- Full Houseは、Wes Montgomeryのオリジナル・ワルツです。右掲盤のコメントにも書いたように、「満員御礼」と「ポーカーの手役」とを引っ掛けた、シャレた標題になっています。製作者のOrrin Keepnewsがライナーに記している所によれば、このライブでの「Full House」とは、フロントであるWes MontgomeryとJohnny Griffinが2枚のエースで、リズム・セクションであるWynton Kelly、Paul ChambersそしてJimmy Cobbが3枚のキングで、途轍もない良い手役であるとのことです。
- この曲をWes Montgomeryが作曲したのは、初録音の前後だと思われます。というのも、初録音が行われたのは右掲のとおり、西海岸のジャズ・クラブ、「ツボ」であり、このギグの評判が高くて、連日「満員御礼」状態であったこともあって、この標題にしたと聞いているからです。この曲は、2年後の欧州楽旅中にも、パリでも録音されており、そこではWes Montgomery - Johnny Griffinのコンビはそのままに、ピアノだけがHarold Mabernに代わっています。
- ここで採り上げるのは、当然、初演にして決定版である「ツボ」での演奏です。百言を要するよりも、聴いて頂くのが一番なのは当たり前ですが、何とも「ゴキゲン」というか、「Groovy」な演奏で、これがジャズの楽しみです。思わず体が揺れてきてしまって、耳だけでは無く、全身でスィング感を満喫できる名演です。もし、このギグの場にNelsonが居たら、恐らくのけぞって、息も絶え絶えになっていたに違いありません。
- 演奏自体は、9分を超えるという長尺で、イントロはラテンの味付けがしてあるギターとサックスのユニゾンによる8小節です。直ぐにサックスがリードするテーマ提示で、リフ気味の簡単な旋律ながら、強烈にシンコペーションが効いていて、正にジャズ・ワルツの典型です。間に挟まるサビも、気が効いています。良く出来たジャズ・ワルツは、普通の4ビートと聴き手に勘違いさせる時があると言いますが、その通りの自然なスィングです。2本足で、マーチが自然な人間なのに、うまくコツを覚えるとワルツのステップを上手にこなせるように、ジャズでも3拍子で実に快調にスィングできることの証左です。
- アドリブは、Wes Montgomery、Johnny GriffinそしてWynton Kellyの順番で、いずれも筆舌に尽くし難い巧さに唸ります。くどくなるので詳細には触れませんが、Wes Montgomeryのオクターヴ奏法、Johnny 'Little Giant' Griffinの疲れを知らぬブロー、Wynton Kellyのジャンプとブロック・コードなど、見せ場をしっかり作って、お客を唸らせる仕掛けがたっぷりあります。テンポ自体が速くないので、アドリブも大部分が倍テンポであり、それと原テンポとの行き来によって、演奏の山谷が形作られて、すんなりと耳に入って来て、実に心地良い演奏です。
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