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繰り返し聴きの狙い(2)

  • 良い演奏の「繰り返し聴きの狙い」、次はその奥座敷です。聴き込みを続けて行けば、「その曲が何故人の心を惹き付けるのか」が、少しづつ具体的に判ってきます。こんな聴き方もあるんですがと、Nelsonの手口を以下に御紹介します。こういうことの前提として、その好きな演奏自体について、テーマは勿論のこと、できれば名フレーズあるいは各アドリブが、鼻歌で歌えるほど聴き込んでいただけるものとします。さらに、これはNelsonのような「聴き専門」の人の場合であり、ピアノやギターが弾ける人は旋律や、コードを拾っていけばいいわけですから、全然話が違います。
  • 鼻歌
    鼻歌、といっても馬鹿にしてはいけません。しっかりと好きな演奏を聴き込んだ上での鼻歌は、その演奏の大事な要素を全て含んでいるのです。まず当然のことですが、アレンジが元の演奏と同じです。御承知でしょうが、ある曲があるとして、その譜面も手元にあるとします。しかし、実際演奏されるのは、とても譜面どおりの演奏ではありません。テンポは言うに及ばず、テーマ自体も少し演奏しやすく捻ってありますし、第一アドリブがそれぞれ異なります。ここは合奏、ここはピアノがやって、サビはリーダーがやる等となっています。それぞれのジャズメンで演奏の特徴があり、引きずる人、前のめりになる人と、色々です。更にベースがある所で、「ツン、ツン」と突っ込んできたり、ドラムスが目も醒める「オカズ」を入れたりします。鼻歌には、大体ですが、そういう要素が入っています。従って、「ホラ、こういう曲だヨ」と伝える時に心覚えの鼻歌をやってみると、聴く方の人は「あぁ、その曲ね」と判りますし、更に、これはアノ盤の演奏を覚えたんだな、というところまでわかる訳です。
  • 鼻歌まじりに聴く(^^;)
    もう少し深く追求したくなった演奏の、もっと詳しい中身、展開を知るには、その演奏を聴きながら、テーマを鼻歌でやり続ける方法があります。テーマが済んで、アドリブが始まると、色んな新しい展開が入ってきますが、それを聴きつつも、鼻歌でテーマをやり続けます。最初は演奏に引きずられそうになりますが、少し慣れると、しっかり鼻歌をキープできます。すると、「へぇ、そうなんだぁ、、、」ということが、一杯出てくるのです。例えば、Catchyなことで有名な、ジャズ喫茶で誰もが頷く名フレーズが、原曲のどの部分のアドリブに当たるのか等も、判ります。これは何となく判っていても、そうだと言えるようには中々ならないものですが、しっかり鼻歌が歌えれば、どこがどれに当たるのかがわかります。アドリブがテーマと対位的な展開をしているところなども、鼻歌をやっていると、鼻歌と正反対に旋律が降下したりするので、「あぁ、そうか」と直ぐわかります。それから、32小節なら32小節で一旦曲の最初に戻るわけですが、そういう時の繋がりの付けかたも聞き取れます。その他、色々とタメになることが判ります。鼻歌でなくても、ジャズ喫茶で「ブツ、ブツ」言っている人や、足で拍子をとっている人なども、自然にそういう行為の中で、曲の展開を楽しんでいるのです。たまには小節が合わなくなって、「何度確かめても、そうだ」ということも起こります。これは、そのジャズメンが「食っちゃったからです」。小節数の勘定を間違ってしまうことは、プロでも時にあることです。その見分け方は、ドラムスかベースが一寸ドタバタして、数小節後に無理やり合わせる、という気配があるか、無いかです。そんなことも鼻歌をやっていると、判ってしまいます。つまり、「鼻歌、軽んずべからず」ということです。
  • 特定の楽器を聴く(1)
