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無頼・気まぐれテナー
平手神酒、眠狂四郎、Lin Halliday
  • Lin Hallidayと言うテナーが良いので色々調べてみると、結構面白い人らしい、というお話です。
    Delmark(Chicago)のLin Halliday
  • Lin HallidayのAiregin (Delmark DE523)を手に入れて聴いてみて、「こりゃぁ良いや」と思ったんですが、これはワンホーン物でLin Hallidayが吹きまくっています。この人は、既にEric Alexander/ Stablemates (DE488)や、Cecil Payne/Scotch and Milk (PCVP8115)でも聞いていたし、知っている積もりになっていました。前者は4管、後者はテナーバトルで、結局サイドメン盤だったからなんでしょうか、余りHallidayの印象が強くはありませんでした。しかしリーダー作のAireginを聴いてみると、「熱したRollins」という感じで力感がある上、きっぱりしていて、とても清々しい演奏です。それで調べてみると、録音は5枚位しかないようです。
    とりあえず、バイオを
  • Lin Hallidayは、アーカンソー州の人で、1936年生まれというからかなりのヴェテランです。23のときにNYに出てきて、Wayne Shorterの後釜としてMaynard Fargusonバンドに入った後は各地を転々としたようです。男性的なテナーと言う評価でしたが、余りビッグネームになるでもなく、ロードに出ているか、スタジオ仕事が多いという具合でした。50歳を過ぎた頃にテネシーで足が悪くなり、ベッドから出られない状態が続いた。1980年54歳でシカゴに移り、そのハードバップ系の演奏に再度、あるいは初めて一部の注目を集める事になりました。「シカゴにスッゲェ親爺が居るぞ」と言う評判が立ち、活動が盛んになると共に、同地に落ち着いてしまいます。55歳にして初リーダー作「Delayed Exposure(遅咲き、とでも訳すか)」を同地のDelmarkから出しました。3枚ほど出した後、上記のEric Alexander/ Stablematesや、Cecil Payne/Scotch and Milkという共演盤も出したが、昨2000年1月に63歳で死去しました。同レーベルは、追悼作として、1988年の録音でいいのがお蔵になっていたので、それを編集してリーダー作Aireginとして出しました。非常な遅咲きに加えて、色んなバイオの書き方に迂遠さがあるので、それに引っかかって少し調べてみると、いわく因縁がすこしづつ見えてきたというわけです。
    演奏スタイル
  • Rollinsを尊敬している事は明らかな男性的な吹奏で、その意味ではNelson御ひいきのSteve Grossmanとも似たスタイルと言えます。しかし、50年代末期のRollinsスタイルをそのまま維持しており、トレーンの影が見受けられないのが好ましい、というと問題発言だが、実際変な(これも問題発言か)新味を余り感じない。それがこの人のスタイルらしいから、それはそれで良いんじゃないでしょうか、というか仕方ないじゃない。当然その中で自己のスタイルは築いている訳で、Rollinsよりも叙情性が強く、更に熱したときの激しいアドリブは聞きもの、というところです。
    その変わりよう
  • かなりの呑んべぇであったようで、何時も浪波と満たしたウィスキーグラスを横に置いていたし、それもあってか、一時Cabrret Cardという警察発行の演奏許可証を取り上げられたりした。譬えれば、千葉道場を破門になった剣客平手神酒か、同様に凄腕だが通常の道を歩まなかった眠狂四郎という感じです。上記の体の不調の他、歯も前歯が下に一本だけ、という時期があるなど、「不健康」を絵に描いたような状態が続きます。それは服装にも現れて、どうにも風采が上がらないので、西部劇の名脇役Walter Brennanに譬えている記事もあります。この人の風貌は、Eric Alexander/ Stablemates (DE488)のジャケットで見るのが一番正確のようです。愛用のサックスケースはボロボロで、鍵と取っ手は壊れたままであり、ガムテープと紐で縛ってあると言うのがTrademarkとなっていた。「ケースじゃねぇよ、中の楽器とそれをどう吹くかが大事なんだろう。」とでも言うつもりだったんでしょうか。色んな悪癖のためか、顔も苦労の襞が刻み込まれていることと相まって、やはり脇役であり、舞台中央で見栄えがし、筋書き通りの名演をやってのける、というスターに必須の要素はかけらも無かったらしい。折に触れて、世間の期待を集めるだけの力量があり、褒める記事が出るので注目度が上がるが、期待が高まったところで必ずそれを裏切る、という。その繰り返しでは、Big Nameにはなれないし、第一、本人にそうなる気が全く無い、ということらしい。通常の、即ちの、どうと言う事のない設定における普段着の演奏では、肩から力が抜けるのか、素晴らしいアドリブを展開する時があるものの、一方、ギグのすっぽかし等はしょっちゅうで、ここ一発という時に殆ど「ハズす」のが特技(^^;)であったという。それでも活動を続けられたのは、壷にはまった時の誰が聞いても凄いその演奏内容であり、皆が舌を巻く凄まじさがあったからだという。気が向けば、アドリブや曲の構成についてかなり高度な指示をメンバーに出したりするので、つまり音楽的な知識も十分にあると言う事であり、皆が聞き入った。この人の音楽のレベルが高いに違いない事は、残された録音からも首肯できます。
    ジャズ祭や、スタジオ録音でもモメる
  • 改まった場であるジャズ祭や、録音セッションなどは、最も不得意とするところであり、自分の出番になっても、何が気に入らないのか、「固まって」しまうことが時々あったらしい。舞台上で脇から仲間が急かしても、ウンともスンとも音を出さないというから、立派なものである、というかプロとしては失格でしょう。あるときはクラブのマスターが気に入らないことを言ったのが切っ掛けでヘソを曲げてしまったので、皆で彼の周りにマイクや楽譜立て、それにドラムセットを置き詰めて動けなくして、何度か大声で「出」を合図するなんて事があったらしいが、何と急に「クソ、見てやがれ」と言ったかと思うと、信じられないような見事なアドリブをやってのけて、店内を沸かせたという。録音セッションでも同様であり、瞑目してしまって微動だにしないは、マイクにけちを付けてズッと離れて立つので音が採れないは、と言う有様。楽器をひねくり回したり、スタジオが埃っぽいとブーたれたり、制作者泣かせも良いところで、調子に乗れない理由を次から次へと上げ立てるという。そういう意味で、上記Airegin等は、巧く行った希有の録音らしく、ファンから見れば実に良い遺産と言う感じです。
    そんな訳で、、、
  • まぁ、これじゃぁ、人気が出てドンドンとリーダー作が発売される、と言う事にならないのは当たり前でしょう。坂口安吾ではないが、「二流の人」と決め付ける人がいても仕方ありません。しかし、本来ジャズメンと言うのはそんな面が大なり小なりあるものであり、むしろ行儀が良いが、くだらん演奏しか出来ないジャズメンよりは、ズットましでしょう。という訳でもう一度聴きなおしてみましたがやはり演奏の質の高さは間違いありません。数枚しか録音の無い人なので、全部集めるのは簡単だし、全部を聴く価値ありと強く思っています。皆さんも、如何ですか。

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