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書痴と盤鬼 -- 「エラリィ・クイーン談話室」から
  • 何ということは無く読んでいた「クイーン談話室」という本に出ていた書痴の狂い具合、についてのお話です。
    書痴と盤鬼
  • 書痴、という言葉があります。英語ではBibliophileとか、Bibliomaniacと言いますが、「本の虫」という人たちです。どの趣味も同じなんですが、入り口の段階では対象物の中身が良いか、悪いかで絶対的な判断がされますが、その奥の段階にまで入ると蒐集物の外見、由来等々の内容に関係ない部分の良否も重要な判断材料になります。我が猟盤の世界も奥は深く、趣味が嵩じると、例えば「レコード・コレクターズ」という雑誌なんかに出てくる世界がありますし、どこかで書いた「音楽の友社」の「音の書斎」正・続編でも、豊富な写真(^^;)入りで、「いや、まぁ凄いネ」という世界を垣間見る事が出来ます。登場する方も、言ってみれば、「いずれ劣らぬ盤鬼」の方々なんでしょう。
    「クイーン談話室」
  • Ellery Queenといえば、知らぬ人の無い大ミステリィ作家であり、Nelsonも結構読みました。そして、ある程度作品を読んだせいもあり、随筆物の「クイーン談話室」(谷田年史訳、国書刊行会、1994年7月初版)を図書館で見つけたので、早速手が出ました。数ページ足らずの話が、丁度50話あり、睡眠薬としては格好の書だと読み進めつつ思いました。御興味があれば、図書館でどうぞ。そしてその中に、、、
    「ある収書狂の進化の4段階」
  • 第4話に、「ある収書狂の進化の4段階」というお話があり、寝ながらの読書なんでポンと膝を打ってというわけには行きませんでしたが、思わず首肯しました。「書」を「盤」と置き換えれば、正にレコードコレクターにもピッタリ当てはまります。そしてそこに書かれたEllery Queenが考える「収書狂の4段階」とは、以下の通りです。
    「書物愛好家」 (Book Lover)
  • 最初は、駆け出し時代です。書物の版や状態にはまだ無頓着で、兎に角量を集める段階です。その興味は、疑いもなく、その様にして入手した書物を読むことにあります。駆け出しとは言え、やる事は正統的です。従って書物の外見などには余り拘らず、印刷さえ鮮明であれば良いのです。その先の段階から見ると、まだ洗練の段階に入っておらず、純真無垢です。この初心者コレクターを、書物愛好家 (Book Lover)とEllery Queenは名付け、未だ幼年期にある人たちだ、と断定しています。
    「鑑識家」 (Connoisseur)
  • その書物愛好家が、更に趣味が嵩じると、ごた混ぜの書棚に苦痛を憶え始めるそうです。そして、兎に角内容はしっかりと読める無名の本ではなく、その中でももっとも価格も高い初版本が欲しくなるようです。何と言っても、初版本には出版当時の時代背景が色濃く出ています。そういう初版本をやっとのことで手に入れて、今まで書棚を占めていた同じ本の無名本と入れ替える時に、大きな「癒(いや)し」があるのだそうです。まぁ、判らないでもありませんが、しかし、この鑑識家でも、まだ第2段階にしか過ぎないらしいのです。まだまだ先があるそうです。
    「書物狂」 (Fanatic)
  • さて、さらに「病膏肓に入る」と、いよいよ第3段階となります。初版本といっても程度は様々です。そしてこの第3段階に至った人は、ありきたりの初版本では我慢が出来ず、もっとも状態の良い初版本を入手する事に取り憑かれるのだそうです。正に出版されたばかりか、と思えるような、カバーまで原形のままの極美本を探しまくって、入手します。こうなると鑑識家の段階を卒業して、書物狂の仲間入りとなります。
    「書物崇拝狂」 (Bibliophile)
  • 書物狂の段階まで来てしまったら、もうその先なんか無いじゃン、という方は縁無き素性です。そういう輝かしい初版本を揃えることの先に、更に、「著者による書き込み」がある初版本という、いわゆる希覯本の世界があるのだそうです。自著の表紙裏によくある遊び紙に、著者が個人的なメッセージを書き込むことは、著者にとっても一つの儀式であり、そういう本は当然大事に扱われ、素封家のおそらくは豪華な書棚に納まっていて、門外不出となっています。そういう書き込みのある「正に世界にただ一冊」の書物を探し出し、そういう希覯書を多く所蔵すると言う世界が、書物蒐集の栄えある最後の段階にある、書物崇拝狂の世界なのだそうです。
    なーるほど
  • というようなことを読むと、猟盤の世界と全く同じだと気付かずには居れません。上記した書物に関する記述を猟盤の世界に合わせて、「オリジナル盤」、「レコード・ジャケット」、「ミント盤」、「ジャズメンのサイン」などと置き換えると、正に猟盤のことを言っているといっても良いでしょう。この猟盤の世界でも、上述した「音の書斎」正・続編にみられるように、殆ど「ガイキチ」(失礼)に近い人々が多く居られ、恐らくはそこで紹介されている人たちはまだ序の口で、大関、横綱の方々は、ひっそりと、大口も叩かずに、それぞれの音の書斎の四方の壁を埋め尽くしたコレクションを撫でるように愛でておられるのでしょう。
    ところでNelsonは、、、
  • そういう分類がとりあえず成立するとして、Nelsonはどの段階にあるんでしょうか。明らかに、「書物愛好家」 (Book Lover)、即ち言い換えれば「ジャズ愛好家」 (Jazz Lover)という一番の入門段階にしか達しておりません。まだ、所蔵4千枚にも足りない幼児期にあるヨチヨチ歩きです。Nelsonの場合は、ジャズを聴くには、兎に角音がしっかりしていればそれで十分で、上記の書物愛好家と同じで、演奏を楽しむのに夢中です。音さえ出れば、アナログ、CD、再版、汚れ盤を問わないのですから、まだ初期の段階に過ぎません。まだまだ聴いていない演奏が兎に角多すぎるという状態にあり、オリジナル盤購入にまでは至っていません。某ヨコハマにあるとかいうミント盤専門の店にも、まだ一歩も足を踏み入れた事はありません。Ellery Queenに「幼年期」と喝破されては、このジャズきちのオッサンも「グヤジィー」という気はしますが、図星なだけに、グーの音も出ません。客観的に見て、そうなんでしょう。
    ということで、、、
  • それにしても実に面白い物を読んだなぁ、としばし満足しているところです。

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