ジャズ・ヴォカリーズ専門のコーラス・グループ。「ヴォカリーズ」とは、コーラスの変種であり、既存の器楽曲のアドリブを含む演奏全体に、書き下ろしの歌詞をつけて歌うもの。ただし、その既存の演奏は、古今東西の名演である場合が殆どで、特にその絶妙なアドリブにまで歌詞をつけて歌う。よーく念入りに歌詞を聞けば、例えば「これはBasieの定番アレンジのもの」と直ぐに分かる人は判る、という一種の楽屋落ち仕立てとなっている。従って、元の演奏を知らないと、単なる早口言葉に聞こえるが、その早口言葉だけをとっても、文字通りに「舌を巻く」ほどの妙技となっている。更に、その書き下ろしの歌詞が、その定番の名演に絡む業界の裏事情を織り込んだものであり、という風に実に凝った仕掛けになっている。このような路線でベイシー曲集をやったSing a Song of Basieが、狙いの奇抜さとその「芸達者さ」によってジャズ界に一大旋風を巻き起こした。そして、ネタにされた御大Basieまでが、怒ると思いきや、「こりゃ、おもしれーャ」、と共演したいと言い出した結果、Sing along with Basieという盤が生まれた。ある意味で、御大Basieの度量の大きさを物語るお噂の一席でした。Annie RossがCarol Sloane、Bevanと代変わりするなど、メンバーが変りながらも数年は続いた。上記したような凝った仕掛けでありながら、驚いた事にネタ切れせずに、次々と新しい題材を披露し続けたから、立派なもの。ラップとは違うが、文化の基盤の違いからか、日本人が手を出さ(せ)ないジャンル。