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Bill Evansの「Turn out the Stars」6枚組ボックス
  • Bill Evansの最晩年のライブ盤、それも4日間のギグのほぼ全てを収録した箱物、「Turn out the Stars」6枚組(Warner Bros 45925)は、50トラック以上もの大部の作品ですが、聴く人を決して失望させない・・・どころか思わず惹きこまれてしまうのも当たり前のことで、Evansを良く理解し、その信頼も得ていたジャーマネ、Helen Keaneオバサンが直接に制作を企画し、何とEvans本人も選曲に参加したという、専属レーベルが折り紙を付けた、傑作中の傑作です。
  • Marc Johnsonという、Bill Evansとしては20年前の59年に、オリジナル・トリオを始める動機になったともいえるほどに寵愛した、かのScott LaFaroの生まれ変わりかという程に、自己のトリオに迎えることを喜んだ若手のベーシストを得て以来、まぁ、結果的に最晩年となる数年の彼のトリオの演奏は、いずれを聴いてみてもすばらしい高みにあります。そしてトリオの面子全員が、最晩年どころか、死期間近という時期にあたるトリオの活動であることを、噛み締め始めた80年の6月に、いつものヴァンガードでやった4日間のギグの全貌を捉えた、この「Turn out the Stars」6枚組の箱物は、Evansファンならいつも座右において置くべき傑作でしょう。
    「Bill's Hit Tune」を皮切りに・・・
  • 古巣ともいえる地下のクラブの、台形の短い上辺にある舞台への、久しぶりの登場を喜ぶファンの拍手が鳴り止まない中、Bill Evansトリオが演奏を始めます。冒頭の「1 Bill's Hit Tune」が聴こえて来ると同時に、聴衆の眼前にEvansワールドが浮かび上がったことでしょう。多くのファンが、「コレ、コレ・・・これですよ。」と心の中で呟いたに違いありません。テーマ旋律は、きれいな下降旋律が聴く者を酔わせるリフ曲です。その極く短いリフが頭に浮かんでから、いくつかのヴァリエーションを鍵盤上で爪弾きながら、ジャズ曲の形にまとめて行くのは楽しかった筈です。本人曰く、「ゆっくりしたテンポで演奏すれば、フランス映画のタイトル曲になってもおかしくない。なのに、コード進行や展開はアドリブをする意欲を掻き立てる面もあるんだ。」その彼の言が納得できる、自然さがあります。そのリフは、彼らしいきれいな旋律であると同時に、誰にでも親しめる判りやすさがあるので、「これは、ヒット曲にだってなりうると思う。」と考えて、わざわざ「Hit Tune」というタイトルを選んだのでしょう。そして、その演奏の展開が見事です。Evansの短いテーマ提示が終わると同時に、そのテーマの綺麗さに寄りかかることなく、また馬鹿テクに頼るのでもなく、Marc Johnsonの実に素晴らしいソロが続きます。この演奏を聴くだけで、最新の、というのか、これが最後と言うべきなのか・・・Evansトリオの到達点はココだと、聴く者は納得するのです。正に制作者が「Turn out the Stars」という表題を選んだように、この作品は「偉大なるジャズの星が消え行く(turn out)瞬間」を忠実に捉えています。
    「Bill's Hit Tune」に続いて・・・
  • 「Bill's Hit Tune」が終わると、長いピアノ・ソロによるイントロが始まります。正に幻視のピアニストらしい出だしです。遠くの方で靄(もや)に霞んで見えないイメージが、風が微かに吹いているからでしょうか、少しづつ輪郭がはっきりしてきて、「うぅうーーん・・・あれかなぁ」と見当をつけかけるとその通りで、ますますイメージがはっきりとしてきて・・・出ましたぁ、「Nardis」です。この頃は、こんな風な速めのテンポを選ぶことが多く、それがこの時期のEvansの、「生き急ぐ」かのような切迫感を伴った印象につながっています。この4日間にわたるギグで、Evansは「Nardis」を毎日、15分強の尺で披露しています。これらを聴いていると、Nelsonはどうしても、晩年のColtraneが「My Favorite Things」をどのギグでも採り上げて聴かせていたことを、想い起こさずには居れません。Evansでも、Coltraneでも、正に歩くように、息をするように毎度、毎度、これらの曲に挑んで、一度も同じ展開にはならないけど、(矛盾しているような言い方ながら)一度として違った印象を与えることもないのです。Miles然り、Rollinsも然り・・・ジャズメンも、このレベルにまで来てしまうと、演奏する曲は何でも良いのだということが良く判ります。我々ファンは、そのジャズメンを聴くのであって、その曲を聴くのではないのです。全部で58トラックあるこの箱物ですが、演奏されるのは30曲強であり、重複トラックが多いのもColtraneと同じであり、それは正に「それで何の差し支えもない」ことなのです。
    長くなるので一旦ここで切って、この続きはここをご覧ください。

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