「Kelly Blue/ Wynton Kelly」における「繋ぎリフ」
今から半世紀も前に(orz) 、ご隆盛の頃のジャズ喫茶に出入りし始めた方なら、誰もが「The In Crowd/ Ramsey Louis」 、「Sidewinder/ Lee Morgan」 それに「Work Song/ Adderley Brothers」 なんていう、キャッチィな演奏に魅入られた経験をお持ちな筈で、つい鼻歌なんかに出てしまったものでした。油井 さんがそれに気付いて、「ソバ屋の出前 の兄さんまでが、モーニン を鼻歌で唄う今日この頃です。」なんて言った、という良い時代でした。
そんな演奏の一つである「Kelly Blue/ Wynton Kelly」 には、個人的に「繋ぎリフ」 と呼んでいる「ジャズのスパイス」が振りかけてあります。このセクションでは、そういう細かい気遣い、と言うか練り上げを針小棒大(orz) に採り上げています。そんな仕掛けに気が付き始めると、その先には「冥府魔道」、「人跡未踏」とまで言わないにしても、「知る人ぞ知る」あるいは「ケモノ道」 が待っています。
定番中の定番なんですが・・・
この演奏は右掲のようにその曲名をマンマ、盤名に迄付けてある、3管セクステットとピアノトリオ とが一カ月挟んで録音した人気盤です。これらは後に、「Keep It Moving」 というTwofer盤(Milestone M-47026、2枚組)の形でも出ていて、コレは多分、本盤と「Wynton Kelly Piano」 盤とを一緒にして纏めたものではないでしょうか。この3管セクステットによる演奏は11分 ものであり、その動画はここ にあります。(11分と長い演奏なので投稿者さんは気を利かして、その時々の演奏者のアルバムや横顔などを、動画の画面に出して呉れていますから、楽しめます。)
この曲の他の演奏にご興味がある方向けでは、Cannonball Adderleyが録音したビッグバンド盤「African Waltz」 中に3分程度の演奏 がありますし、更にはWynton Kellyを尊敬して止まないらしいDan Nimmer と言うピアニストによる、これもまたベタな「Kelly Blue」(2006年、Venus、SJ誌選定ゴールドディスク)と題した盤があります。そこでは28分過ぎ辺りから、この曲をトリオで演奏していて、ベースが弾くイントロまで元演奏からパクるって言うか、恭しく頂戴するところなんか、彼のWynton Kellyへの憧憬ぶり が伝わってきます。
イントロから・・・
この演奏の入りは、Paul Chambers による「プゥーーンッ」 というピチカートで始まります。それから、Bobby Jaspar (fl)がトリオのバッキングに乗って、 前テーマをリードします。そして直ぐに一番手として、リーダーのWynton Kellyのピアノが4分頃まで、 結構長めのアドリブを取ります。実に良く飛び跳ねる、小気味良いタッチは流石です。
ピアノが「アドリブは終わりだよぉ・・・」ときれいに解決感を出したので、「次は、フロントの誰がアドリブするのかなぁ・・・」と思っていたら・・・ナント、ここに本メモの主題であるジャズのスパイス が仕込んであるんですねぇ。お聴きのようにアドリブ終わりの解決フレーズが出た後は、 セクステット全員の合奏になります。
ピアノソロからの渡し
おやぁ、テーマの再提示 でもおっ始めるのかなと思うとそれもハズレで、テーマ旋律のごく一部、数小節くらいをリフ扱いにしてここにブッ込んで来ています。つまりピアノのアドリブ後にリフが入って来て、そのリフ終りを待って 、次のアドリブに渡すという寸法のようです。
次はBobby Jaspar で、4分丁度くらいから アドリブを取ります。なかなか流麗なフレーズずくめではありますが、欲を言えばリズムへの乗りが杓子定規過ぎ て、こっちの体は揺れませんね。そして6分前になると、次への手渡しになり、また以前と同じリフが出て来ます。つまり、この演奏ではアドリブとアドリブの間に、リフを挟むスタイルで通そうということなんだと判りました。
6分少し前からのアドリブはNat Adderley (cor)です。
Golsonも汗ダラダラで・・・
フル・ブロウも交えた熱気溢れるソロで、大盛り上がりしてみせます。その次のアドリブもリフを挟んで、今度はBenny Golson (ts〉が アドリブを取るようです。
「始めは処女の如く、後は脱兎の如し」 の好例で、直前のペットの見事な流れを引き継ぐんだと思っていると、そのうちにリキ全開となりました。この人はこの展開を良くやるので、それをからかう意味で皆が言う「頭の天辺あたりから汗が噴き出す」 感じの物狂おしさで、またもう一しきりの大盛り上がりです。
そこで解決感も出て、 「またリフになるのかなぁ・・・」と思っていたら、フロントのアドリブはもう全員が一巡しちゃっているんですね。そうすると、「後はベースか、ドラムスが出ると言う手もあるなぁ・・・」と思っていると・・・今度はリフがリフでは終わらずに、テーマ旋律を全部最後までやっちゃう感じなので、これは後テーマ提示 だと判明します。そのままメデタシ、メデタシで、デクレッシェンドして締めでした。
顔出しの時も・・・
結局、この演奏ではアドリブ渡す時になると、テーマの断片を使ったリフを挟むという、バンドの一体感を出すという演出が使ってあったわけです。Nelsonは個人的に、こういったリフの使い方を「繋ぎリフ」 と呼んでいます。その繋ぎリフが終わって自分のアドリブになる時ですが、良く聴くと次のアドリブを取る人はリフを吹いたそのままのペースで、 音切れ無しにアドリブして行くのが聞き取れます。コレはヘッド・アレンジを各ソリストが充分に心得ている証しであり、全体の演奏がキレイに流れていく感じが、聴く側に伝わるので好感が持てます。誇張して言うと、演奏をしているその場に、自分もいるような錯覚が起きる感じです。
・・・ということで、
只のリフではなく、セカンド・リフでもない、アドリブ引き渡し時に突っ込むリフ(繋ぎリフ) は結構事例があるので、「Minor Vamp」、「Impressions」等の例を次回から紹介しようと思っています。「こんなのもあるよ。」という演奏に気付かれましたら、その旨のメールを頂ければ有難いです。