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「Minor Vamp/ Benny Golson」における「繋ぎリフ」


  • ジャズ喫茶の大人気盤である右掲の「Bluesette/ Curtis Fuller」にある「Minor Vamp」は、中々キャッチィなトラックですが、この演奏でもちょっと変わった形での「繋ぎリフ」が使われています。この演奏の動画はここにあります。
    イントロは・・・
  • この演奏の入りは、Jimmy Garrisonの追い込むようなピチカートで、


    「何やらこの演奏、良さげじゃないのぉ・・・」って期待させる出だしです。そのままフロントの二人がトリオのバッキングに乗って、


    前テーマを披露するようで・・・と言いたいんですが、なんか普通ではありません。と言うのも、その合奏はコードだけで出来ていて、しかも4小節くらい続いたかと思うと、フロントの一人が抜けて合奏は終わりのようで、残ったBenny Golsonのテナーが前面に出て来ます。


    でも、吹いているフレーズは「どう聞いてもアドリブみたいだなぁ・・・」と思っているとその通りで、調子良く、っていうか、提示されたコードに巧く乗っかった彼のペースでのフレーズが、ドンドンと出て来ます。コレはやはりもう、一人目のアドリブに入っていたに違いなく、その担当がテナーなんだと少しづつ判ってきます。
  • つまり、こう言う事なのでしょう。イントロのピチカート終りからテナーのアドリブ開始までの間が、普通に考えると前テーマ提示となりますから、その間の4小節くらい、時間にして20秒くらい・・・・コレがこの演奏のテーマに違いありません。インスト曲のテーマ旋律と言えば、大体1分くらいはあるものですが、20秒とはド短かです。とは言え、フロント二人によるテナーとトロンボーンのハモリは、他の追随を許さない「Golsonハーモニー」です。このハモリは、長く無い上に、全くのコードだけで、リズム的にも「タッタァー・・・」というパターンの繰り返しです。でも、この演奏にテーマ(旋律)に当たるモノがあるとすれば、このたったの4小節、それが前テーマ提示に違いありません。
    マイナー調のバンプ
  • Jazz Glossaryでも書きましたが、ジャズではこういうフレーズと言うか、リフを、「バンプ(vamp〉」と呼びます。この演奏では、テーマはバンプなようです。しかもそれがマイナー調なんで、取りも直さずコレはマイナーなバンプということです・・・だからこの曲の標題は、マンマの「Minor Vamp」にしたんだ、と言われても納得であり、作曲者はBenny Golsonです。と言うことで、開始後一分も経たないうちに、テーマはド短かのバンプで、リズム・パターンも単純ですから、Golsonが標題を一般名詞でもある「マイナー・バンプ」と付けても不思議ではないんだ、と大方の事情がほぼ判ってきまです。
  • このテナーのアドリブが大盛り上がりして行きますが、余り解決感が無いままに、


    再びフロント2本での合奏になります。「ン、コレは何だ。」となりますが、それでこの合奏がアドリブ受け渡しの合図と言うか、ここで言う「繋ぎリフ」だと言うことのようです。
  • その繋ぎリフが済むと、そのまま今度は、


    トロンボーンのアドリブのようです。アドリブは快調に進んで行き、


    また繋ぎリフが入って来て、アドリブがピアノに移ります。そしてそのピアノの軽快なアドリブも終わると、


    また繋ぎリフです・・・が、次のアドリブが始まりませんから、アドリブ回しは終わったと思えます。普通の演奏なら、順当には後テーマ提示となる筈ですが・・・ここではテーマが、そのまま繋ぎリフになってるんで(orz)、それが4,5回繰り返されながら、段々とデクレッシェンドして行って、演奏は締めになって行くんで、まぁ、理屈もチャンと合っている訳です。
    このアレンジは・・・
  • この「Minor Vamp」が聴ける盤と言えば、上掲の「Bluesette/ Curtis Fuller」の他にも「Brass Shout/ Art Farmer」とか、「Blue Soul/ Blue Mitchell」等がありますが、いずれもがハードバップご隆盛中の1959年の録音です。各盤では、「Arranged by Benny Golson」と特記されており、このコードだけ(orz)のテーマ旋律(つまりはバンプですが・・・)をベースにすること、イントロに使うベースは(多分)、指定の譜面によるピチカートをさせて雰囲気作りをさせること・・・という嵌め手気味なアレンジは、Brenny Golsonがやったと言うわけです。
  • 各盤での演奏の詳細についてまで、このメモでは踏み込みませんが、それぞれ優れた演奏だから聴いてみて下さい。ここでは一例として、「Blue Soul/ Blue Mitchell」での演奏ぶりを紹介します。この盤はフロントがBlue Mitchell(tp)、Jimmy Heath(ts)、そしてCurtis Fuller(tb)の3管で、何とも贅沢なフロント陣です。結構メリハリをクッキリさせた演奏にしたかったようで、やはりGolson臭が芬々とする演奏です。特にイントロのピチカート中に、


    管の効果的な強奏を突っ込むと言う工夫があります。思わず体を前に乗りだしたくなるような緊迫感があって、その掴みに乗せられているうちに、演奏本体に惹き込まれて行きます。この演奏では他にも、セカンドリフをオマケに付けるとか・・・リフの使い方自体が凝っているので、それもそのうちに紹介します。
    「バンプ」について再整理しておくと・・・
  • Jazz Glossaryセクションのバンプの項でもメモしましたが、演奏の導入部とか、間奏部に出て来るコード及びリズム・パターンだけのフレーズやリフを「バンプ」と呼びます。Jazz Glossaryの項では、ヴォーカルでの例を挙げていますが、短いコードを繰り返す伴奏パターンで、ライブだとその場の雰囲気を見ながらの伸縮が可能です。こういう繰り返しパターンの手法は、ジャズに限ったものではなく、クラシックでも時に使われます。スカルラッティがソナタで使った通奏が斬新だと評判になったため、学者達がそれを「ヴァンプ(vamp)」と呼び始めたのを嚆矢とします。

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