(Home - Jazz Glossary / BACK)

ヴァース (Verse)

  • というように、全ての歌にヴァースがあるわけではありませんが、良い曲でヴァースも付いてるのあれば、それも聴きたい、と思うのは、ヴォーカル好きとしては当然のことと思います。
    Johnny Hartmanの美声
  • 先に例に挙げた、Lush Life: from 'John Coltrane and Johnny Hartman'をもう少しよく聴いてみましょう。この曲は恐らく、人生のはかなさや、西洋にあるかどうかは知りませんが、無常、あるいは諦念のようなものを歌っています。そしてヴァースでは、その前段として、概ね次のようなことが語られます。「まぁ、俺も色んな所で遊んだよ、結構ヤバいこともあったけどナ。でも、そんなことも過ぎてみれば、まぁそんなもんかな、ということさ。アノ子に会った時もそうさ。誘われている気がして、ときめいたりなんかして、、、でも、まぁ、それ程世の中はうまく行くわけではなかったし、それが憂き世の有りようだと身に沁みている。」
    ヴァースからテーマへ
  • 上記したLush Lifeの場合でも、先ずはヴァースがノー・リズムで、じっくりと歌われて行きます。「語り」ですから、話の展開に応じて語り口も変えつつ、そして語り終わりには自然に歌本体に繋がっていくように、語っていかれます。伴奏は、McCoy Tynerのピアノだけのようです。そして1分32秒から、本体が始まり、それに合わせてJohn Coltraneがゆったりとしたテンポでオブリガードの伴奏を付けていきます。この辺りから、リズムセクションの動きも、イン・テンポになって、曲本体に入った、つまり言いたいことの核心に近付いたんですよ、と気付かされる設定になっています。この歌の場合、ヴァースが終わっても、テンポがそれ程速くなるわけではないので、曲の雰囲気にそう変わりはありません。心を込めて歌が唄われ、John Coltraneカルテットの伴奏も、そのヴォーカルを盛り上げるように、雰囲気を大事にしながら、更にその雰囲気を盛り上げていっています。全体としての一体感、調和感が素晴らしいので、お好きな方が多いのも当然です。そして3分15秒頃に歌い終わるとJohn Coltraneが素晴らしいアドリブを取ります。4分25秒頃から、テンポが遅くなる(リタルダンド)気配があり、そのままピアノで気が付き合うテンポ・ルバートに移って、「残心」と言う感じで綺麗に終わっていきます。
    語りからヴァースへ
  • 更に、シナトラの例でみてみると、実に上手い運びなのが、Angel Eyesです。これはベィシー楽団の伴奏で、ラスヴェガスのサンズでやったライブの名盤の中の一曲です。コンサートも順調に進んでいき、その前の曲「Where or When」が終わって一息付いている所で、「オレの時代は終わった(I'm through)なんて、誰が言ったんだ」などと気炎をあげています。シナトラやディーン・マーチンは舞台上で、ちょっと一杯ひっかけるのが珍しくはありません。ここで実際に呑んだかどうかは判りませんが、「Oh, It's boozing time.(呑む時間だ)」と彼が言い、聴衆は彼の癖を知っているので、ドッと来ます。客席から、「One more.(もう一曲、とも聴こえるし、もう一杯とも取れる)」と掛け声がかかり、「One more what? I'm going to the bar.」とシナトラが「何をもう一杯だって? オレも一杯取りに行くから、君のも取ってきてやるよ。オレもバーテンに、もう一杯って言おうと思ってたんだ。」とふざけます。そして、そのジョークに会場が沸きあがっている雰囲気の中で、そのままヴァースに入ります。実に上手い運びな上に、そのヴァース自体が酒絡みなのには唸ります。次の曲が決まっていたのかどうか、知りませんが、パーティーに君が来ない、という歌です。ヴァースは、「Hey, drink up, all you people. Order anything you see. Have fun, all you people...」なんて感じで歌われて行って、そのままイン・テンポに変わり、「I try to think that love's not around.」となって、「Angel Eyes」のヴォーカルが始まります。無論、海千山千のシナトラですから、これなどはお決まりの手口、ということかも知れませんが、語りからヴァースへ行って、それから歌に雪崩れ込む、という流れが実にスムーズで、しかも上手いのです。
    インストの場合
  • 歌の場合は、導入をヴァースでやれるんですが、歌詞のないインストでも曲への入りで環境設定をしたい時がある筈です。それが、別項を立てた「イントロ」です。ヴォーカル曲の場合でも、例えばピアノ等が導入をするのはイントロと呼び、曲への導入を、本体の歌詞と繋がった前置きの詩を歌うことにより行う場合をヴァースと呼ぶんだ、という事になりそうです(これは自信なし(^^;)。
    実は難しいらしい
  • ヴァースは、自分の考えで組み立てて、ソロで歌うわけですから、モロに力が試されます。伴奏が付いても、やはり耳目はヴォーカルに集まりますから、「ここ一番」の根性がいるようです。色々と経験した上で、ゆったりと余裕を持ってという風になるには、それなりの年季も必要のようです。それと、本体の歌へのうまいつなぎになることがヴァースの本来の目的ですから、その歌詞の意味がしっかりと聞き手に伝わるかどうかが問われます。ということで、「ヴァースから入る」というのは簡単ですが、聴き巧者を納得させるだけのヴァースを歌うことは、実は難しいらしいのです。
    ということで、、、
  • このヴァースの妙味を味わうと、また歌ものを聴く時に楽しみが一つ増えますから、手持ちの盤のヴァースを聴き直してみては如何でしょうか。

(Home - Jazz Glossary / BACK)
アクセスカウンター