    気に入った曲のテナーのソロがあるとして、その演奏ではメインでなく、当然音も小さいベース奏者のbackingだけに、耳を集中して聞いてみます。すると、テナーのソロの盛り上がり時に、何か妙なことをしているのが、何となく判ったりします。つまり演奏の高まりの切っ掛けを、その演奏の場合は、そのサイドメンであるベースが作ったことが分かります。ライブならともかくも、録音されたものを聴いていては、メンバーのアイ・コンタクト等は判りません。でも実際には、リーダーが何らかの仕草で、「ほたら、行くでぇ」と身振りか、手振りで合図をして、それを受けて(この場合は、ベースなんですが)、怒涛のクライマックスに入るお膳立てをした、ということになります。このようにして、いつもは注意をそんなに払わないサイドメンに気をつけてみると、なるほどこのbackがあるから、テナーのソロが良く活きたんだ、と判ります。大事なことは、そこで再度、また曲全体に耳を広げて聞きなおすと、更にその演奏の良さが身に沁みるわけです。次は、drummerを聞いてみる、という風に好きな演奏をこういう風に聴いてみると、もっと何かが判るかもしれません。
  • 特定楽器を聴く(2)
    となると、このbassisitは、他の曲ではどうやっているかな、ということになります。別の盤の演奏で聞くと、やはり同じような事が起こっていることもありますし、そうでないこともあります。そうでない場合は、余り頑張っていないので、「その組み合わせは、気が乗らなかったンだなぁ、、、」等と判ってきます。何故、彼とは気が合って、もう一人とは気が合わないか、それには流派と言わないまでも、何か理由がある筈です。
  • 特定楽器を聴く(3)
    また、実際に組んだ演奏がなくても、あの二人は合うはずだ、と感じる場合もあります。ジャズ祭もので意外な組み合わせが実現し、そのbootlegをshopで見つけて、「俺の思ったとおりに、こいつらはやっぱり良く合うじゃないか」と快哉の声を上げることもあるでしょう。というわけで、そうなればあなたも立派にJazzキチの仲間入りとなるのです。へ、へ、へ、、、
  • 「締め」を聴く
    昔気質の演奏者は、即興とは言え5コーラスなり、なんなりの枠の中で自然と展開を心掛け、アドリブに起承転結を付けようとしていました。当然、出だしでオッと思わせるとして、最後に次に渡したり、4バースに入るなりする締めにも気合いが入ります。原メロディに戻すことが多いのですが、付き合いの長い同士では展開しっぱなしで受けさせるなんてこともあります。個々人のアドリブでもカタルシスを用意するのが、基本であったのです。したがって締めと、次の出だしとはよく聞きましょう。
  • 掛かり受けを聴く
    今出来の若手は余りやりませんが、昔の演奏では前のソロの末尾フレーズを元に、自分のソロを始めることが良くあり、これが決まると盛り上がります。SP時代にあった3、4分の短時間録音では、情念の凝縮がありましたから、密度は濃いものがありました。そこでは、録音の良さとか、技術の高低とは異なるものが違いを生むのです。
  • 本歌取りを聴く
    Dexter Gordonや、Oscar Petersonn等が好例ですが、コード進行が似ている(似ていなくてもやる?)曲を数小節挟むのは、良くやるgimmickです。そう言えば、山本剛のクリスマスセッションで「サンタが橇で、、、」を挟むというのもありました。「本歌が、何の曲か」を調べるのも、楽しみです。本格的な本歌取りでは、Birdが小唄のコード進行をベースにいろんな曲を作っています。Nelsonのように漠然とコード進行を曲の雰囲気と感じる程度よりも、深い技術的な理解力がなければ、元歌が何かを簡単に言い当てることは出来ません。
  • ジャズのアドリブの楽しさは、言ってみれば即興の作曲才能を楽しむわけですから、ジャズマンは程度の差こそあれ、みな作曲家です。クラシック音楽のように事前に精巧に工夫され、見せ場を聞く側が承知している場合とは異なるので、技術的にはクラシックの人の方が上かも知れません。「手癖」の項で書いたように、即興演奏では運指をあらかじめ練習することは出来ませんし、その時自分に技術的に可能な範囲での演奏に陥りがちなことは確かです。しかし、我々は技術ではなく、音楽を聴く訳ですから、それは余り大きな問題ではないのです。

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