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「The Cure/ Keith Jarrett」

  1. リズムに関するスパイスで「What's My Name/ Sonny Rollin」のようにちょっと凝ったフレーズをリズムセクションが打ち出す例を紹介した後に、そこまで敢えてせずに普通の、何てことがないリズム・パターンで聴き手の心を掴む「Walk Spirit, Talk Spirit」例を挙げました。そこで思い出したのが、この「The Cure/ Keith Jarrett」でも同様に、種も仕掛けも無い単純なリズム・パターンで聴衆を惹き込む演奏をしていたことです。
  2. この曲でのJarrettは、「ロック世代によるジャズ・スタンダードの解釈」だと良く言われるような「The Standards Trio」らしさが横溢する演奏をしています。ここ10年以上も、Jarrettはこのトリオでの演奏活動が長く続いているんで、新しいファンの中には彼のことをそっち派の「甘ちゃんピアノ」だと誤解されている方がいらっしゃるようですが、無論そうではありません。現在の境地に至るには、Cahrles Lloydカルテット時代があって、間にはDewey Redman等と組んでやった、一寸硬派な香りのスタイルがあっての上での、現在の「The Standards Trio」であり、そこに何か必然的なものを感じさせるので、昔からのファンも彼を支持し続けているのだと思います。Dewey Redmanなんかとやった素晴らしい演奏としては、この動画がアップされており、必見だと思います。このライブの後、慢性疲労とか言う症状が出てしばらく演奏活動を休止したことがあります。
    何てことはない、単純なパターンなのに・・・
  3. この「The Cure」盤は、ジャズを良くやるのでライブ盤が沢山あるNYCのTownhallでの公演を収録したもので、何ともワケワカなことに邦題が「ボディ・エンド・ソウル」になっています。彼のファンから、そういう筋が通らない標題の変更に、お怒りの声が多く上がったのを記憶しています。この盤の中で唯一の彼のオリジナルであり、原盤の標題にもなった「The Cure」と言う曲では、彼の演奏で時折起きる「ジャズ神の降臨」とNelsonが称する奇跡に遭遇できます。それもあってか、ECMはそれに敬意を表して標題に持って来たんだと信じていますので、Nelsonもその意味でファン達の抗議に賛同した一人です。Nelsonの手持ちCD(右掲)は、この時期に日本ポリドールが発売記念分限定で時々やっていた、仕上げに24K金の薄膜を蒸着してあるもので、思い無しか音が滑らかに聴こえます。同社の担当は、この盤の演奏をチャンと全部聴いたのかが疑えるような無神経な標題変更を一方でしておいて、他方では良い音が聴けるように24K蒸着をして発売するという気配りをしているのが、どうにもチグハグで笑えます。
  4. さて肝心の演奏の話なんですが、この原演奏のライブ動画はアップされていないようで、その後の1993年の「Open Theater East」での東京公演におけるVersionが動画でアップされています。雨天が確実と予報されていたので用意された仮設テントの下で、原演奏の11分よりも短い、8分強の演奏を聴かせており、この演奏もまた良い出来です。予報通りの雨の中、観客が雨合羽をかぶったまま公演を聴き続けているのが、背景として見えます。
  5. タウンホール公演での原演奏を聴くと、


    Jarrettが、「タン、タタタンッ、タン、タタタンッ」という感じの特徴あるリズム・パターンで、ヴァンプ風のイントロを弾き始めるとドラムスが合いの手を入れ、ベースはピアノのリズム・パターンをなぞって行きます。


    フエイクかな、と思えるフレーズをピアノが弾き始めて行き、それがどうやらテーマなのかな、と判ってきます。この曲の略譜がこのサイトにありますが、普通にイントロ、テーマ、ソロと言う展開を採譜してあります。テーマは「いわゆるテーマ」らしさがない、さりとてリフでもない・・・Jarret独特の朧気さが際立つたものです。日頃のJarrettの演奏が持っている「らしい雰囲気」が良く表れていて、テーマ提示後もアドリブに引き継がれて、段々とその「らしい様相」が敷衍・展開されて行くと・・・正にこれだよなぁ、これが「The Keith Jarrett Trio」だよなぁと思いつつ、最後まで惹き込まれずには居れません。まぁ、Nelsonが下手な多言を弄するよりも、お聴き頂くのが吉でしょう。
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