(Home - Hear Me Talkin' to Ya / BACK)

マイルスとモンクの口論の真相(^^;)

  • 名盤Bags Grooveの録音でスタジオ入りしたマイルスとモンクが口論をした、という噂の実態について、同席者に話を聞くことができました。
  1. オレに話を聞きたいって。まぁ、そこに座んなょ。どっちの話を聞きたいのかな。アルコの袋の話かい。あぁ、クリスマス・セッションの話か。しかし、そんなに気になるのかねぇ。同んなしことしか喋らないけど、良いね。
  2. 集まった面々
    あの頃のPresitigeは、貸しビルにスタジオがあって、皆で話し合って行くと録音はしてくれる、というシステムだったんだ。実際に発売されるかどうかはまた別の話だけどな。あのセッションは、何時だっけ、エッ、54年のクリスマスか。まぁ、そうなんだろうな。そういうことは、こっちよりも評論家さんの方が詳しいもんな。寒かったことは覚えてる。あのセッションの時は、珍しく社長のWeinstockもスタジオに来てたなぁ、彼はモンクが好きだったから、あのセッションは「モンクを使う」ことが条件だったみたいで、それで顔を出したんだろう。Miles Davis、Milt Jackson、Thelonious Monk、それにKenny Clarke だったよな。年で言やぁ、リーダーのMiles Davisが一番若いってことか。
  3. 演目
    あの時は、Bags GrooveとThe Man I Loveしかやらなかった。Bags Grooveは、Milt(渾名がバグス)の曲だよ。簡単なブルースだけど、良い曲で皆が好きだって言ってたよ。タイトルだって、「バグスの曲」てなもんだものな。それが今や、人気曲でどこでやっても、皆が知っているよ。The Man I Loveは、ガーシュィンの、これも良い曲だ。そうかい、Bemsha SwingとSwing Springもやったかなぁ。Bemsha SwingはMonkの曲だ。
  4. Bags Grooveのアレンジ
    そこで、アレンジだよ。まぁ、アレンジったって、小難しいことは別に無いけどね。ただ、Milesが、「ちょっと考えていることがあるんで、自分のバックでピアノは、コンピングなしで手を休めている(lay out、後ろに控える)方が良い。」、と提案したんだ。その頃、Monkもそういうやり方を練習していたんだけど、若造に先に言われたから、面白くなかったのかな。いや、別に喧嘩にまではならなかったよ。色んな演奏の仕方があるし、リーダーがそう言うんだから、それ自体は別に何の問題も無いよ。じっくりアドリブしよう、ということでコーラス数までは特に決めてなかった。まぁ、お互いに顔を見てりゃ、手渡しのタイミングと係り受けに抜かりはない。ホイ、次は俺だって分かるさ。だから、ブルースの場合、殆ど順番くらいしか決めないよ。2テイク録音したのかな、両方ともに皆乗っていて、出来は良かったねぇ。
  5. 口論の噂の間違い
    だから、繰り返しになるけど、どういう風な演奏スタイルにするかは、結構その時次第で、言ってみればそれを決める人が、制作者だったり、リーダだったりする訳よ。Monkの方が年上だから、年下のMilesのさっき言った提案が生意気だ、と喧嘩したというのは無いね。殴り合いをしたなんて、馬っ鹿じゃないの。そんな打ち合わせは気分次第よ。そんな中で、互いの気持ちを巧く通わせながら、聞く人を唸らせる演奏に仕上げるのが、プロってもんだろう。第一、元気な仲間が集まって、あぁだ、こぉだ、って言いながら録音するのが楽しいし、それぞれ伸び盛りだったから、お互い色んなことを試して、皆の反応を試したかったんだよ。そういう良い時期だったよ。だから、Milesのやってみたかったアドリブの組み立てに、Monkのピアノが無い方が良い、と言うんで、じゃぁそれでやってみるか、ってだけのことさ。ただ、Monkのピアノは、何と言うか強烈なところがあるから、そういう風な演奏にはしたくなかったんだろうョ。クルック(Kenny Clarke)だって、そう言ってたって。当たり前だろうょ。まぁ、喧嘩しててもあれくらいの演奏なら何時でもできる奴ばかりだったけど、イヤ、喧嘩してあの名演は無いかな。テイク2で、Monkがそんなこんなでふてくされていて、自分の出をわざと間違った、とか言う噂もあるな。だけどMonkは元来が気まぐれだから、そんなことはしょっちゅうで、珍しかぁない。御愛敬さ。そんなことをあげつらうから、評論家にはMonkという人のことが本当は分かっていない、って言われるのさ。
