そんな隔靴掻痒なことばかり言っていないで、先ずは卑近な例を挙げて説明を試みます。例えば今となっては昔懐かしい「At the Village Gate/ Herbie Mann」を初めて京都市内荒神口の「シャンクレール」で聴いた頃の話です。60年代のジャズ喫茶の定番で、これは一日に一回はかかる人気盤でした。、冒頭のヒット曲「Comin' Home Baby」が終わって、2曲目は名曲の「Summertime」です(本メモのアップ時点で聴ける動画は、これくらいが適当ですが、もしリンクが切れていたら、ご自分で代りの動画を探してください)。
しかし・・・しかしジャズ・フルートの名手と言われるHerbie Mannですから、現にその部分に至るまではフルートを駆使していました。幾つもキャッチィな曲芸的フレーズを披露して、満席の観客を大いに唸らせていたにもかかわらず、ここでは一転して「手抜き」の単音吹奏に堕してしまっているなんて・・・と思ったわけです。しかし演奏全体としては盛り上がりに変化は無く、現に観客は大いに沸いていて、ブーイングなどしていません。フルートはその後も6分前までアドリブを続け、バイブにアドリブを渡します。このライブ録音された「Summertime」は、シングルカットしたら売れに売れて、ビルボード誌でも注目された「Comin' Home Baby」に負けず劣らずの名演で、B面も潔く一曲に抑えた「It Ain't...」との3連発なんですから、LPとしての売れ行きも凄かったと言います。
そこでこの単音アドリブですが、確かに舞台中央に立って単音を吹くだけというのは芸が無さそうですが、実は良く聴けばその裏で伴奏陣が曲のコード進行に乗って絶妙なハーモニーを維持し続けています。Herbie Mannは、そのコードの変化に嵌まる単音を選んで吹いていますから、演奏全体がキレイにまとまっています。コレが、単音アドリブの肝なのです。まぁ、単音は極端に過ぎるとしても、Grant Greenが「Joshua Fit the Battle of Jericho」や、Michel Peturuccianiが「枯葉」でも、とてもフレーズとも言えない数音の単純なフレーズでこれをやっています。2分25秒から3分8秒辺までの単純な連符アドリブ・・・4分等の上手い単音アドリブに気付いたこともありますし、どの演奏だったか今は記憶にないのですが、Keith Jarrettにも良い例があった筈です。、