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ブラインドフォールド・テスト(Blindfold Test)

  • ブラインドフォールド・テスト(Blindfold Test)ののような面白い記事の企画を放って置く編集者は居ません。わが国でも、この趣向を真似た記事が一時期連載されました。しかし、本場物ほどの鋭さ、面白さが無かったのは、二番煎じの宿命でしょうか。
    当初の狙い
  • このBlindfold Testという用語が、ジャズの世界で知られるようになったのは、既に書いたように、米国のジャズ専門誌「Down Beat」にLeonard Featherが連載インタビュー記事のタイトルとしたのが始まりだと思います。元来がインタビュー記事ですが、ただの会話では芸が無いと考えたのでしょう、登場するジャズメンに何曲か、ジャズの演奏を聞かせて、それを肴に話を盛り上げようという趣向です。聞かせる演奏は事前には情報を与えず、従って先ずは演奏者当てクイズから、インタビューが始まります。聞かせる演奏は、御当人にゆかりがあったり、あるいは同一楽器をやるジャズメンの演奏であったり、あるいは正反対の芸風の人であったりしました。そして御当人の当て推量を肴にして、その後のインタビュアーとのやり取りを楽しもう、というわけです。同一傾向の先輩・同輩の演奏ならば、賛美の声が聞けますし、また今後どういう風に進みたいのかという志向を語らせて、そのジャズメンのホンネが垣間見えます。正反対の芸風の場合、無関心を装ったり、あるいはもっと直截に「こんなのはジャズじゃぁ無いョ」という反感を顕わにする場合もあります。そのやり取りが面白いのは、やはりLeonard Featherの訊き方が的を得ているからであり、時に意地悪な質問も交えていました。
    インタビューの面白さ
  • 、、、ということで、色んな演奏を聞かせて、色んな話をする訳です。そういうやり取りの中で、ジャズのことが当然に主題となるので、中々に面白い記事となり、評判になりました。そして、その面白さはジャズの話に止まらないのです。先ず、当の御本人のジャズに対する姿勢が、聞かせる演奏に対する肯定・否定のコメントとして現れてきて、言ってみれば路線論争のような話が自然に出てきます。そしてそれと同様に面白いのが、その人の私的な面に話が及ぶ時です。どの世界にもあるように、正反対の芸風の人と、実は深ーい近所付き合いをしているとか、類似路線だから対抗意識があるとか、意外な人の演奏技術に敬意を払っているとか、、、そういう話が聞けるわけです。生身の人間の会話ですから、そういう他では聴けない私生活の一部も、当然垣間見えることになります。
    市井でのブラインドフォールド・テスト
  • ジャズ喫茶やジャズ同好会などで行われたブラインドフォールド・テストについても、触れてみます。これは、純粋に目隠し試聴テストだけを取り出したもので、曲名、演奏者(全員)等々を回答者に答えさせますが、その演奏にまつわるジャズ話をさせることは少なかった筈です。正に、解答用紙を回して、一番成績の良い人が勝ち、という世界です。各楽器ごとにそれぞれのジャズメンに手癖がありますし、又どの時期にどういうジャズメンがつるんでいたとかいう知識をテコにして、巧く当たればご喝采、というわけです。段々にテスト方法も凝ったものになり、中には、テーマ合奏は聞かせず、アドリブ部分だけを抜き出したものを聞かせるなんて、意地の悪いのもあったそうです。少しジャズを聴いていれば、目立ったアドリブをする人はそれなりに判ってくるものです。しかし幾らジャズを聴いていると言っても、ウォーキングに徹しているベーシストや、ブラッシュだけをシャカシャカやりつづけるドラマーの名前までを当てるのは、至難の業です。フロント楽器は易しい方ですが、アンサンブルに出て来るだけで、アドリブをしない人を当てるのは無理と言うものです。御愛嬌としてこういうことをやるのは良いことで、個性が勝負のジャズですから、その個性に通じることは、ジャズを聴くのに色々と役立ちます。このようなことですから、外れたとしても「ア、ハ、ハ」で済むお遊びです。
    その実際
  • 例えば、ブラインドフォールド・テストでMiles Davisのクインテットの演奏が出た場合を考えてみましょう。先ず、御大のマイルスの演奏と認識できない人はいないでしょう。次に、サックスがJohn Coltrane、Hank Mobley、George ColemanそしてWayne Shorterの内の誰かによって、演奏時期がわかります。John Coltraneと、Hank Mobleyの区別は比較的簡単です。一方、その二人ではなかったとして、George ColemanとWayne Shorterを見分けるには、少し聞き込みが必要でしょう。他方、リズムセクションにも注目し、例えばピアノがRed Garlandか、Wynton KellyかそれともHerbie Hancockかを判断しなければなりません。ベースとドラムスも同様です。これら全体の可能性を斟酌して、全てに共通する可能性を残していくという手順が、推理の道筋になります。