Lenox Lounge
- Lenox Loungeは、ビ・バップが勃興し始めた1940年には、既にハーレムで存在を知られていたという、由緒ある名門ジャズクラブです。古くは、Billie Holidayや、Miles DavisそしてJohn Coltraneなんかが、そして公民権運動割かんなりし頃にはマルコムX等が、たまり場にしていた、と店のサイトには記載されています。たしかに余り気取らずに、寛げる雰囲気のお店です。
- この店は、マンハッタンの北部、アフリカ系アメリカ人が大半を占める(中央)ハーレムの、そのまた中心といえる125丁目とLenox街との交差点の近くにあります。地下鉄2または3号線の「125丁目」駅で東南出口から地上に上がったら、その真ん前にあります。しかも、目抜き通りに面していて人通りが絶えませんから、まぁ、ハーレムでも一番来易く、かつ入りやすいクラブでしょう。もし初めてのハーレムなのなら、少し早めに来て、近くの町並みを見て歩くのも良いでしょう。ライブが始まる10時前頃までは、かなりにぎわっている場所です。表通りに面していますから、最終セットが終わる午前2時過ぎでも、タクシーあるいは白タクが簡単に拾えます。でも、そういう遅い時間にミッドタウン行きの地下鉄に乗る時は、ニューヨークにかなり慣れてからの方が良いでしょう。
- 店は1階にあり、前半分が普通のラウンジで、扉一枚隔てた後ろ半分が「Zebra Room」で、ここは夜9時過ぎからジャズが演奏される聴き専門の空間です。名の通りに壁紙が「しまうま」模様になっています。それほど大きくない、2,30席程度のハコです。仕切り壁の一角がステージで、その気であればカブリ付きでジャズを堪能できます。この部屋の奥が、キッチンになっているみたいです。出るジャズメンによって変わりますが、大体、2,30ドルで1セット聴ける感じです。ここでは、Richard Wyandsのトリオと、Patience Higginsのジャム・セッションを聴きました。
Richard Wyands
- Richard Wyandsは、日頃は他人のバンドのサイドメンをやっていることが多いそうですが、たまに自己のトリオを組んで出ることがあるようで、丁度そういう機会に行きあったのでした。おそらく自身も80才近いのでしょうが、トリオを構成するEarl May(b)と、Eddie Locke(ds)も、まぁ、年では負けてはいないようでした。女性ヴォーカルのDennis Thymesが、このトリオに花を添えるという趣向なので、それも良かろうと出かけて行ったら、ステージにはサックス等のリード楽器も置いてあります。ドラムの常置というのはあっても、マイ・サックスを置いている人はいないでしょうから、これは今日はカルテットということになりそうです。9時開演で、店の隅でおしゃべりをしている爺さま方(^^;の中の一人、坊主頭の人がステージに向かうので良く見ると、それがRichard Wyandsでした。皆がステージに上がり、一人がテナーサックスを取り上げて、、、さぁ、演奏開始のようです。採り上げるのはバラードばかりですが、乗ってくると結構ブローしたりして、まぁ、立派なものです。Richard Wyandsのピアノも、悪く言えば抑揚に欠けるということでしょうが、肩肘張らずに、しかししっかりとスィングして、コブシも効かせて、文句ありません。James Carterのように腕力で押し切るジャズも良いんですが、こういう年輪を感じさせる(というか、実際にもかなりの年なんで)、落ち着いていながら、しっかりとジャズの良さが感じられるジャズも、これまた良いものです。飛び入りしたサックスは、あのBill Easleyだったようで、ソプラノ、フルートも持ち替えで演奏していましたが、実にうまい人でした。ハーレムでは、こういうビッグ・ネームが気軽に飛び入りするんですねぇ。客人のヴォーカルも、メチャ上手いわけではありませんが、ツボは押さえています。
Patience Higginsのジャム・セッション
- ハーレムの主の一人であるサックス奏者のPatience Higginsが、毎週月曜にここでジャムセッションをやっているので、聴きに行きました。人柄が良いので慕われているPatience Higginsが座回しをやって、次々来るジャズメンを舞台に呼び上げて、毎週楽しくジャズるという趣向です、、、ところが、この日はPatienceが居ません。どうしたのかと思っていると、JVC Jazz Festivalの「Arthur Kitt Tribute」に駆り出されて、Carnegie Hallに行ってるんで、「セカンド・セットにならないと来られない」とのことでした。Patience不在のまま、テナーの若手がメインで1セット目は進んでいきましたが、途中であの「Big Daddy、ことBill Saxton」が飛び入りしたので、お客さんは大喜び。かなりのヴェテランなのに、件の若手なんかを足元にも寄せ付けない急速調で、「Just One of Those Things」をアレヨ、アレヨといううちに吹き切って、店内はヤンヤの喝采でした。
- そこに、若いジャズメンが一人と、若者のグループが入ってきました。ナント、James Carterです。その少し前にBirdlandで聴いた時は、スーツで決めていましたが、今日はジャージに突っかけという普段着です。なるほど、これがハーレムなんですね。早速吹いたテナーが、これまたピンク(^o^)でびっくりしました。彼はBirdlandの後はアジアに楽旅をしていたようで、そこでこのサックスを手に入れたらしいのです。ジャム・セッションは、こういう時の小手調べの場でもありますが、さすがにちょっと音は小さい(と言っても、普通のサックスに比べればビッグ・トーン)ですが、ボベ、ボベ、、、バリ、バリ、いや、凄いの何の。コレでまた店内が大盛り上がりでした。でも、旅から帰ってきたばかりで、その足でジャムセッションに出てくる、みんな、本当にジャズが好きで、好きで堪らないのでしょう。
- 午後11時過ぎからの第2セットになって、Patienceがようやく現れて、いつものジャム・セッションに戻りました。チュニジアの人がダンスで、またヴォーカルが3人ほど出ましたか、その間にPatienceとJames Carterのテナー・バトルなどもあって、楽しいこと、この上ありません。
- 正直言って、Patienceは楽器の扱いにおいて、James Carterには遠く及びませんし、若さが違います。しかし、バリバリ吹くだけではジャズにはならないんであって、ハートが要ります。そのハートにおいては、PatienceはJaems Carterよりも一日の長があります。これが、また、ジャズの面白い所です。バトルでも、バラードでも、PatienceがJames Carterに劣っていたかというと、決してそんなことは無かったのでした。気をつけて聴いていると、James CarterがPatienceの演奏をしっかりと聴いており、時には頷いているのが判ります。James Carterは、長老に単なる敬意を表しているのではなく、真摯に学ぼうとしていることが見て取れます。「この長老にして、この若者あり」という図でした。
- 先ほど書いておいた若者たちの中に、ブロードウェイ・ミュージカルの「Color Purple」で唄っているChaz Shepherdが居たようで、この人も呼び上げられて、実にうまい「Summertime」を聞かせました。
- ほんと、ハーレムはすごい所です、ジャージーでやって来たアンちゃんがバリ、バリとテナーを吹き、それがあのJames Carterだというんですから。
- もう締めに近づいてきたので、Nelsonも珍しく午前2時頃まで聴いてから、125丁目の交差点で客待ちをしていたタクシーで、トミーズ・ハウスに帰りました。歩いても帰ることが可能な距離ですが、そこはそれ、、、
- ハーレムは怖いから行かないと決め付けずに、ここは足場も良いんで、先ずは試しに行ってみてはいかがでしょうか。午後11時頃には終わる「第1セット」だけ聴くことにして、往復を地下鉄にすれば、楽しいジャズが聴けて、怖くも何んとも無くって、拍子抜けすると思いますょ。
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