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Ray Ellis(編曲者)、不朽の名盤「Lady in Satin/ Billie Holiday」を語る

  • Ray Ellisが「Lady in Satin/ Billie Holiday」の編曲を担当した時の思い出をを語っていましたので、紹介しておきます。この盤の録音が1958年2月で、思い出話の日付はほぼ40年後の1997年5月です。カッコ内は、Nelsonの注釈です。
    ある日、電話が
  • 「1958年1月3日に、プロデューサーのIrving Townsendから電話があり、「2月の18,19,20日は空いているかい」と聞いてきました。ボクが「大丈夫」と答えると、「良かったァ。今、Billie Holidayが来てるんだけど、彼女がColumbiaに録音する今度の盤で、君にアレンジを書いて欲しいと彼女が言っているんだ。」 ボクはビックリ仰天したよ。明らかに、彼女はボクがその直前に録音した「Ellis in Wonderland」盤を聴いていたらしかった。」(「Ellis in Wonderland」は、言うまでもなく「Alice in Wonderland(不思議の国のアリス)」をもじった標題でしょう)
    選曲から、、、
  • 「次の週に打ち合わせを持って、選曲とコンセプト作りをした。最初は判らなかったんだけど、彼女が選ぶ曲すべてが片思いの恋歌なので、「自分の生き様を率直に歌いたいんだなぁ」ということに気が付いたョ。そしてリハーサルの日程を決めたけど、残念なことに(あるいは良かったことなのかも知れないが)彼女は一度も姿を見せなかった。そこでボクは、レコード店に行って彼女の盤を沢山買い込み、どのキーが良いのか掴むと、更に編曲を先に進めた。ボクがBillieの録音をするという噂が広まると、ニューヨーク中のスタジオ奏者が、録音に参加したいと電話してきたっけナ。」
    Billieの衰え
  • 「録音を開始して、最初のプレィバックを聴いた時、ボクはえらく縮み上がっちゃったよ。Billieの声の衰えが、ひどかったんだ。彼女の初期のレコードを聴き直してみたけど、更にそのことがハッキリした。」(当の盤の解説に、ここまでハッキリと書くとはねぇ、、、)
    スタジオ入り
  • 「最初の録音に彼女が来て、40人編成のオーケストラが待機しているのをみた時、Billieがびくついていたことを覚えているよ。ボクが楽団員の顔ぶれを紹介して、皆が歓迎の拍手をすると、少し落ち着きが出てきた。各曲のアレンジを最初に彼女が耳にした時の反応には、注目した。弦楽器が調子を上げたり、トレモロで終わったりする箇所では、ボクを振返って、微笑んでいた。もっとも感情が吐露されたのは、「I'm a Fool to Want You」のプレィバックを聴いた時で、彼女は涙ぐんでいたね。」
    ミュージシャンの興奮
  • 「楽団員の反応も凄かったなぁ。有効なテイクが録れるたびに、彼等は大勢で調整室に入り込んできたんだけど、プレィバックを聴くのにあんなに熱心だったミュージシャン達を見た記憶はないね。皆が皆、何か特別な出来事に立ち会っていると感じていたってことだろうネ。」
    ヴァースのこと
  • 「幾つかの編曲には、ヴァースも付けておいたんだけど、「ヴァースは嫌いだ」と言って、彼女は不平を言った。やがて、彼女がヴァースを一度も習ったことが無かったと判ったんで、私は楽団に休憩を命じておいて、彼女のピアニスト、Mal Waldronと一緒に彼女を座らせて、ヴァースを覚えさせた。その間中、彼女は何度もボクにしかめっ面を見せたけど、しっかりヴァースはモノにしたヨ。」(唄の序奏としてのヴァースは、いわゆる卑俗な小唄にはない、ミュージカル等の白人文化の伝統なので、あまり境遇に恵まれなかったBillieが親しめなかったのは当然ですが、でも哀しい一面です。)
    「You've Changed」のこと
  • 「録音二日目が過ぎて、第3日目の準備となったが、もう一曲足りない感じであった。彼女の弁護士、Earle Zaidins、Billieそしてボクの3人で、楽譜屋に行って譜面を探そうとした。彼女が「You've Changedにしたい」と言い、それがこの盤で一番出来のいい歌になった。Earleも色んな曲を挙げてみせたし、何よりも録音セッション中を通じて、彼女をシャンとさせるという大仕事をやってのけたのも、お手柄だった。」
    全ての録音を終えて
  • 「録音が全部終わってから、ボクは調整室で全てのテイクを聴き込んだ。ボクは正直を言って、彼女の歌には不満足だった。しかし、それは情感の問題ではなく、音楽的に言った場合のことである。2,3週間後に最終のミックスを終わったものを聴いた時には、「彼女の歌が何んと素晴らしかったのか」がよく判った。」
    最新のミックスを聴いて
  • 「Phil Schaapが本盤の新しいミックスについて、ボクにライナー・ノートを書くように頼んできたので、記憶をよみがえらせるために、聴き直してみた。あの時の雰囲気が、しっかりと捉えられているようだった。彼女は、殆ど自分の心をぶちまけて泣いていると言って良いだろう。ソロを取ったMiles Davis、Urbie Green、J.J. JohnsonそしてGeorge Ockner等も、彼女の苦悩を我が物にしてアドリブを取っているかのように聴こえる。」
    振返ってみて
  • 「振返って考えると、この盤の制作に関与できて非常に幸せだったと感じる。1990年にスペインのマドリードに旅行した時に、この盤の大変な評判をじかに感じる出来事があった。友人がスペイン人の友達にボクを紹介してくれた時のことだ。その人は英語がしゃべれず、ボクもスペイン語はできなかった。でもその人は僕の名前を聴いた途端、こう言ったのだ。Ray Ellisって、あのBillie Holidayの、あの?」(まぁ、他に記憶に残る盤を作ってなきゃァ、仕方ないか)
    、、、ということで
  • 以上が、編曲者側から見た本盤の思い出です。公平な所はそうなのかも知れませんが、彼女の声に、「音楽的に」という限定付きとは言え、きついコメントが付いています。Ray Ellisは彼女の才能は認めるものの、「身持ちが良くない」ともいえる人柄には批判的なのかもしれません。念のため、Nelsonの立場ですが、「ジャズ・ヴォーカルでは声量や音程等を問う必要はない。全体としての訴求力で判断すべきである」と思います。

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