(Home - Jazz Glossary / BACK)

インタープレィ (Interplay)

  • 繰り返しになりますが、ジャズの演奏の殆どはインタープレィ (Interplay)で出来ています。でも、その中で特にその相互作用が目立つ演奏の場合に、「凄いインタープレィだ」等といいます。
    Bill Evansの枯葉
  • さて、Portrait in Jazz/ Bill Evansの中から超有名なAutumn Leavesをもう少しじっくり聴いてみましょう。先ず全体について言うと、普通のピアノトリオを聞いている感覚からすると、「どこからどこまでがピアノのアドリブなんや。ベースのアドリブはどこじゃい。ややっこしいナァ、はっきりせぇよ」ということになります。6分足らずの演奏の最初から最後まで、ピアノ出ずっぱりかと思うけど、ところどころベースが完全に演奏を支配している感じもあるしという、それまでのピアノトリオの感覚では信じられない展開です。Oscar Petersonや、Bud Powellのトリオだとしたら、ベースがこんなことをすると、「ギョロッ」とピアノに睨まれて、直ぐにお払い箱になるでしょう。でも、でも、これはこれで良いんじゃないの、という気がしますネ。そうです。それがBill Evnasが始めた「新しいピアノトリオのスタイル」で、メッチャ緊密なインタープレィが魅力になっています。よく聴くと、イントロが8秒で、面白い下降旋律で始まり、直ぐにテーマが0分44秒まで入ります。このテーマですが、Bill Evans固有のシンコペーションが付いた見事なテーマ提示です。でもそれだけで終わらせずに、ベースを聴いてください。ビートとコードを弾く普通のウォーキングではありません。ドラムスは大人しくブラッシュを効かせていますが、ベースは自分がテーマを弾いてるんだなんて感じで張り出しながらピチカートを大きく聴かせています。でも、枯葉ですから、ベースの弾いているのはテーマではなく、ピアノが弾く枯葉のテーマに対するサポートの筈です。でも、このベースの弾く旋律は、それだけで聴いてもアドリブといえるような意気込みと展開を持っていますし、音もひっそりとサポートなんて遠慮等これっぽっちも無く、堂々とリーダーのピアノの向こうを張っています。普通のトリオならリーダーのピアノにとうにブッ飛ばされるほどの厚かましさ、でしゃばり方です。それに何と、テーマが終わって0分45秒から始まる最初のアドリブをベースが取っています。今じゃぁ結構こういうのもありますが、昔はこんなことはありませんし。許されなかったこってす。先ず最初はリーダーが一番風呂を浴びる、こんなことは当たり前の仁義でしょう。まぁ、Bill Evansがそうしたいって言うんだから、Nelsonが怒っても仕方ありません。このベースのアドリブが暫く続くかと思いきや、1分辺りでピアノが小節の終りに入れるフィルイン程度では無く、かなりベースの旋律に絡んでいます。こういう状態が2分0秒頃まで続きますが、でも総体としてはベースのアドリブといえるでしょう。ただし、インタープレィがかなり緊密に行われ、よく聴けば片方のフレーズに直ぐに、もう一方が反応して音域を変えたり、対位的に動くフレーズで応えるという相互作用が密です。そこから2分半ほどは、ピアノがリードするパートです。ベースも強靭なウォーキングに徹して、ピアノの動きを完全に裏でサポートする感じで、介入はしません。そして4分30秒から5分2秒頃にかけて、またスリル一杯の両者のインタープレィが聴けます。そして両者絡み合ったままで終りのテーマ提示となり、この名演が終わります。この他にこの演奏ではBill Evansの小節の枠を超えたアドリブなど聴きどころが一杯ありますが、取敢えずはこれに止めます。
    Bill Evansトリオの面白さ
  • それまでのピアノトリオの演奏は、大体がリーダーのピアニストが全体を仕切り、自分の個性を発揮したアドリブを聞かせて、聴衆はそれに拍手する、というのがパターンです。これは仕切りがしっかりしている訳ですが、別の見方では物事が一方通行に過ぎるとも言えます。ここで例に挙げたBill Evansも自分だけでも仕切れる力量のあるピアニストですが、どうもそれに安住したくなかったようです。この人は自分のペースでやることに止まらずに、脇のメンバーが自分の出番に介入することを気にしないというか、むしろ歓迎したようです。この「介入」を「歓迎」する姿勢とは、一発勝負といわれるジャズのアドリブの世界で、自分だけで組み立てる展開というよりも、メンバーも入れたグループとしての展開に面白さを感じるというか、新たな境地の開拓に挑みたいという姿勢の現れです。「そんなことしなくても、人を十分に惹き付ける力には自信がある」という行き方もありますが、「その方が何が起こるかわからないから、もっと面白いんじゃないの」という考え方もあります。
    目に見えるインタープレィ
  • 広い意味では、ジャズの演奏全部がインタープレィと言えるくらいですから、インタープレィの例は一杯あります。個別のことは、それぞれの項目を立ててメモしますので、ここではどんなものがあるかをあげるに止めます。先ず既にメモにした4バース・チェンジなどは、その典型でしょう。更にバトルもので聴けるチェイスというのも、これに該当します。それから、どこと採り上げて言うことなく、演奏全体を通して絡み合いになっているのが、先に挙げたPortrait in Jazz/ Bill Evansの例です。この人にはUndercurrent/ Bill Evansというギターとの絶妙なデュオで有名な盤もあります。
    見えにくいインタープレィ
  • ジャズを聴き慣れていなかったり、あるいは和音などがもたらす効果の大きさに気が回っていないと、見過ごしてしまうインタープレィもあります。狭い意味ではインタープレィとは言わないのでしょうが、「何だかよく判らないけどいい演奏だな」と思ったら、前面に出ている演奏者の裏で、他のメンバーが何かしているんではないか、そういう耳で聞いてみると、いろんな手管が判ってきます。アドリブを取っている人が弾く旋律が上昇旋律であるのに呼応して、対位的に動いて、下降旋律を弾くというのは、ウェストコーストジャズなどでよく見られる技法で、これを瞬間的に(自発的に、spontaneousに)やれば、それはインタープレィに他なりません。また、余り詳しくはないのですが、コードの解釈に関して「Re-harmonization」といって、原曲のコード進行をもう少し変形する技法がありますが、それをベースやギター等が裏でやったので、アドリブ奏者がその広がった世界に入り込んで、さらに新しい土台を踏まえて新鮮なアドリブに挑む、などというインタープレィもあります。というようなことに気付くようになれば、又ジャズを聴くのが楽しくなると思います。
    双方向性
  • インタープレィは、双方向性のものです。演奏を盛り上げるために、フィルインといって小節の終り辺りで、ちょっと特徴的なフレーズを入れて、元気付けたり、Art Blakeyがよくやる「そうだ、そうだ、もっとやれ(Yeah...Go, blow your horn)」等というような叱咤の声は、インタープレィとは言わないようです。そのやり取りが跳ね返ってきて、仕掛けた人が又仕掛けられてしまう、それがインタープレィなのです。また、テーマやイントロなどで複数の楽器がその演奏を特徴付けるような絡み合いをする場合があります。でも、このように予め打ち合わせで「こうやってみるべぇか」と準備して行われる絡み合いは、インタープレィとは言わないようです。そのように落ち着き先が決まっている場合ではなく、どうなるか判らないやり取りのスリルを、やる側も聞く側も楽しむというのが、インタープレィの醍醐味です。

(Home - Jazz Glossary / BACK)
アクセスカウンター