マイルスのコンピに感心 Compilation、著作権、エージェンシー
Compilationの限界
- 特定のテーマに関する名演を選りすぐり、あるいは聞こえは悪いが寄せ集めてアルバムの形にして出されたものをコンピといいます。エライ識者が指定のテーマを前に考え込み、直ぐにアレとアレとを入れてとまでは行くのですが、当然優先順位の下位になってくると取捨選択に大いに迷うわけです。それだけの苦労の結晶ですから、ちょうどいいテーマのコンピほど役立つものはありません。しかし、世の中にはいい演奏が一杯ありますから、真面目にコンピをやろうとすると、特定のレーベルに音源を限るわけにはいきません。つまりBlue Note音源だけで話が済むようなテーマばかりではなく、他社の音源も入れたくなります。ところが各音源はそれぞれのレーベルが大事にしていますから、レーベル横断というのは手間がかかります。ということで、コンピは便利な反面、制約もあるわけです。
著作権とエージェンシー
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各社がブツのテープの保有以外に音源を守る手段が。著作権です。普通は演奏者と契約を結び、ギャラを払って録音したテープの著作権をレーベルが押さえるわけです。これを本人とレーベル間で直接取り決めるのですが、多くの場合マネージャ、エージェンシー等が仲立ちをします。その契約条項は独特のものであり、例えばMiles DavisのOriginal Quintetの初録音は、Miles Davisの足跡で見ると分かるようにColumbia(1955.10.27)であり、当時の専属先であるPrestigeではありません。当時Milesは移籍を決意してColumbiaから前金までもらっており、それによりColumbiaに録音したわけですが、Prestigeとの契約で録音することになっている枚数に達していなかったために有名なマラソン録音をして義務を果たし、晴れてこの録音が後にColumbiaから発売されたのです。レーベル間でのスターの貸し借りもCount Basie-Duke Ellingtonや、Tony Bennette-Bill Evansの例があります。専属中には自己名義で他レーベルにリーダー録音できない条項は当然であり、弟子の作品に客演する形では、Somethin' Else/ Julian Cannonball AdderleyのMiles Davis、Collector's Item/ Miles DavisのCharlie Parker(Cahrlie Chanの偽名で参加)の例が有名です。このような関係の中で、マネージャーは当然演奏者よりの姿勢で本人の権利を守ろうとします。一方、著作権エージェンシーは作品への思い入れなどは殆どなく、ゼニが全て、に近い仲立ちをするのです。
マイルスのコンピ
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例えば手元にあるMiels Davis: 1945-1960( Jazz Roots CDB1809/4)というコンピものを見てみましょう。これはミュンヘンで買った4枚組の廉価盤です。EU域内の販売であり、ブートレグではないとの前提で話を進めます。標題どおりにこの人の45年から60年までの一番オイシイ時期の名演をコンピにしたセットです。
その内容と原盤
- 4枚組44曲235分、約4時間分の内容を曲名、録音時期、レーベルでみると、以下のとおりです
- Now's the Time (Nov 1945, Savoy)
- Night in Tunisia (Mar 1946, Dial)
- Donna Lee (May 1947, Savoy)
- Cheryll (May 1947, Savoy)
- Milestones (Aug 1947, Savoy)
- Half Nelson (Aug 1947, Savoy)
- Marmaduke (Sep 1948, Savoy)
- Jeru (Jan 1949, Capitol)
- Boplicity(Apr 1949, Capitol)
- Rocker(Mar 1950, Capitol)
- Ezz-thetic(Mar 1951, Prestige)
- Yesterdays (May 1952, Blue Note)
- Compulsion (Jan 1953, Prestige)
- Tempus Fugit (Apr 1953, Blue Note)
- Tune up (May 1953, Prestige)
- It never Entered My Mind (Mar 1954, Blue Note)
- Old Devil Moon (Mar 1954, Prestige)
- I'll Remember April (Apr 1954, Prestige)
- Walkin' (Apr 1954, Prestige)
- But not for Me (Jun 1954, Prestige)
- Bag's Groove (Dec 1954, Prestige)
- The Man I Love (Dec 1954, Prestige)
- Budo (Oct 1954, Columbia)
- S'posin' (Nov 1955, Prestige)
- There's no Greater Lve (Nov 1955, Prestige)
- Just Squeeze Me (Nov 1955, Prestige)
- Vierd Blues (Mar 1956, Prestige)
- Dianne (Mar 1956, Prestige)
- In Your Own Sweet Way (Mar 1956, Prestige)
- 'Round Midnight (Sep 1956, Columbia)
- Well You needn't (Oct 1956, Prestige)
- Springsville (May 1957, Columbia)
- The Maids of Cadiz (May 1957, Columbia)
- The Duke (May 1957, Columbia)
- My Ship (May 1957, Columbia)
- Miles ahead (May 1957, Columbia)
- Miles(tones) (Apr 1958, Columbia)
- Stella by Starlight (May 1958, Columbia)
- Ah-Leu-Cha (Jul 1958, Columbia)
- It Ain't necessarily so (Jul 1958, Columbia)
- Summertime (Aug 1958, Columbia)
- Straight no Chaser (Sep 1958, Columbia)
- Concierto de Aranjuez (Nov 1959, Columbia)
- Solea (Mar 1960, Columbia)
こう言うコンピを発売して、、、
- 上記のリストを見たら、聴かなくても良さげであるとお分かりでしょう。
先ず第一に、選曲がいい。音楽は聴いて楽しんでナンボのものですから、選曲が良いということは素晴らしいことです。それに、普通は採らないが実は名演、というのが幾つかあるのに、慧眼の方はお気づきでしょう。この選曲者はタダモノではありません。 更に。編集が正に時系列を正確に守っています。そしてそれを追っていくと、マイルスの変貌の過程がまざまざと浮き出てくるわけです。資料的にも、正確な時系列というのは大切な要素です。 次に、その選曲を実現するSavoy、Dial、BlueNote、Capitol、Presitge、Columbiaという多くのレーベルとの権利交渉の苦労。 もう一つ言えば、値段は忘れましたが、全曲持っているのに重ねて買ったんだからきっと安かったに違いありません。もし海外旅行で見かけられたら、コレは「買い」です。 各レコード会社さんもコンピを企画するときは、コレくらいの見識ある識者に編集させることと、自分も著作権交渉で頑張るくらいの気持ちを入れていただきたいものです。
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