ジャズファンはこの斬新なスタイルを直ぐに熱烈に支持するようになったのです。その嚆矢ともいえるこのトラックで、普通の順番に固執せず、ベースを最初に押し出したのは見識です。このトラックの直前、この盤の冒頭曲に当たる「降っても、晴れても」では、ピアノが最初に、というか短い演奏なんでピアノしかアドリブを取らないという従来のスタイルを採っていることを踏まえての曲順なんでしょう。Bill Evansトリオを最初に世に問い、良き理解者でもあったOrrin Keepnewsが熟考した末での展開と信じます。
- またまた脱線ですが、「降っても、晴れても」に触れたついでに言えば、Wynton Kellyが自己の名前を冠した盤でも、この2曲が収録されていることを思い出してください。今はCD時代ですからトラック選択が容易ですんで、この2トラックを続けて再生する設定をして聴くと、この両ピアニストの対比が容易です。ついでに、このWynton KellyがアノKind of Blue/ Miles Davis盤録音の際に、Bill Evansの後釜としてスタジオ入りしたものの、ピアノには既にBill Evansが座っており、居心地の悪いままに「Freddie Freeloader」でしかピアノを弾かせてもらえなかったという逸話も想い起しながら聴くと、一興です。スタイルが対照的なこの二人を棒つなぎでピアノに据えたMiles Davisの器量の大きさは、タダモノではないと納得できます。
- そのベースのアドリブなんですが、かなりアグレッシヴと言っても良い、息づまるような速いパッセージを繰り出します。演奏が盛り上がっていくのが感じられ、「もっと聴かせて、、、」気分になります。ところが、そこから先が面白いというか、このトリオの狙いが本性を現します。1分頃からなんですが、妙なことに、ピアノがコンピングでも、フィルインでもない積極的な絡みをしてきます。従来の感覚からすると、「ベースが乗り始めたのに、何で横から邪魔をするんだよぉ、、、」と言いたくなるんですが、直ぐにその絡みが実に心地良いのに気付きます。Paul Motianがブラッシュで、良いタイミングで「ザ、ザッ」、「ジャ、ジャ、ジャッ」とフィルインします。即興ではあるにしても、3人が一糸乱れぬ合奏をしているという仕立てです。これが、正にBill Evansのピアノ・トリオの聴き所、当意即妙という表現がピッタリの、絶妙なインタープレィです。俯瞰すれば、これはやはりベースのアドリブでもあります。ですが、今までのスタイルとかなり違い、まぁ、「モドキ」とでも言うべきものだと思います。インタープレィといっても、主導権がベースにある感じがしますから。
ピアノのアドリブ
- 2分前後になって、アドリブの渡しフレーズがあって、ピアノの(通常と言って良い)アドリブになります。実に、素晴らしいアドリブです。これは、インタープレィ色がありません。その証拠に、ベースが先程のようなパッセージではなく、堅実でブッ太いウォーキングに移っています。また、ドラムスもブラッシュからスティックに持ち替えています。アドリブも佳境に入った、そう2分40秒辺りからでしょうか、フレーズの頭に装飾音符つきで強いタッチの音をかまし始めます。かなり、乗ってきたんでしょう。顔が看板にくっつく位に傾倒、もとい傾頭(^0^)していた筈です。この人独自のアドリブで、例えば、小節の切れ目を乗り越えたアドリブ展開なども、頻出します。3分50秒頃から、左手も活発な動きを目立たせ始め、両手ユニゾン気味に聴こえます。
- 4分半頃になると、再びベースが絡み始めて、ベースのアドリブです。前述のベースがリードするインタープレィという色彩は弱まっています。5分から後テーマで、かなりフェイクが入っていて、原旋律がかなり解体されています。そして5分40秒辺から、リタルダンドしつつの見事な着地です。
- 又しても、「良ぇなぁ、良ぇなぁ、、、」を連発するしかない名演です。この後に、テイク2としてモノラル・トラックが収録されており、いずれ甲乙付けがたい出来ですが、ここではステレオ・トラックを採り上げています。更に探求を進めたい方は、Bill Evans曲名ナビで、「枯葉」の項をご覧ください
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