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ヴォカリーズ (Vocalese/ Wrap)

  • Nelsonも結構ジャズを聴く方ですし、それなりに米国に関する知識も持っていますが、ヴォカリーズ が好きではあっても、真髄を理解しているかというと、自信はありません。それでもこれに触れた文章を余り見かけませんから、まぁ、少しメモしてみます
    二つ重要なことが
  • ヴォカリーズ (Vocalese/ Wrap)で重要なことが、二つあると思います。ヴォカリーズがスキャットと違う点が、大きく言って二つあり、従ってヴォカリーズはスキャットではありません。先ず第一は、本歌取りですから、元歌というか、元の演奏があるということです。そしてその元歌は、ジャズの名演として有名で、ジャズに詳しい人がそれを聞いたならば、誰がいつやった演奏家が判るほどの有名な演奏であるということです。そしてその演奏の癖(Articulation)を、テーマからアドリブに至るまで、できる限り正確にコピーしていることです。元歌には楽譜があるわけですが、ヴォカリーズする時は、特定のジャズメンがやった特定のアレンジやアドリブまで、そのまま使うということになります。第二に、ヴォカリーズでは、スキャットと違い、意味がある歌詞をその元歌に付けます。意味があるというのは、単なる意味が通る歌詞ということではありません。その演奏をしたジャズメンの逸話や、原詩があればそれをジャズに引き寄せてもじった歌詞を作って、それを元歌の演奏に載せて唄うのです。
    「聴き巧者」
  • この二つの点でも判るように、これはかなり「聴き巧者」の存在を前提にしています。つまり、米国のようにジャズが生活化していて、元歌をよく知っており、しかもそれをヴォカリーズすることの難しさまで判っているような、そういう「聴き巧者」でないと、拍手を送れない種類の音楽なのです。そして、それがある程度の人気を博する訳ですから、非常に狭い範囲の人たちだけが分かる「楽屋落ち」ではなく、もう少し広い範囲の人が楽しめるところがあります。
    Lambert, Hendricks and Ross
  • ヴォカリーズでは、先ず1957年の録音であるSing a Song of Basie/ Lambert, Hendricks and Rossを聴き、次にSing along with Basie/ Lambert, Hendricks and Rossを聴く必要があります。最初のSing a Song of Basieはタイトルでも判るように、名バンドであるCount Basieの数々の名演を採り上げて、それを「唄ってしまう」と言う趣向でした。これの出来が良かったので大いに評判となりました。そしてそれだけでは物事は収まらず、それを当人のCount Basieが聴いて「何だこれは。オレの演奏をパクッた上に茶化してるんじゃないか」と烈火の如く怒った、、、ではなく「こりゃ面白れぇや」となったのはジャズならではのお話です。それに止まらず、「そんなことせずに、本当に俺と一緒にやるともっと面白いんじゃないの」と御大が言い出して、共演したのが先のタイトルをもじった「Sing along with Basie」では、「一緒に歌っちゃいました」盤になっています。この盤では、スィングとハーモニーが魅力のBasieスタイルでのアレンジを、そのままコーラスでハモッてしまっています。この人達のヴォカリーズは大人気となり、Zoot Simsなんかとやった「The Swingers(Pacific)」なんてのも良い盤ですし、メジャーに移籍してから出したThe Hottest New Group in Jazzは、わが国でも一時騒がれました。
    例えばTickle Toeでは
  • 御大が付き合ったSing along with Basie/ Lambert, Hendricks and Rossでは、Count Basieバンドの持ち歌のTickle Toeをやっています。これはLester Youngの作曲らしく、彼が居た時期のCount Basieバンドで良い演奏が聴けます。その御当人のLester Youngがやった二つの演奏でのアドリブをJohn Hendricksが歌で再現し、これに対するHarry Edisonの絡みをAnnie Rossが歌で再現するという凝り方です。そして歌詞も、「Tickle Toe(かゆい爪先)」というタイトルそのままに、子供の時からタップダンスに夢中な男の子を題材にして、「足をくすぐられるとボクは踊りたくなるんだよぉ」という筋書きです。ヴォカリーズでは、インストのアドリブに合わせるため、歌詞は普通の歌曲よりも語数がずっと多く、従って早口が要求されます。更に驚くことは、そういうかなりの離れ業で、ちょっと無理筋の歌詞を後付けしているにも拘らず、英語の詩の基本である脚韻はしっかり踏んであります。ですから、全部まで歌詞が聞き取れなくても、韻を踏んであることによる統一感があって、「うまいナァ」と感じさせます。このように良く出来た歌詞を付けたということもあって、このグループがヴォカリーズを完成させたとよく言われます。
