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ハウストリオ(House Trio)、ハウスバンド(House Band)、、、

  • ハウストリオが必ずしも、どのジャズクラブにも居る訳ではありませんが、ホテルのラウンジなども勘定に入れると、恐らく世の中には数百は下らないハウストリオ(House Trio)、ハウスバンド(House Band)が存在している筈です。
    文化としてのジャズ
  • ライブ・スポットはいつも有名なジャズメンが出演している訳ではありません。スケジュール表を見ると、Village Vanguard等といったクラブは、入れ代わり立ち代わり大所が出演しているようですし、Blue Noteのを見ても、ハウストリオ(バンド)は居らず、毎週入れ替えで、凄い面子が出ています。しかし、生活としてのジャズ文化を考えると、このような突出したクラブが文化を担っているのではありません。その土地、土地にライブハウスがあり、そこにジャズファンが集まるし、また他の地からジャズメンが来れば、そこに出るか、あるいは少なくともギグがはねた後、そこに顔を出します。今は誰それが出演している、とまでは知らないンだけど、その町でジャズを聴くといえばそこに行くという、そういうクラブがあるものです、そうした場合は、無論、有名ジャズメンのギグもたまにありますが、いつもはハウストリオ(バンド)がやっていて、時にゲストの管や、歌が入るというのが自然です。更に、そういう集客力のあるゲストは座付きにはならずに、そこら中をツアーして回っており、普通はウィークエンドの金、土、日に出演します。でもジャズクラブは、週末だけ営業するという訳には行かず、残りの日に来たお客さんも喜ばせなければなりません。そういう日常的なジャズ環境の形成に、ハウストリオ(バンド)の大事な役割があるわけです。悪く言えば、余り新味のないジャズを聴かせられるということかも知れませんが、聞き慣れた演奏スタイルで、良く馴染んだジャズをやってくれるので、いつもの生活のペースが出来る、「ここへ来ればホッとするョ」という面もあります。ハウストリオの場合、付き合いの長い面子でジャズをやりますから、何をやっても直ぐに的確な反応が返って来て、グループとしてのまとまりがあるということもありますし、新しい試みが段々と成熟していく様子が見て取れる、なんてこともあるでしょう。
    代表的な、、、
  • ハウストリオと言えば、、、と名前が出て来るのは、どういう人たちでしょうか。先に、the Hickory HouseでのMarian MacPartlan Trio、六本木ミスティの山本剛トリオ、自由が丘ファイブスポットの鈴木勲トリオ等を挙げました。米国の例は沢山あるはずです。Bill EvansのVillage Vanguard録音は沢山ありますが、既述したようにこれはハウストリオとしての活動ではありません。Minton HouseでのThelonious Monkや、Bud Powell等は、ハウストリオかも知れません。欧州でも、CopenhagenのCafe Montmartreでは、Tete Montoliu Trioや、その後のKenny Drew Trioなんてのもそうです。この人たちは、トリオとしても、またゲストを迎えた(と言うか、サイドメンとして参加したと言うか)管入りのバンドで入れた録音が沢山残っています。MunichのDomicileでは、Mal Waldron Trioが居ました。
    講釈師、見て来たようなウソを言い(^^;)
  • Julian Adderleyがテキサスの田舎から、初めてNew Yorkに出た時の逸話がありますが、ハウスバンドの話題と関連するので、ご紹介しておきます。Julian Adderleyは、50年代の半ばにテキサスからNew Yorkに出ます。当時有名なクラブだったCafe Bohemiaに、上京したばかりの彼が顔を出すと、ベースのOscar Pettiford率いるハウスバンドが演奏していました。Julian Adderleyは、早速腕試しに、と飛び入りします。「ポッと出」に都会の洗礼を受けさせるのは先輩の思いやりです。飛び入りしてきたJulian Adderleyを横目で見たOscar Pettifordが、「ホンじゃァ、このテンポだけど、入って来れるかな」と、急速調でイントロを始めます。目にも止まらない、という表現が過言でない、物凄い速さのベースの運指に、クラブ内は固唾を飲み、Julian Adderleyが降参するだろうと見守ります。観客も、「ザマぁ見ろってんだ。テキサスの田舎モンが、New Yorkなんかで通用するもんか」ってなものです。しかしナント、Julian Adderleyはその時少しも騒がず、その急速調を難なくこなしてしまったのです。しかも、更にその倍テンポのフレーズなども交えたアドリブを聞かせて、「オラが町じゃァ、これ位のテンポでやるんだけんどよォ」と切り返します。