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「Record Buyer's Diary」(内門 洋 + ミズモト アキラ)

  • 副題が「レコード・バイヤー内門洋の華麗なる海外買い付け日記」となっています。欧米で長年レコードの買い付けをして来られているという内門さんに、その日々のこもごもを、エディターのミズモトさんが聞き出すという趣向の本です。内門さんは、オール・ジャンルを扱うとおっしゃっていますが、主眼はジャズではありません。そのメディアは、アナログ主体です。Nelsonのような「お客さん」と違って、「レコ屋さん」ともなれば、好きな盤を拾うのではなく、売れそうなというか、売りたい盤を拾われるのでしょう。内門さんの恐ろしいばかりの買い付けの様子が、ミズモトさんによってうまく聞き出されていて、ご商売としての猟盤の毎日が垣間見られる、実に興味深い読み物です。
  • 内門さんは、1966年生まれで、バンド、DJを経て、レコ屋の世界に入られたようで、何冊か執筆もされています。お店の方は、クラブやDJネタになるものなら、結構何でも扱っておられるようです。聞き手のミズモトさんは、69年生まれのエディターですが、一時期レコ屋もやった方のようです。
    構成
  • Record Buyer's Diary米国を主体に、独英も交えた買い付けの様子と、最後には聞き取りをしているミズモトさんが米国西海岸での買い付けに同行した様子が、出発から帰国まで順を追って4回分、克明に語られています。
  • その買い付けに伴う切符や宿の手配、レンタカー等の移動手段の確保、時に2食となる食事、獲物の梱包・発送等々も詳細に語られるので、臨場感があり、「ナルホドなぁ、、、」と感じ入るばかりです。
  • 日本国内の卸を使うだけでは、やはり品揃えがうまく行かないのでしょう。店に客を惹き付け続ける看板として、日本では余り見かけない珍品を壁に飾り、エサ箱にもそれなりのブツを並べておくことも、無論、必要でしょう。しかし、身銭を切って、一日に数店を経巡って、ひたすら買い付けに集中する姿には、商売っ気だけではできないだろうという鬼気迫る迫力があり、「やっぱ、この人は音楽が、トコトン好きなんやろなぁ、、、」と納得できます。
    プロの買い付け
  • 先ずは、その量に、当たり前のことながら、感服しました。Nelson等の市井のジャズファンが、海外旅行あるいは出張ついでに買う量は、たかだか数十枚です。一番ぐわんばった時でも、百枚前後という記憶しかありません。当然、「そんな、甘いもんやあらへんがな。」というほど、買い込まれます。
  • 「プロの買い付け」は、そんなナマ易しいものでは、やはり、ありませんでした。ちょっと考えてみれば、それは至極当然のことです。まぁ、滞在一週間としても、アゴアシで最低30万くらいの直接経費がかかっていますから、粗利で50万以上は確保しないと話になりません。
  • 内門さんは、それなりの盛り場に店を構えて商売されているようですから、家賃、保証金、光熱費等がかかります。買い付け中も、店は誰かがお守りをするはずです。その辺を算段すると、一枚平均で原価に千円は乗せると仮定しても、大雑把に言って千枚の買い付けをしないと、商売にはなりません。「内門さんの人件費は、どうなっとるんやろうなぁ、、、」という気もしますが、、、
  • そういう銭勘定とは別に、店に客を惹き付け続ける看板としての珍品をいつも壁に飾っておかないと、店の存在価値が無くなりますから、そういうネタにも、気配りは欠かせません。
    気合の入った買い付け
  • 内門さんは、その土地、土地にあるレコ屋に目星を付けておいて、開店と同時に入店して数十枚を拾い、すぐに次のレコ屋に移動して、またそこでも数十枚、時には2,3百枚を拾って、、、ということを、買い付け中は毎日続けられるようです。移動は車であり、大体、座席は夜には満杯になりますから、宿に着いたら車から降ろして、、、という毎日のようです。
