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スタジオ録音とライブ録音

  • studio
    目で見るのが一番なので、最近のスタジオ録音風景の一例を写真で示します。これは、McCoy Tyner、John Scofield、Ron Carter、Jack DeJohnetteというカルテットによる録音時のもので、今の録音は皆こんな感じで行われています。このスタジオの場合、John Scofieldはメイン・スタジオの真ん中に居り、他の人は彼を取り囲むように位置しています。McCoy Tynerは部屋の隅のピアノの傍、Ron CarterとJack DeJohnetteには、それぞれ独立した小部屋が与えられていますが、これはベースは音が小さいのでマイクが外来音を嫌うから、ドラムスは音が大きいので端メイワクだからでしょう。
    先ずは企画から、、、
  • スタジオ録音では、先ずしっかりした企画が必要です。「この人をリーダーにして、今、ファンが聴きたがっているスタイルで、これこれこういう曲をやらせるから、サイドメンはこんな感じで、、、」と企画が立案され、リーダーに相談して了解を取り、各人の空き日程を調べて録音時期を決めます。その辺は、制作者の仕事ですが、もうちょっとジャズメンに近い所で関与するのが「A & R(Artists and Repertoirie) man」です。ファンや批評家と密接に付き合って、皆が今注目している、あるいは目敏い人達が噂し合っているギグや、期待の新人などの、それこそ風評に近いものまで集めて、鋭い嗅覚をもつのが「A & R man」で、レコード会社の企画を下支えしています。その辺のことは、「CannonballがWesにビックリ仰天」にメモしてあります。
  • その辺が決まっても、まだまだ仕事はあり、ジャズメンのアゴ足の手配、スタジオ予約、録音契約等々がありますが、ここでは省きます。
    「音が良い」スタジオ録音のために、、、
  • スタジオ録音では、邪魔な雑音等がないし、マイクや録音機器なども携帯用でない本格的なものが使えますから、高音質な録音が可能です。CDを買う人の期待も大きいので、良い音で取るための工夫が一杯してあります。今は、各人の音を出来る限り独立して収録して、それを後になって、音のバランスを取る、レーベルの音にするなどの、入念なミックスして仕上げるのが普通です。
  • 上掲の写真を見てお分かりのように、全員が切り離された空間に位置して演奏しています。隣りの空間からは、音が若干漏れ聴こえてくるにしても、それぞれのマイクでは各人の音が混じらずに、その人の音しか録りません。漏れ聴こえる音だけでは不十分なので、皆がヘッドフォンを付けて粗ミックスした音を聴いており、他のメンバーの細かい動きはそれで掴みます。また、あまりメンバーが孤立し過ぎると、演奏中のアドリブの受け渡しや、興に乗った即興の動きができずに困ります。ある程度の意思疎通ができるような工夫もしてあります。ジョンスコやロンの写真を見ると判るように、間仕切りは眼隠しではありません。そのまま、あるいは少し体を動かせば、アイ・コンタクトが可能なようにガラス窓がつくのが普通です。現在のスタジオ録音は、ほとんどの場合、こんな感じで行われています。
  • 当然ながら、ライブの時よりも念入りな音合わせをして、最善の音録りができるマイク配置を工夫します。ジョンスコおじさんの写真の後方を見ると、ガラス戸が半開きになっていますが、これなども実際に音合わせをしているうちに、これくらいの角度で開けておくと、ちょうど音がうまい具合に反射するなぁ、、、ということなのでしょう。今では、スタジオ入りから出までテープは回りっぱなしで、演奏は言うに及ばず、技師が出すキューなども全部コミコミで録ってしまいます。ギターとベースなどのアンプからの音は、フォールドバック・スピーカーでご本人の傍で鳴っているはずです。
  • 録音は一気録りのこともありますが、ジャズメン、制作者、そしてエンジニアとの協議によって、そのままやったり、休憩を取って少しヘッド・アレンジを変えたり、、、と色々です。その辺りの仕事の進み方は、「Idle Moments/ Grant Green --演奏した側から見たRecording Dateにもメモしてあります。各トラックごとにモニター・スピーカーで出来上がりを確認してから、次の曲の録音に入る場合もあります。録音前の打ち合わせと違ってしまうと録り直しをすることがあり、それらは、「テイク」と言われますが、必ずしも最後のテイクが陽の目を見るということでもないようです。それでも陽の目を見るのは、「Master Take」と「Alternate Take」くらいでしょう。
    今昔の違い
  • 昔のスタジオ録音は、これとはだいぶ様子が違ったといいます。一本のマイクを立てて、皆がその周りを取り囲み、生で、一気に録っちゃった大昔は別にしても、少し前まではスタジオは物音ひとつ立ててはいけないわ、お客さんの反応はないわ、と緊張を強いられる場所でした。ですから、「ライブはともかく、録音はなぁ、、、」とよくいわれたものです。でも、今は、そんなことはないようで、ジャズメンもスタジオ慣れしており、また録音技術も改良されています。CTIものなどのように、各人を都合がつく時に別々に呼んで、それぞれのパートを録音して、リーダーは伴奏がほぼ出来上がったのを見計らって、上乗せ録音をするなんてことも、普通のことです。「スタジオが怖い」というのは、ライブで食っていた旧世代の話で、今は録音の機会も多く、皆がスタジオ慣れしています
  • スタジオ録音が怖かった頃には、スタジオに知人を招くことをしたものでした。例えば、Hampton Hawes Vol. 1では、奥さん連中をスタジオに入れて、ジャズクラブのように真っ暗にしたものの、一言もしゃべっちゃならないというので奥さん方は不満だったとか、、、でも、それで名盤が生まれたんだから「以って瞑すべし」でしょうか。 不特定多数に近いお客さんを入れて、おしゃべり厳禁にする場合(「What's New at F/ Eddie Gomez (MFC TKCK3028))もあるようです。
    編集
  • 映画では、録り終わった後の編集で、その映画が良くも悪くもなるそうですが、ライブ録音のように一回こっきりではないスタジオ録音では、編集はつきものです。電化マイルスのように、流し録りをしておいた長尺のテープを、制作者が切った貼ったを繰り返して、イメージしていた音楽に近づけるということも、珍しくはありません。よくあるのは、イントロあるいはエンディングのアンサンブルが決まらなかったので、そこだけを別テイクの奴から持ってくるという編集です。そういうのは、いくらうまくテープの切り貼りをやっても、ビートにズレが出るので、よく聴けばバレバレです。アドリブ一発勝負が売り物のジャズメンの場合、ちょっとしたミスタッチくらいなら、無編集で世に出すのが、ジャズの特徴です。

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