「Sometimes I'm Happy/ Oscar Peterson (The Trio live from Chicago) 」における「Lester Youngの歴史的な締めフレーズの引用」
前回の「Sometimes I'm Happy/ Walter Bishop Jr.Trio」における「ウォーキング・ベース」 についてのメモを書き終えた後の見直し中に、途中に出て来る・・・この曲は「Sometimes I'm Happy」 だけど、オスピーじゃない しぃ・・・聴き覚えはあってもピアニストの名前 がなぁ・・・という部分が舌足らず気味だと気付きました。そして「話がもっと良く伝わるように・・・」と思って、上記標題のようなメモにしてここで補足します。
三題噺
「Sometimes I'm Happy」、「オスピー」(Oscar Peterson)と来れば、三題噺の残りのお題は「Lester YoungのKeynoteセッション」となります。
前回のメモは、手下の不始末の尻ぬぐいで汗をかいた末に、ジャズ喫茶の名店「響」 でやっと一息付けた場面で始まりました。盤が変わって今度はピアノトリオがやる「Sometimes I'm Happy」が聴こえて来た・・・となれば反射的に「オスピー」そして「Lester YoungのKeynoteセッション」 を想起してしまうのが、ジャズファンのサガです。
話は、モダンジャズへの移行期の立役者の一人、Lester YoungがKeynoteレーベルに初リーダー作 を1943年末に吹き込んだ時に遡ります(某Nelsonの生年でもあります)。その盤の最初のセッション分の末尾にあるのが、この演奏 です。「The One and Only」のセクションの当該項目 において、Lesterの初録音 、Petersonのライブでの引用 などの詳細について触れてあります。
要すれば、オスピーがやった「引用」の元々のフレーズはLester Youngが録音したもので、歴史的な・・・と言っても良い、ジャズ史上に残る同曲の演奏で吹いた 絶妙な締めフレーズです。元フレーズは2分50秒辺りからの約15秒 ですから、もう一度上記動画でお聴き直し下さい。実に洒落ていてジャズらしさが横溢してるじゃないですか。
コレの元SPが発売されて以降、この締めが素晴らしいことが広く認識され、「アレは、スッゲェよなぁ・・・」 と皆が噂するようになったので、オスピーもLesterに最大限の敬意 を払ってうやうやしく引用したのです。
ジャズの演奏での既知の旋律の引用 は、アドリブ中に思いついて・・・あるいは今日はこれで行くと事前に決めていて・・・のことですが、いずれにしてもアドリブの途中 に挟み込むのが普通です。でも、オスピーがこの締めフレーズを、意表を突いてイントロ で、かつ伝説の15秒全部をそのまま引用 したので、さしもの聴き巧者なシカゴのジャズファンでさえ、「その手があったかぁ・・・」 と唸ったわけです。
ここでは、上記メモ をご覧になった方への更なる補足を少ししておきます。
オスピーの演奏とは・・・
オスピー、ことOscar Peterson はわが国でも人気絶大なピアニストであり、JATP 一行とのツアーが初来日でした。Ray Brown (b)とEd Thigpen (d)とによる「ザ・トリオ」 (ピアノ・トリオの決定版、という意)としては1964年 に、最初の来日をしています。Nelsonも、学生時代に京都 で聴いて、Standing Ovation(満場総立ち)の仲間入りをした記憶があります。
この年はジャズメンの来日が大流行りで、ナントあの「Miles in Tokyo」 なども録音されています。この演奏が収録されている右掲の「The Trio Live from Chicago」 は後に、このLondon House(Chicago)でのライブ録音を完全収録したボックスもの(5枚組CD)になっており、それの最初の発売盤でした。
Nelsonは、当時国内発売となったLP2枚組ボックスもの で持っています。オスピー自身のコメントも載っており、「選曲については皆で散々話し合った上で、今の仕上がりになっているんだ。」とかなり気合が入ってますから、自分でも出来の良いライブだったと自信が有った に違いありません。
このイントロを 聴いても判りますが、良いお客さんばかりだったのでしょうか、大いに盛り合っていますねぇ。オスピーは大概そうなんですが、いわゆるワンマン・トリオで全編を一人で弾き続ける タイプです。10分以上の演奏を音圧グラフで見てみましたが、ほぼ70%くらいの音量で殆ど山谷が無く、 例の「ウンニャ、ウンニャ・・・」 という唸り声がきこえて来そうな、絶好調の雰囲気があります。
それで引用は・・・
そこで、この演奏での引用の妙は何処に出て来るのかと言うと、オスピーはお客さんの様子を見た上での絶好の掴みとして、引用をイントロに持って来ました。 それがこんなイントロであり、正にナルホドとお客さんが唸った筈の着眼です。お聴きになって判る通りにこのイントロは、何か郷愁を誘うような、耳馴染みの方も多い筈の引用です。こういう「昔の人は偉かったなぁ・・・」 気味の雰囲気が、この演奏ではそこここに見当たります。例えば動画の2分35秒辺りもそうだと思われますが、 これなんかは何度聴いても、「Things Ain't What They Used To Be」 のフェイクだと思えます。ご興味があれば、上掲したオスピー演奏の動画と、例えばDuke Ellingtonの演奏 とを聴き比べてみて下さい。
・・・と言った調子で快調なアドリブが流れるように続いて行って、演奏も締めに近づくと、 というような盛り上げのリフ をやったのも、お客さんの顔を見ての決め技 でしょう。そのまま、 後テーマ提示になって、ここでも再度Lesterへの畏敬の念を込めた引用を繰り返し て・・・さしもの素晴らしい演奏も一丁上がりとなるのでした。