  • 店内では、まず店全体の雰囲気をつかんで、その店での買い付けの狙いを、慎重に見定められるようです。そして、狙いのエサ箱を順にのぞいて行って、20枚近く拾うと、店の片隅に持ち込んでの試聴をされます。必携しておられる電池式のレコード・プレーヤーとヘッド・ホーンで、何曲か拾い聴きをするわけです。店にも試聴機がありますが、独占できませんし、商品としての聴き所をチェックするには、自前品でなければ融通が利きません。無論、拾い聴きなんですが、一瞬のうちに、内容、状態、価格等で取捨を判断するそうです。座り込んだままで、全部を試聴し終われば、1サイクルです。それが済めば、さらに次のバッチを拾い出して、、、と延々と続くわけです。
  • 最終日に近づくと、梱包準備を始め、レコ屋の値札をはがして、段ボール箱に詰め込み始めます。趣味のお買い物ではないので、梱包品の明細書を作って、運送業者に渡せるようにします。この書類を、そのまま通関の時に流用するんだそうです。大体、2,3日前からそれを始めますが、出発前夜は時には、完徹になってしまうそうです。
  • Nelson等の(私的な)猟盤とは、一見似ているようでいて、相当に違いますし、やはりソロバン勘定が付いて回ります。
    直接買い付け
  • 内門さんの店がそうだからなのかも知れませんが、やはり直接の買い付けを欠かされないようです。Nelsonが知っているレコ屋さんだと、専門知識は当たり前として、得意分野以外のレコード・ガイド本に載っているような盤は、ほぼ暗記されていて、それ中心で仕入れ・買取をされるようです。ですから、国内市場と輸入卸を使えば、わざわざ海外まで買い付けに行かなくっても、最低限の商売はできるようです。ですが、内門さんは自分の嗅覚を頼りに種々の分野を漁る方であり、その独自の品揃えがウリのようなので、やはり海外買い付けは必須のようです。
  • もうひとつ、「それは、辛いだろうなぁ、、、」ということもあります。内門さんは、海外買い付けしたものはすべて店頭に出し、個人的な所蔵には回さないそうです。それをすると、キリが無いということの他に、品揃えが荒れるということがあるようです。Nelsonも、それには賛同します。
  • 友人(またはその御家族)が止む無く所蔵を処分するという場面に出くわして、「要るのは、持ってって良いよ」と言われたことが、Nelsonにも何度かあります。それで、相場の値段で何枚かを抜き取ったことが、何度かあります。しかし、その時の経験から、今は痩せ我慢で、抜き取りは遠慮することにしています。抜き取り後の処分品を見回すと、「これは、クズばっかやなぁ、、、」と誰でも判るコレクションに、成り下がっていることに気付いたのです。「彼の所蔵は、それなりに筋が通っていた」という面影が、まったくありません。それは、マズイと思うからです。内門さんのそういう見識には道理があるので、敬意を表します。しかし、現地で梱包をしながら、「これは、手元に残したいなぁ、、、」とホゾを噛むことが、結構あるようです。
  • Nelsonは、レコ屋さんのお客で、内門さんとはレジの反対側に居ます。買い専門で、時に売りに回りますが、いずれにしてもお客さんというか、まぁ、言ってみれば「カモ」です。いつも漁っているエサ箱に並んでいるブツが、どのような経緯でそこに鎮座するに至ったか、レジの反対側から見た景色はどんなものなのか、それに時に思いを致すのも、一興ではありませんか。現に、目からウロコな話も、幾つかありました。
  • なお、我々素人はレコードを買うことを、「ゲットする」、「拾う」、「保護する」とか言いますが、内門さんのような玄人さんは、「抜く」、「掘る」等と言われるようです。
  • あれやこれやと読み進んで行くうちに、「レコ屋さんも、エライ苦労されてるんやぁ、、、」と頭が下がりました。
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