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Cleopatra's Dream/ Bud Powell
  1. Cleopatra's Dreamは、Bud Powellの演奏でも、もっとも一般性の高いもので、Nelsonも初心者時代に初めて聞いて、直ぐに好きになった演奏です。哀愁を漂わせながらも、この人の他の曲には見られない華麗さ、明快さ、悪く言えば単純さがあるのですが、ジャズピアノの楽しさを味あわせてくれる上、この演奏がなければ中々取っ付き難いBud Powellに、先ず親しみが持てるという導入としても最適かと思います。
  2. (一寸通ぶって言うと)しかし、これはかなりのクセ球であったようで、言ってみればBud Powellを誤解するのにこれほど罪のある演奏は無い、とも言えるのです。演奏自体が、哀愁を帯び、親しみやすいので、これに味をしめて「The Amazing Bud Powell Vol. 1」を買い込むと、これが大変。おっとり刀で冒頭のUn Poco Loco3連発を聞いた人で、「エーッ」と鳩マメになった方は少なくないようです。幸いNelsonは、Un Poco Locoが大変気に入ったからいいようなものの、先ずCleopatra's Dreamの持つ雰囲気とは全く異なる、熱いバップ・ピアノの深奥がそこにあります。Cleopatra's DreamはBud Powellにとっては後期の演奏であり、バド・フリークに言わせると前期の神がかりな演奏がBud Powellそのものであり、その後の演奏は抜け殻だ、と極言するほどの違いがあります。だから、これを入門時に聞いてCleopatra's Dreamと同様に感心せよ、と言っても一寸無理なのが普通でしょう。それ程に、このCleopatra's Dreamは、この人の演奏の中でも特異な演奏なのです。だから、Bud Powellの話題になった時に、Cleopatra's Dreamの話をするのは、うるさ方が居ない事を確認してからの方が良いようです。そうでないと、回りのうるさ方があなたを白い眼で見る、という決まりの悪い事になりますので、御注意ください。つまり、Cleopatra's Dreamを聞いたからといって、Bud Powellを知っていることには、全くならないのです。ついでに言えば、大体CMに出てくるような耳馴染みの良い演奏は、皆この手の話に事欠きません。つまり導入、早分かりとしてそういう演奏は良いのですが、少し聴いて行くと若干鼻につくところが出てきて、、、ということになることが多いようです。だからと言って、こういうとっつきやすい演奏が、ジャズを聞き始める切っ掛けとして適している事も軽視してはいけません。
  3. とは言え繰り返しになりますが、この演奏は自体は素晴らしいものです。運指も良いし、展開も素晴らしいし、ピアノトリオの演奏としてみた時に、何も言う事はありません。シングルトーンあり、両手ユニゾンあり、ブロックコードまであるのです。Cleopatra's Dreamという名前も、「まぁ恥ずかしくもなく、よく付けたもんだ」という売れ線狙いの命名といえますが、この演奏に限れば実にピッタリと内容と合っています。
  4. ここでのリズムセクションは、Paul ChambersとArt Taylorですが、この二人の手堅いサポートもモダンジャズのピアノトリオ演奏としてひとつの典型と言い得るものです。さらに他の曲は、普通のトリオ演奏ですから、冒頭曲のリピート聴きしかしないのならいざ知らず、全体を聴けばBud Powellが必ずしもCleopatra's Dreamの演奏のように、明快かつ親しみやすいピアノを弾いてばかりいるわけではないことが直ぐに判ります。そういう意味で、この演奏だけ採っても良い演奏として価値がありますし、全部をじっくり聴けばバップピアノもそれなりに理解できるという、一挙両得盤と褒めておきましょう。Art Taylorは全編を通じてブラッシュで通しています。
  5. ジャケットについても一言。ここでお父さんを覗き込んでいる感じの坊やは、実の息子さんのようです。上記したように芸術至上主義に塗り込められた前記とは違い、後期のBud Powellはこういう家族写真をジャケ写にすることも許すような心境にあったことを示しているといっていいでしょう。
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