    他にも、、、
  • と書いてくると、「えらい古いンばっかりやナァ」と思われるかも知れませんが、そんなことはありません。例えば、So What/ Miles Davis、Airegin/ Sonny Rollins、Mr. P.C./ John Coltrane、Walkin'/ Miles Davis、Hi-Fly/ Jaki Byard、Farmer's Market/ Art Farmer等というように、モダンジャズのファンならば誰でも知っている演奏がヴォカリーズされています(これ等も古いといわれると返す言葉もありませんが(^^;)。聴けば、必ずフレーズに心当たりがあり、思わずニヤリとせざるを得ません。ヴォカリーズとは、そういう種類のお遊びジャズです。
    Eddie Jefferson
  • 実はヴォカリーズでは、もう一人有名な人が居ます。アルトのRichie Coleの師匠筋に当たるEddie Jeffersonという方です。「一寸そこまで入れちゃうと、、、」ということもあって、データベースには入れていませんが、Nelsonも何枚か持っている人です。この人の場合は、1930年代からヴォカリーズをやっており、本人はヴォカリーズの父と称しています。本職がタップダンサーであったこの人は、常日頃から「ジャズの数ある名演に出て来る有名なインストのアドリブで、そのソロイストは何を語ろうとしていたんだろうか。それを歌にするとどういう歌になるんだろうか。」と考えており、趣味で歌詞を付けて友達に聞かせたりしていた、というのがヴォカリーズの原点のようです。この人のヴォカリーズはコーラスでは無く、一人ヴォーカルですが、実に粋なヴォカリーズを聞かせます。例えばLester Youngの「How High the Moon」での演奏をヴォカリーズして、「Come along with Me」という「月旅行に一緒に行こうよ」という歌にしてしまっています。またColeman Hawkinsの不朽の名演「Body and Soul」をヴォカリーズして、Hawkinsの音楽人生とジャズにおける功績を唄い上げるという趣向にしてます。この人がヴォカリーズという出し物を確立し、その後King Pleasure、Dave Lambert、John Hendricks等が個別にこの手法の展開を試みています。例えばAnnie Ross等も、白熱のチェイスで有名なTwistedをヴォカリーズでやり、それがヒットしたこともあったそうです。そして、50年代末に上記Sing a Song of Basieで、Lambert, Hendricks and Rossというグループが大きなセンセーションになったということのようです。Eddie Jeffersonの作品では、「The Jazz Singer: Vocal Improvisations on Famous Jazz Solos」という「まんま」のタイトルの盤がありますし、Museにも「Godfather of Vocalese」等の作品があります。
    Manhattan Transfer
  • 古い話なんですか、という方には、このLambert, Hendricks and Rossの路線で、もっと人気がある後継者が、「マントラ」と日本で言うManhattan Transferです、といえばお判りでしょうか。
    Wrapとの関係
  • この項のタイトルをヴォカリーズ (Vocalese/ Wrap)としましたが、私見ながらヴォカリーズとWrapは縁があるのではと思っています。Wrapも、スィングしながら、若干の字余りも気にせずに、風俗を歌うという面があります。形態はロックですが、これはジャズのヴォカリーズが根っ子に横たわっているという気がします。

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