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日本人らしいジャズ

    日本人ジャズの勃興
  • Those Groovy Catsに板橋さんのセクションを立ち上げていて、日本人ジャズの勃興について何か書いておく必要が出たのですが、そこで扱うよりも別に書いた方がと思って、この「演奏スタイル」の項に入れました。
    60年代頃の状況
  • 60年代後半に顕著になった日本人ジャズの勃興ということにも触れてみたく思います。誰というと悪いので名前は挙げませんが、この時期以前には、モダンジャズが輸入物であるので欧米でやられている曲、演奏スタイルをなぞって、それにできる限り近づこうとする意識が余りにも強すぎてしまった人たちが多く居ます。模倣自体は、芸能の入り口では必須のことであり、技術的に未熟なアマ時代ならば笑って済ませることです。しかし、一応のプロとして看板を掲げ、人様から入場料をふんだくってジャズを聞いてもらうのに、何のオリジナリティも感じられないジャズをやって、ジャズです、と言って居れた時期がいつまでも続く訳がありません。ことほど左様に、「ところでお前は日本人なのかよぉ。」といういいたくなる人がジャズメン、ヴォーカリスト、コーラス等の分野にいっぱい居ました。
    60年代後半の動き
  • そのなかで、60年代後半から、日本人によるモダンジャズの演奏に一つの傾向が出てきます。国内ジャズレーベル(特にTBM、East Wind等)の成長、ライブの盛り上がり(ピットイン等)、留学帰りのジャズメン(特にナベサダ)の頑張り等々によって、モダンジャズを芸術としてしっかり捉えることができるようになってきたのです。モダンジャズの演奏の質が上がるとともに、そこここで、欧米の人ならやらないスタイルのジャズが芽生え始めました。「こんなジャズ聴いたことがないなぁ。でも、これも良いんじゃないの。」というようなジャズをやる人が、この時期からポツポツ出始めたのです。コレは恐らく間違った見方であり、欧米でも独特のジャズをやる人は沢山居るが、レコードになって日本に入って来ていないに過ぎないのでしょう。ライブが盛んになれば、変わったことをする人も目に付いてきます。それまではジャズといえば、クラブやキャバレーの色物の一つに過ぎなかったのでしょうが、この前後から缶ビール一杯を付けて、2千円足らずでジャズを聴ける場が生まれてきたのだと思います。今の若い方には信じられない話でしょうか、「ウエスタン・カーニバル」と称してロックンロールが演奏されたり、「ジャズ」という言葉自体がクラシック以外の洋楽の一般名詞に近かった時期が長くあったのですから。それが70年代頃になって、モダンジャズをジャズと意識して演奏し、それをお目当てに人が集まる傾向がやっと定着したのです。無論、今もモダンジャズの世界では欧米風そのものという演奏を追求する人が居ますし、それはそれで立派なことです。でも、一部の日本人ジャズメンは、土着とまではいわないまでも、アジア・アフリカ的でオリジナリティがあったり、あるいはよそでは聞けない素晴らしいモダンジャズを演奏するようになっています。それはこの時代に起き始めたことであり、その中で板橋さん等も一定の役割をされました。
    作曲、演奏等々におけるオリジナリティ
  • ジャズにはそれなりに適した素材がありますが、その良さを失わないで、日本人らしい味を持った曲が結構あります。なにも「鈴懸の道」とまで古いことは言いませんが、ジャズのイディオムを用いながら日本人が書いた良い曲が一杯あります。演奏スタイルにおいても、例えばその最たるものが山下バンドのハチャメチャジャズですが、他にはないオリジナリティが十分にかんじられます。そして、今や自己オリジナルで固めたレパートリィで一貫するバンドも結構珍しくはありません。板橋バンドなどは、その格好の例でしょう。その他、阿部薫、アケタ、森山、山下などもそうでしょう。
    「ポンニチ」(本日)
  • ジャズの演奏が下手な時に、日本人のジャズが昔は低レベルであったことを踏まえて、「ニホン臭すぎる」と言うところを訛って、この「ポンニチ」という侮蔑的な表現が仲間内で用いられます。(昔の癖が抜けていないからでしょうが、今はこの言葉はもう使えません。)その古い言い方は、アドリブもそれなりのレベルに達しており、決しておかしくはないけれど、リズムがかっちりしすぎるうえに、何のスリルも感じられず、面白味がないジャズに対して侮蔑としてよく使われました。言いたいことは、「メトロノームじゃあるまいし、ビートが少しも揺れないこと等は、むしろ不必要だ。」ということでしょう。「キッチリ仕事をしておくれやす。」という注文は、ジャズの演奏ではそういう事を求めてのことではないのです。そんな「安い」ジャズは願い下げです。それを「ポンニチ」と侮蔑するのは、正しい評価です。しかし、上記したように、70年代以降になって日本人らしいジャズが支持されたのは、そういう演奏の支持では決してありません。自明でしょうが、念のため付記しておきます。

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