2019年1月某日:極寒の地に舞う丹頂鶴に会いに北海道へ、またまた一人旅 (1):帯広輓曵(バンエイ)競馬、釧路湿原丹頂鶴給餌場、風雪吹きすさぶ北オホーツク海岸、その後は小樽、函館、札幌とウマイもん食べ歩きの合間に・・・
- さる本を眺めていたら、雪原の中を舞うタンチョウ鶴さんの、極寒の厳しさに耐え切っている美しい姿が目に留まり、体が動くうちに夏に数回は行っていても、真冬に行く勇気など無かった北海道にタンチョウさんに会いに行ってみようという気持ちが鬱勃と嵩じて来ました。さてどうするべぇか、と本屋で旅の情報に眼を通していると、丁度「大人の休日クラブ」で5日間JR北海道全線を特急指定席も含めてバカ安の値段で乗り放題だと言うフリーパスの売出し中だと知りました。日頃からドライブで全国を経巡っていますが、たまには列車旅も良いな、とそれをベースにした旅程を組んでみたら、冬に行く時に寄ってみたい場所、そして冬にしか見られない風物を見繕った上記のようなプランが出来上がりました。ネットで取り敢えずの宿も押さえて置くけど、吹雪もあるだろうし、JR不通もありうべし・・・なんて微調整は手持ちのアイポンでキャンセルや別途の手当てで切り抜けられそうなので、最後にLCCで行き帰りの安い便と席を探してみると、正規の半額で往復便を押さえることも出来ました。新千歳空港が必ずしも盤石の運用体制に無いので、便のキャンセルがあると正規値段のなってしまうリスクはありますが、そこまで考えていたら旅行なんて出来ません。出たとこ勝負もまた一興、と一週間の旅に出かけて、結局仕上がりは前半の競馬とタンチョウはドPカンでニンマリ、後半は横殴りの風雪もありながらの、北海道らしい冬景色を満喫でき、さらに帰途が近づくにつれて気になった新千歳の閉鎖も無く、安い便のままで締めまで出来て幸運な旅が出来ました。
- 帯広競馬場での輓曵競馬では、道産子馬と欧州馬とを掛け合わせたという大型馬が凄まじいいななきを響かせながら、約一トンもあるらしい荷を曳きながら、3つのコブを乗り越えていく様に圧倒されました。その迫力たるや聞きしに勝ると言いたくなるほどの鼻息で、その白い帯というか、筋が鼻から一メ−トル近くも噴き出してきて・・・いやいや、これは千言を弄しても表現するのは無理で、実際に見て頂くしかないド迫力でした。
- メインの釧路市鶴居村のタンチョウ・サンクチュアリーでの鶴の舞は、雪の中でも良いよなぁなんて思っていましたが、実際には快晴の朝となり、前夜に温泉民宿で3度も入った独特の「モール泉」とかいう湯の心地の良さに背中を押されて、朝食もそこそこに零下10度近い雪道に踏み出してみました。そんな中を早朝に、給餌場を目指して行く馬鹿などNelson以外には居らず、グーグルマップの指示に従って昨晩又降って処女雪状態の、ずっと先まで見通せる農道を、約一時間かけてえったり、おっちらとラッセルして行くと、やがて「コォーッ、コォッ・・・」という鶴の鳴き声が聞こえて来ると言う、貴重な体験をしました。「処女雪のラッセル」は、高校時代に5月の中央アルプス宝剣岳に登山部で行った時に経験して以来のことで、結構着込んで行ったので寒くはありませんが、「身が引き締まると言うのはこういう感じなんだろうなぁ・・・」てな感じで、無事踏破出来ました。給餌場の周辺は恐らく2,3百羽はいるタンチョウが三々五々うごめいていて、そのうちに御担当の方がソリにエサのトウモロコシを乗せて出来て撒き始めると大騒ぎをして集まり始め、また近くからそれを察して飛来する新参者の、その着地の何とも優雅なる姿に、10人以上もいる大砲級の望遠を付けたカメラ全部がカシャ、カシャとシャッタを切って行くのでした。こういうお方達は鶴居村とか釧路市に数日も泊まりこんで、レンタカーで時間毎の適地を回りつつ、良いシャッター・チャンスを狙うのだと言いますが、Nelsonなどは我と我が目と耳でタンチョウの姿と鳴き声をしっかりと記憶に止めることに専念しました。
- 所が、朝が未だ早かったからもあるんでしょうが、宗谷岬に登る広めの国道238号線の、20メートルくらい先の中央分離帯に大人のエゾ鹿が居て、生えている灌木の葉を食べていた顔を上げてこっちを見ました。鹿さんには鹿さんの都合があるようで、とっさにその鹿さんは中央分離帯から路側帯に逃げようとする動きを見せて、(多分)車窓から1米くらいの距離まで迫ります。「ヤバイっ、これは、ぶつかるゾ。クソっ、板金塗装に2、30万は掛かるかもなぁ・・・」と瞬間的に覚悟してハンドルがぶれないようにギュッと握り直しました。しかし、幸運なことと言って良いんでしょうが、件の鹿さんはすんでの所で横断を思い止まってくれて・・・無事に宗谷岬駐車場に着いたNelsonは、ホッと溜息を付きました。
(シャケの引っ掛け釣りで賑わうオホーツク海岸。一尾上げれば数千円だとか)
