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Nancy WilsonとAnn BurtonーーIt Don't Mean a Thing, if It Ain't Got That Swingか否か

  1. 先日、オーシャン・ブルーのジャズ・フェスティヴァルでNancy Wilsonを聴く機会があり、翌朝たまたま、ウォークマンに入っていたAnn Burtonを聴きつつ犬の散歩をしたので、少し感じるところがありました。
  2. Nancy Wilsonの公演
    Nancy Wilsonは、ピアノトリオをバックに、It Don't Mean a Thing, if It Ain't Got That Swing(スィングしなけりゃ、意味が無い)を含めて数曲やったのですが相変わらず元気のようでした。もともと、テクのある人ですが年齢を重ねたので、何か変化が生じたかなと興味を持って聴きました。
  3. Ann Burton
    Ann BurtonのCDは、Burton for Certain(他でもないBurton、とでも訳すか)でしたが、Nancy Wilsonと同じくピアノトリオをバックにしたヴォーカルです。相変わらずのしっとりした、心を込めた歌いぶりです。
  4. 何とも対照的な二人
    Nancy Wilsonは、相変わらず張りのある声で、良くスィングしていましたが、一方のAnn Burtonはじっくりと、一言一言噛み締めるようなヴォーカルで、何とも二人の対照は見事で、両方ともそれなりのヴェテランでありながら、持ち味は正反対です。
  5. ディクション
    Nancy Wilsonの発声は、元来はっきりしており、明解に歌詞を提示する方ですが、昔よりも色んな技を織り込むために個別の歌詞の伝達は、少しおろそかになっている気がします。その気になれば、素晴らしいディクションであるのでしょうが、余りそれを大事にする気はなかったようです。知っている曲の、知っている歌詞においても、技巧過多気味で肝心の歌心が伝わり難くなっています。つまり、第一印象として感じた「こね回してるなぁ」という感じが、ずっと尾を引くのです。一方のAnn Burtonは、これ以上は無理と思えるほど歌詞を明確に提示し、その内容に応じた抑揚、口ごもり、溌剌さが明確です。
  6. スィング感
    これはNancy Wilsonの場合、天性のものと言えるくらい素晴らしいスィングぶりです。例の「It Don't Mean a Thing, if It Ain't Got That Swing」を歌っていましたが、その出来はかなりなものでした。ゆっくり目でも、早めでも自由自在で、しかもヴォーカルそのものでスィングを引き出して、ピアノトリオをスィングさせて行くというくらいの躍動感があります。この点に関して、Ann Burtonにはあまり書くべきことがありません。ほとんどの曲がオフ・リズムであったり、スィングがあっても、それはピアノトリオのスィングする演奏にヴォーカルが合わせていくという感じのスィングの仕方であり、リズムのシンコペーション、スタッカート感を押し出すことはありません。ジャズはIt Don't Mean a Thing, if It Ain't Got That Swingだよ、とする人には、Ann Burtonのヴォーカルは落第かもしれません。Nelsonは、スィングは大事な要素ではあっても、スィングしないジャズというのも結構あると思っていますから、落第は言い過ぎだと思いますが、、、
  7. 小技
    かなり否定的で本意ではないのですが、Nancy Wilsonはマイクを口先で早めに往復させる、マイクによる「ホーミィ」とでもいう効果がいたくお気に入りのようで、今回はすべての曲でこれをやっていました。横にいたカミサンと、「どこか一個所で見せるくらいの方が有り難味があるのになぁ。」とこぼし合いました。昔もやっていた歌詞に応じたかなり急激な発声の強弱も健在でしたが、歌詞を思い浮かべながら聴いていて、歌詞と無関係な技巧としての抑揚と感じられて、若干不満でした。それでも、感情表現としての高潮部での早口や、ドスを利かせる中低音は、さすがに唸らせるものがありました。元気さ、媚び、哀歓を表現するための声、艶、ひねり、裏声、こぶし等の小技を正に駆使していました。そのような小技の品揃えと、それを的確にこなすテクニックは、簡単には真似の出来ない高いレベルにあります。それに比して、Ann Burtonの歌いぶりは、それとの比較で悪く言えば緩慢であり、抑揚が不足し、一本調子と言えます。しかし、Ann Burtonのファンならお分かりのようにこれはこの人の大事な個性であり、むしろ感情を押さえ気味に、人生の酸いも甘いも耐えていくと言う粘り強さ、時にしぶとさを聴くものに感じさせる、真似の出来ない微妙な表現力に舌を巻くところであり、Ann Burtonの最大の魅力です。小技の魅力(Nancy Wilson)もあり、小技に頼らない魅力(Ann Burton)もある、ということでしょう。
  8. それで、、、
    Nancy WilsonとAnn Burtonのどちらが良いか、という話は別にしても、Ann Burtonについて、果たしてジャズ・ヴォーカルなのか、という設問はどうでしょうか。取り上げる曲はと言うと、これはいわゆるジャズの曲がほとんどです。共演する人もジャズメンです。レーベルもジャズのシリーズですから、売る方はジャズと分類しているようです。でも、ほとんどのジャズ・ヴォーカルと違って、彼女のCDにはノリノリの演奏が一曲もありません。とはいえ、ジャズ曲の旋律と歌詞に現れる、種々の感情表現をうまく伝えること、という基準で見るとこの人は一級品です。従って、Ann Burtonの歌唱は、間違いなくジャズ・ヴォーカルでしょう。どうも、ジャズ・ヴォーカルと簡単に言いますが、これはなかなか定義の難しいジャンルのようです。
  9. だから、、、
    Nancy WilsonとAnn Burtonという、実に対照的な二人を時間を置かずに聴く機会があったので、少し掘り下げてみる気になりました。少し時間が経った今の時点では、重箱の隅をつつくような話とも思えます。It Don't Mean a Thing, if It Ain't Got That Swingだからと言って、Ann Burtonはジャズヴォーカルでない、Nancy Wilsonのようでなければジャズヴォーカルでない、と言うのは言い過ぎでしょう。特に、今回のNancy Wilsonの公演のように「こね回しすぎる」と、その感は強くなります。

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