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スキャットの魅力と限界

  • ヴォーカルで、スキャットという手法がありますが、人は何故スキャットするのかという話です。
    取敢えず関係用語の確認を
  • (ジャズ)ヴォーカルにおいて単にメロディをフェイクする以外の方法として、スキャット、ヴォカリーズ、ラップなどの手法があります。
    スキャットは、その昔Satchmoが始めたとされています。彼が何かの歌を歌っていたところ歌詞を度忘れしてしまい、適当にフニャフニャ誤魔化そうとしたところ、彼ほどの人ですからそれなりの節回しと即興が面白く、思わぬ人気となったとのことです。それ以後は、一つの表現手法として認知され、彼の表芸になってしまった、と言われています。
    ヴォカリーズは、Eddie Jefferson,Jon Hendricksらが広めたといってよく、先人のジャズの名アドリブに歌詞を(無理矢理)付けて歌うものです。本歌取りの常で、元の演奏が分る人にはこたえられない興趣があります。後づけの歌詞になっても節回しはインスト演奏のままで、原典がLester Young、Miles Davisのあの時のソロ等と言い当てられますから、それぞれの特徴というものが巧く切り取られているのだなぁ、と感心します。この辺についてはLambert, Hendricks and Rossの紹介文でも触れました。
    ラップはジャズの範疇に入らないでしょうが、強いビート感を重視して、それに日常会話文体での歌詞を付けており、それ自体が元歌といえるものであり、ジャズのようにテーマとアドリブという区別はないようです。あまり字余り感は問題にせず、それよりも感性の率直な吐露の方が大事、というスタイルです。
    インストルメンタル曲とヴォーカル
  • 演奏者ナビのEric Dolphyの項で触れましたが、ある種のジャズは、そしてNelsonの考えでは「全ての」となるのですが、意思伝達のもっとも高度な形態である肉声への飽くなき肉迫を志向していると言えます。肉声には、どうにも抗しきれない魅力があり、また楽器では伝えきれない情感を伝えます。一方、スキャットでは、逆に肉声が器楽音に摺り寄ろうとするかのようです。言語が使えるのにもかかわらず、なぜ、擬音を使うのでしょうか。
    アドリブ
  • 歌詞は、意味のある言葉を使う点で、器楽音に比して圧倒的な優位性を持っていますが、他方、字数、語感、押韻、明瞭性等という制約も課されています。ジャズヴォーカルで自由な歌唱をしたい場合、これらは大きな制約になります。しかし、声を楽器と考え、時には歌詞の伝達を放棄するのも良いと踏ん切りが付けば、演奏の流れに任せて、歌詩の意味、旋律、字数、抑揚、押韻等々の制約から解き放たれ、全く自由にアドリブを展開できます。技量と、裏付けとなる必然性がある場合のスキャットは、何とも興奮させられる手法です。
    スキャット百態
  • スキャットでは、歌詞に依らず、その旋律またはそのフェイクに乗せて、特に意味の無い音列を適当に並べるわけですが、人によってシュビウビ、ダバダバ等々と口癖には差が出ます。歌手以外でも、例えばジャズメンでもGillespieなどもやります。楽器奏者の場合、日頃からアドリブをし慣れていますから、楽器でなく口でやるといっても、そう違和感はないのでしょう。歌手でも、かなり歌詞にウェイトを置く人なのでしょうか、全くスキャットをしない人もいます。一方、何かというとすぐにスキャットに入る人もいます。歌詞の重視如何にかかわらず、いわゆる活舌も良い人、例えばMel Tormeや、Sarahなどが早口でやると何とも聞き惚れます。Milt Jacksonなどが、回らない口でスキャットするのは、ご愛敬というところでしょう。LHRなどで人気となったJon Hendricks等のスキャットは、さすが専門家だけあって目くるめくものがあります。ここでちょっと横道に入ると、タモリのハナモゲラ芸はスキャットと繋がる面があります。「中国人の麻雀」等で中国語ではないが、いかにも中国語らしく聞こえる会話は、スキャットと同じく、「原典があって、それを声で擬する」ものです。このようなユーモアと言うか、遊びの感覚は、ジャズにおいても大きな役割を果たす、結構大事な要素だと思います。
    とはいえ、、
  • 有名な「Round Midnight」という映画で、主人公役のDexter Gordonが、友人に何かの曲をやってくれとリクェストされ、吹き始めて、フト止めてしまいます。そして、「歌詞を忘れたから、吹けないョ」という場面がありました。モデルのBud Powellが言いそうな、というよりもその役をこなしているDexter Gordonの言いそうなことなのですが、それほど歌詞は大事だと考える人がいます。スキャットをやるからには、この言葉の重さに耐える覚悟も必要です。そして実は、それに価するスキャットは、それほどには見当たりません。

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