それらの色んな側面からの情報を総合して、「この演奏は、In Europe盤の枯葉らしいから、メンバーはかくかくしかじか。」という回答に達するわけです。このように頭の体操になるので、なかなかに面白い遊びです。問題を出すほうも特徴がよく出ているようで、実は中々判りにくい演奏を出題しますから、ある意味で知恵比べになるのです。例えば、アルトのワンホーンで「Goodbye」らしい演奏が出題されたとします。少し聴いていくと、どうもライブのようです。アルトの音が苦いのですが、よく唄っているので、これはArt Pepperの後期だな、と判ります。問題はピアノです。後期に付き合ったピアノというと、George CablesとMilcho Levievが思い浮かびます。ピアノのアドリブをよーく聴いていくと、熱いんですが、黒ッぽさはありませんし、テクはかなりのものです。となれば、そのピアノは、Milcho Levievでしょう。Art Pepperで、Milcho Levievで、「Goodbye」のライブとなれば、Blues for the Fisherman/ Milcho Leviev、という答えになります。George Cablesが付き合ったThe Complete Village Vanguard Sessions/ Art Pepperなら、ドラムスがElvin Jonesです。今聴いているドラムスがElvin Jonesとは思えないんで、やはりこの「Goodbye」はBlues for the Fisherman盤の方だろうと補強の証拠もあります。、、、とまぁ、こういう風に推理は進むわけです。
    オーディオでも、、、
  • おまけで、オーディオにも縁が深いブラインドフォールド・テストについても触れておきます。御存知のように、オーディオは魑魅魍魎が跋扈する不思議な世界で、「高価格な機器ほど評価が高い」とか、「弊社のこの度の新製品は、苦心惨憺の上実用化した○○方式を採用したので、性能が格段に良くなっております」と毎年言うとか、変なことは枚挙に暇がありません。オーディオの場合、実際にユーザーが使う室内環境が、機器の聴こえ具合に大きな影響がありますから、システムの適否について決定的なことは、なかなか言えません。部屋の形、内装、電源、機器の配置、繋ぎ方等々が、全て音の聞こえ方を変えてしまいます。購入時のテストも、店頭で聴いて決める方法には、限界があります。貸し出し試聴、というのが、現時点では一番マシな方法ですが、機器が落ち着くまでも(普通は一月くらいか)は、貸してはくれません。数十万円の投資に関することなのに、オーディオ評論家とかいう方々は、平気で威勢の良いことをしゃべりまくっていますねぇ。そういうオーディオ評論家が最も嫌う大敵が、ここで採り上げている「ブラインドフォールド・テスト」です。どこの雑誌でも、これだけはやりません。というか、やれないのでしょう。以下に書くようにメンドウなことも理由でしょうが、恐らく音質と価格差の説明が困難になることを恐れているからではないか、と思っています。
    結構、大変
  • そのブラインドフォールド・テストですが、自分で機器の切り替えをして較べる位いでは、中々本当のことはわかりません。良いと当人が思って金を払った機器が、どっちに繋がっているか、本人が知っているのですから、適否の評価が甘くなる訳です。人に切り替えて貰ったってダメ、という人も居ます。オーディオ誌の裏話で、これを試したときのことが書いてありました。やっていくと、日頃の機器評価との一致率が良くないのです。また、評論家さんがお互いの顔を窺いあって、なかなか最初の発言が出なくなります。古株と目される人があることを言うと、他の下っ端がそれを追認する発言をするようになります。あれや、これやで、ブラインドフォールド・テストを目指した企画は、即ち「ボツ」になったそうです。まぁ、誰も驚かない結果です。このテストは商業メディアには向かないのです。アメリカでサッカーが流行らないのは、約50分もの間、コマーシャルを突っ込めないからだ、という話がありますが、雑誌でもスポンサーに嫌われては、営業的には成立しませんからね。
    「二重盲検法」
  • これを一番徹底的にやるには、「二重盲検法」でやることが必要だそうです。新薬の治験に使われる方式だと思いますが、「砂糖を舐めさしただけで風邪が治る」プラシーボ、偽薬を中に混ぜて、厳密に効果を調べるのでしょう。更に「二重盲検法」ではこれに止まらず、感想を述べる人、更にはその試験自体を施す人にまで(二重に)、何をやっているか知らせずに、比較試験を行うんだそうです。こうしないと、結果にバイアスがかかってしまいます。「こちとらァ、それ程ヒマじゃ無えやぁナ」と言いたくなりますが、それ位徹底してやらないと、先入観などに左右されるのが人間だそうです。評論家さんたるもの、「オレは、デザイン(と接待の有無(^^;)だけで決めてるョ」なんて、まさか口が裂けてもいえませんからねぇ。(一部に、不規則発言がありましたが、お許しあれ)

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