(Home - Those Groovy Cats - Carol Sloane / BACK)
女性ヴォーカルとしての特徴
|
- 「人とその周辺」で触れたように、Carol Sloaneはコントラルトというのでしょうか、アルトよりも低めの音域の人です。
何とも素晴らしいディクション
- ジャズに限らず、一人前のヴォーカルは(日本以外の国では(^^;)、声がちゃんと出て、発音が明瞭でなければ、ブーイングの嵐で歌なんて歌えません。Carolのようなしっかりした発声や、早口言葉なんて苦にしない声とベロ回しの能力を、ディクション、口跡あるいは活舌等といいます。実は、Nelsonは中学生時代からのヴォーカル鑑賞で、英語を鍛えた積もりで居ますが、人に意味のある文章を正確に伝えるには、多少なりともディクションを意識すべきだと信じております。一例を挙げると、日本語では子音だけというのは希ですが、英語では結構あり、通常は他の母音とくっついてある音符に当てはめられ、従ってある音程を持ちます。日本人のヴォーカルでこの基本すら出来ていない人がおり、がっかりします。特に、ある音符に対して長音の母音が来たあとの子音を、カーメンなどの一流ヴォーカルは正確に、かつ実にキレイに発音しますが、一部の日本人さんは発音しないか、適当にごまかします。これをやると、途端に歌が粗雑になります。そこには、正確に意思を伝えようとする努力のかけらもありません。それでは、ヴォーカルのヴォにもなっていないのに、、、
歌詞の玩味
- スキャットの魅力と限界でも触れましたが、歌物の曲では歌詞が非常に重要です。繰り返しになりますが、楽器奏者でも、しっかりしたジャズメンは、バラードをやる時に、その歌詞を頭の中で想起しながら、曲想を展開しているのです。ヴォーカルでは、上記したディクションがしっかりしていることを前提に、さらにその歌詞解釈に心を込めることが実に重要です。そして、Carolは若干インテリ臭いところがホノ見えますが、しかし、基本の歌詞を実に大事にして歌っています。無論、人によって経験が異なりますから、歌詞に乗せる思いに違いは出るのですが、それにしても各々の実感のこもった歌詞提示は、心を打たずにはいません。
美声、あるいは魅力ある声
- 柔らかくて、暖かくて、若干かすれ味(smoky)でもあり、でも明瞭で、というのが声だけをとった彼女の特徴でしょうか。この特徴は、努力の成果であるのか、恐らくそうでは無いのでしょうが、でも不公平なことに決定的に印象を左右します。Carolも、美声といって良いでしょう。人気ヴォーカルは、例えば、息子の好きなスティングにしろ、娘の好きな忌野にしろ、何とも抗しがたい魅力を備えているものです。
ヴァース(Verse)をちゃんとやる
- ヴォーカルの醍醐味の一つが、歌唱に至る前奏部のヴァースの工夫です。Carolは、ヴァースに対する認識でも他に例が少ない人です。歌に入る前に、その曲への導入のために用意された詩をしみじみと提示して、そこからリズムが入ってくる時の期待とスリルとを、じっくり楽しみましょう。
緩急自在
- Carolが、Lambert, Hendricks and Rossに準参加することにより全国的に知られるようになったことは別項で触れましたが、このグループで活躍するには活舌(早口言葉、といってもいい)が良くなければなりません。早い曲での彼女の節回しは、抜群のテクに裏付けられて、絶妙です。そして、じっとりしたバラードでの歌いぶり、これがまた実に聞かせます。正に、鬼の目にも涙を呼ぶこと間違い無い情感表現があります。緩急自在とは、このことを言うに違いありません。
そして、選曲
- Carolは、相当に自分の好みをはっきり言う人で、選曲とその曲の料理の仕方に付いては、絶対に譲らないらしい。いったんデビューしてから、十数年のブランクが出来たのも、「ポッと出が、何を生意気なことを言うか」と制作者が煙たがったこともあるという。しかし、そういう反発に耐えた更なる修行と、彼女の間違っていない言動に対する認識が出来て、好みどおりの録音が出来るようになったのだ、という。言われたままやるのではない、ジャズらしい自在な歌唱の展開の素晴らしさが、人々を説得したのでしょう。
(Home - Those Groovy Cats - Carol Sloane / BACK)