  6. MilesとMiltの違い
    別に、Miltとの付き合いの方が長いから言う訳じゃないけど、でもLaying outの話で言えば、Miltはそんなこと全く気にしていないね。Monkがどう付けてこようが、それに応じてMiltは綺麗にアドリブを続けていたよ。彼のは、全くの天性のカンだからねぇ。Milesみたいに、じっくり構成を考えてなんてことはしないし、そういう発想が無い人だよ。その場その場でやるのがジャズだ、と言う気分だと思うよ。それは、MJQだってそうなんだ。John Lewisは、色々工夫するのが好きだった。でも、MiltはMiltで変わりはない。そういう意味では、ここだけの話だけど、Miltの方がエライと俺は思うけどなぁ。アドリブだって、Milesのことばかり君らは誉めているけど、Miltのもじっくり聞いてみなよ。スッゲぇ演奏だと納得するはずだけどなぁ。オレ達、ベースは後ろの方で皆の演奏を聞きながら、適当にブンブンやっているようでいて、最初から最後までビートを取って、合いの手を入れてるから、その辺は一番良く分かるんだ。Miltは、生まれついての天才なのさ。
  7. The Man I Loveでは
    The Man I Loveじゃ、まぁモンクの悪いところが出たことになるのかなぁ。アドリブに入って、Miltは初めっから倍テンポであっけに取られるほど良い調子で、凄かったよ。それで次がモンクなんだけど、何かそれこそ1拍づつの分散和音くらいしか弾かずに、それも途中で途切れちゃったんだ。アノ分散和音スタイルはモンクの良くやる手だから、気分が乗らなかったのかもしれないけど、そう簡単に手抜きとは言い切れないょ。でも2小節ほどはベースとドラムスだけになったもんで、リーダーのMilesとしちゃぁ慌てるわけで、我慢できずに「パッパー、パッパー、、、」なんてアドリブだか、リフだかわかんない音で埋め始めたんだよ。そしたら、モンクが直ぐにアドリブを再開したんだ。それがまた、そりゃぁ素晴らしい展開なんだ。ということは、アドリブのコーラス割りのことは分かってて、まだ自分のコーラスだと思ってたってことだよなぁ。だったら、コーラスの途中で手を完全に休めるのは、いくら長めの間合いが好きなモンクと言っても、あれは間合いじゃなくて、手抜きだと言われて当然だよ。癖のあるモンクだけど、良いアドリブをするから皆が一目置いているのに、ありゃぁ無いよな。その点では、やっぱりモンクはMilesに謝るべきだと思うね。
  8. それで、、、
    あんまり浮かない顔してるね。俺の話が気に入らなかったかい。でも、俺はそうだったんだと思うし、そういう時代だってことだ。アルコの話もしてやるかい。全く、胴の脇に袋を付けると便利だってことに最初に気付いたのは、俺なんだ。この頃は皆真似してるけど。この間、Ron Carterをからかってやったんだよ。俺に挨拶もせず、アイディアだけ盗むなんてトンでもない野郎だって。でも頭掻くだけで、何にも言わねぇの。まぁ、みんなが便利になったんだから、良いか。オヤッ、もう行くのかい。そっちの話も聞かせたいけど、まぁ、何時でもまたおいでよ。じゃぁな。(以上、よく眠れるようになった初秋の夜に、何故かPercy Heathが出てきた夢の中でのお話でした。)宜しければ、 Miles Davisもどうぞご覧ください。

(Home - Hear Me Talkin' to Ya / BACK)
アクセスカウンター