Julian Adderleyも、飛び入りする以上、それ位のイビリ、というか歓迎は覚悟の上だったのです。このやり取りを見ていた観客がヤンヤの拍手を送ります。事情通は、「このテキサスのアルト吹きは、凄いネ。アルトも凄いけど、アノ体もデカイなぁ。何でも大食いらしいし、テキサスくんだりじゃァ人まで食うって言うからなぁ。あだ名が、食人鬼(Cannibal) --> 大食漢(Cannonballだそうだョ」と、Julian Cannonball Adderleyという名前の由来まで有名になってしまいました。この出来事はたちまちNew York雀達の噂となり、Julian Cannonball Adderleyの名が知れ渡ったようです。仕掛けられたのをやり返した、という縁で名が出ることになったことで、Cannonball AdderleyはOscar Pettifordに恩義を感じていたようです。早速貰ったレコーディングの仕事で、その恩義への感謝を表明した所、これがまた「義理堅い奴っちゃ」と好感を呼びます。その盤が、Bohemia after Dark/ Kenny Clarkeです。一曲目のタイトルを御覧下さい。「With Apologies to Oscar」となっていますが、「オスカーさん、御免なさいね」と題した曲をトップに持ってきて、仁義を切ったという因縁話になっています。(誤解される方が居ると困るので付け加えて置きますが、Oscar Pettifordがこういう風に仕掛けたのは決して珍しい事ではなく、飛び入りのジャムセッションではごく普通の、パターン化したやり取りでした。まして、これを以ってOscar Pettifordをイジワル叔父さんだ、とすることはトンでもない誤解です。そういう先輩のやり口に新人が「切り返し」で応えるのも、それ程珍しい出来事ではなかったようです。だからここまでの所は、「まぁ、よくあることサ」でした。しかし、次の録音で「With Apologies to Oscar」とまで、御丁寧に追い討ちをしたことは、まぁメッタにあることではないようです。) 
    「Blue Noteのハウストリオ」、、、
  • (、、、と講釈師Nelsonの想像も交えた逸話の紹介でしたが、閑話休題) 「座付き」と言う以上、つまりある場所が根城、牙城となるわけです。一方、そういう物理的な場所では無く、あるレーベルがひいきの人を録音し続ける場合にも、ハウストリオという言い方をします。Presitigeなら、Horace Silver Trioや、Red Garland Trioがそれに当たり、多くのトリオ演奏が残されています。更に、そのレーベルがヴェテランや新人をリーダーに録音をする時に、常打ちのリズムセクションとして、これまた多くの録音に参加していました。つまり、まるで「Presitige」というクラブがあって、そのクラブのハウストリオみたいだから、こういう風に言うのでしょう。このレーベルの無定見さの例に挙げられる「Blowing Session」では、かなりがRed Garland Trioか、Mal Waldron Trioです。Riversideでは、Wynton Kellyか、Bobby Timmonsですか。Verveは、Oscar Petersonで決まりです。Blue Noteの絶頂期は、Wynton Kellyもそうですが、Sonny Clark/ Butch Warren/ Billy Higginsが出まくりでした。Contemporaryだと、Hampton Hawesなんかが良いですね。Steeple Chaseなら、Kenny Drewと、、、、キリが無いのでやめましょう。
    トラのこと
  • ハウストリオ(バンド)は常打ちがウリなんですが、ジャズメンと言えども不死身ではありませんから、メンバーが休むことがあります。メンバーが他のバンドと掛け持ちをやる事もあり、世間並みに冠婚葬祭に顔を出したりもしますから、例えば、ベースだけが居ないとかいう状態が起こります。こんな場合でも「常打ち」ですから休めませんので、ピンチヒッターが要ります。このように、仕事のない人あるいはバンド仲間が、休みのメンバーの穴を埋める事を、「トラ(Extra)に入る」と称します。大きな都市だと、トラが玉突き状態に起こり、誰が誰のトラだか判らなくなりますが、付き合いもあり、経験を積む事も大事なので、ある程度のトラは看過されています。でもバンド全部がトラという事は無く、一部が欠ける場合しかトラとは言わないようです。
    要約すれば
  • このように、ハウストリオ(バンド)は、いつ行ってもそこそこのジャズが聞けることを保証してくれる仕組みです。またジャズメン側から見ると、気の合った面子でジャズがやれて、一定の収入が得られるし、また契約中にいくつかは新しい技を編み出せるだけの時間的、精神的な余裕も生まれるという感じでしょうか。

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