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別テイク

  • ジャズに限らず、現在の録音はほとんどの場合、同一の曲を何回か録音して、良いとこ取りをしています。この個々のヴァージョンをテイクといいますが、そのテイクのお話です。マイルスや、エヴァンスは、持歌を同メンバーで色んな場所で、何回も繰り返しやりましたが、これは別テイクではなく、別の録音であり、別の演奏です。録音が一連して行われている場合のみ別テイクといい、場所、日時等が違うものは別テイクとは言いません。
  1. スタジオ録音と、ライヴ録音
    先ず、録音の種類について簡単に触れてみます。大まかに言って、スタジオ録音と、ライヴ録音に分けられます。スタジオ録音の場合は、時間の制約の中で、何度も演奏を練り上げていきます。通常、聴衆は制作関係者のみです。ライヴ録音では、お客さんがいますから演奏は切れ目なく続くのが普通で、出を間違ったからとか言って、演奏を止めるということは出来ません。
  2. 即興芸術であるジャズにおける別テイク
    もう一つ、ジャズの大きな特徴で、即興演奏という性格があります。テーマを、コードやモードの制約の中で、自由に展開していくのが、ジャズの醍醐味です。この「即興演奏」ということを厳密に考えると、実はテイクに関係なく、すべての録音が最終作品ということになります。明らかなミスは兎も角、その時そのように指が動いたのであれば、それの良否は問題でありません。ただ、その即興演奏は下手であった、という事実だけが残るわけです。よほどでない限り、クラシックの録音でやるように、別テイクから一音だけ切り取ってはめ込む、というのはジャズではやりません。作品として発売された盤で、ライヴ録音でなくスタジオ物なのに、明らかに大きなミスタッチのある演奏が、ままあることはお気付きのことでしょう。録音セッション全体の流れを重視して、単なる音の出し違いは即興芸術を旨とするジャズなんだから良いんでないの、という判断の結果でしょう。
  3. スタジオ録音の別テイク
    別テイクのほとんどの場合は、スタジオ録音の別テイクです。マスターテイクが出来上がるまでの、練習の演奏がテープに残ったものが、別テイクとなります。皆でアレンジを工夫中で、何度かやってみて制作者の了解を得てから、最終的にマスターとなるテイクを仕上げる場合などです。録音の準備中や、マイクの音量セット等でテープを回していて、曲の完全な演奏がテープに残る場合もあります。また、本番と思ってやったが、結果的に気に入らなくて、マスターテイクとならなかった場合もあります。単なる運指の間違いくらいなら兎も角、テーマでの目立つミスが出る場合も、取り直しとなるようですが、この場合は演奏としては最後までやらないので、未完テイクとなります。上記したように、ジャズは基本的には即興演奏ですから、何テイクあろうと、それぞれが独立に演奏として位置づけることができます。後でやったテイク程、テイク番号が大きくなりますが、だからと言って後のテイクの方が芸術的に良い、とは限りません。ということで、色んな録音の状況がありますから、中には23テイクとかいうびっくりするような番号も見掛けるのです。
  4. Bag's Grooveの別テイク
    Miles Davisの名盤Bag's Grooveには、同名の曲Bag's Grooveが2テイクが入っています。両テイクともに、ハードバップの名演中の名演で、これを聞いていない人はモグリです。むしろ、「あれは擦り切れるほど聴いた」という人の方が多いでしょう。聴けば判るのですが、この二つはテイク毎に、内容がかなり独立しています。(共通しているのは、マイルスのアドリブでは、モンクが伴奏、コンピングをしていないということですが、それはまた別の話題にしましょう (^^;) マイルス、バグス、モンクと聴いていっても、アドリブが両テイクでかなり違います。つまり、テイク1を発展させて、あるいは改良してテイク2にしたものとは思えません。特に、モンクはテイク2では、テイク1と別の切り口で、かなり水平的なアドリブを試みようとしているように思います。むしろ、今の(テイク1)は良かったけど、今度は別のやり方でやってみようョ、という感じです。一見当たり前のようですが、同じ日に同じメンバーでやって、二つもこれほど優れた演奏が録音されるということは、ジャズの長い歴史のなかでも、結構珍しいのです。そして、それがこれらの巨人の偉さの証左なのです。
  5. ライヴ録音の別テイク
    ライヴで別テイク、なんて変じゃないか、と思われるかもしれません。普通、一晩のギグでは同じ曲をやることはありませんから。例外は、時のヒット曲で始めて、アンコールでそれをまた繰り返すのや、何時もやるバンドのテーマ曲くらいでしょう。しかし、一週間の興業がブックされていて、それが後にライヴ盤で出る時などは、一連の録音であるので別テイクとされます。ジャズメンは、一時期にはある曲を集中的に演奏することが多いので、同じ曲が毎晩決まって一回演奏されることは珍しくありません。そうすると、一週間では数回演奏することになり、録音も数種類残ります。ライヴ録音の有名な別テイク物は、John Coltrane live at the Village Vanguardでしょう。これは、数日間の興業のライヴですから、同一曲が何度も演奏されたわけです。他にもArt PepperのVillage Vanguardライヴや、Bill EvansのConsecration等の例があります。
  6. ごみテイクもあり、、、
    昔の録音をCDで再発売する時に、LPを持っている人にも買わせようという狙いなのか、プラス2、驚くべき未発表テイクの追加、とか言って別テイクを追加することがあります。これらの中には、結構、ごみが多いようです。考えてみると、オリジナル発売の時にそれなりの判断をして一端は捨てたテイクの復活なのです。そうそう安易に追加したのでは、原制作者はメクラだったのか、というツッコミが出てきます。単に収録時間に余裕があるからだけの追加は、レーベルの見識を疑わせることになります。特に、オリジナルの良さを重視する人は、余計な付加物を蛇蝎のように嫌います。Nelsonも、聴きなれた盤をCDで聞き直して、妙な狭雑物があって不快になることがたまにあります。愛聴盤は、耳が順序を覚えており、曲間で次の曲の出だしが耳の中に聞こえてくるものです。そこら辺を理解して、付加物を最後に持ってくるやり方もあります。

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