朝もやが晴れて来て、眼前に樺太の島影が見える中、自動二輪の若い衆と言葉を交わしました。その時、早暁のオホーツク海岸に、丸でお祭りでもあるかのごとく、人々が釣竿を持って出ているのを見かけたことを思い出しました。目撃したその光景を伝えて、「あの人出は、ヒョットしてシャケですかね?」と聞くと「そうだ。」と言う答が返ってきました。「川に遡上したのや、定置網の近傍等は禁漁扱いだけど、海岸に回遊してくるのを引っ掛け針で獲るのは自由なんだよ。」と丁寧に教えてくれました。結局、宗谷岬を越えて天塩に着くまでの、夜明けの薄闇のオホーツク及び日本海海岸に、そういうルアーを使ったシャケ釣りの人達の姿が途切れることはありませんでした。
- 今回の北海道一人旅で、特に安全性を確認しておくべきなのが、筑別及び苫前地区でのヒグマの出没状況です。炭坑跡(シミタツの名作「背いて故郷」に登場)も、ヒグマ被害(吉村昭の「羆嵐」のテーマ)の現地は、山間部の真っただ中で、地方道(紛らわしい表現ですが「道道」です)のドン詰まりで、辺りに人家はありません。昼間でも立ち入り車両は少なく、通過車両は元々ないことはYoutubeの動画でも明らかです。今は秋で、ヒグマたちは冬眠に向けて食えるものは何でも食って、栄養をタップリと溜め込むために、人里近くにまで出て来ており・・・例えばキノコ採りの人などが襲われる時期です。そこに実情を知らない旅行者が、一人で突っ込んで行って良いのかと、筑別の町役場に問い合わせました。すると観光課の方曰く、「今はやはり、ヒグマの目撃が多い時期である。特にお問い合わせの2か所は、人気(ひとけ)が無いからヒグマに出食わす可能性がかなりある。危険を感じたら車内に逃げ込んで、外へ出ちゃダメです。」と警告されまし。色々と思案した末に、ココに行くのは土日とか、祝日にしようと決めました。サロベツ原野を見たのが日曜の早朝だったので、その足で突っ込んで行きました。狙いは当って、炭坑跡には廃墟マニアさんが10数人いたし、六線沢の現地は一旦は一人きりになったものの、数分後には2,3のグループがやって来たので、人影がない野良小屋でNelsonが体長3メートル余りのヒグマに噛みつかれかけている写真(orz)も撮れたし、安心して車の外を見て歩くことも出来ました。
(辺りの物音にピリピリしながら撮ったお約束の来襲ショット)
- 一昨年は、健さんの映画「駅ステーション」のロケ地、増毛に行って、早朝だったので沖獲りシャケの水揚げ現場に丁度出食わして、船から上がるシャケを漁協のオナゴ衆が目にも止まらぬ速さで選り分ける様子を傍で見ると言う幸運に恵まれましたが、今回はその辺は素通りで、道央道有珠山SAで寝た後、早朝からニセコの神仙沼に出かけて、道内随一の紅葉を見る眼福を楽しみました。そのまま恵山岬に行って、海岸にある露天風呂、「水無海浜温泉」に入れないかと思いましたが、丁度満潮時で湯船は完全に海没していて、入浴はなりませんでした。当てが外れたまま、夕方には函館からフェリーに乗ると、青森着は深夜でした。ナビで見ると、浅虫温泉に道の駅があるようです。そこは青森市内でもあるので、普通の道の駅とは違い、駅舎が5階建てのビルな上に、最上階が展望風呂だと言うので、翌朝は朝風呂をしました。その日は祝日だったので、稼ぎ時だし休みにはしないだろうと、バクチは承知で一関「ベイシー」さんに突っ込んで行くと、ピン、ポーン・・・やっていましたね。1時間半くらい座っていて、相変わらずの美音に耳を傾けた時のセットリストは以下の通りで、コルトレーンは一枚も掛けないという、まぁ、休日版の選曲でした。
- Basie, One More Time/ Count Basie (Roulette YW 7832か)
ベイシーの別名「Pen of Quincy Jones」盤に出迎えられて入店して、野口久光棚の傍に座って先ずは目を閉じてしばし・・・
- Now He Sings, Now He Sobs/ Chick Corea
この人の大ファンながら、リーダー作がゴマンとあるのに、これ一枚しか持たずにひたすら聴き込んでいる人がいると言います。
- Miles Davis and Sonny Stitt: Live in Stockholm 1960 (Dragon/ DIW)
Stittの方が2コも上なのに(あるいは、「だから」なのか)どうも気が合わず、Stitt自体も良さが出せていない気がしますが、それでも演奏は一級品です。
- Down Home/ Zoot Sims
これが掛かった途端に、椅子の背もたれに寄りかかり直して、肩の力がスーッと抜ける寛ぎ盤です。
- Count Basie Jam (Pablo)
1時間余りしか経たないのに、また御大の盤を掛けるのが休日仕様なんでしょうね。
- 菅原さんは、そのサイドの最後の曲までには会話からそっと抜け出して、次の盤を棚から選び出すと空きターンテーブルにそっと乗せ、(多分、針先をリード溝の真上においてから)JBL SE400プリのヴォリュームに手を掛けます。前の盤の最後の溝の音を客に聴かせること無く無音にしてから、横のターンテーブルのアームを次の盤面に静かに降ろし、最初の導入溝の音を僅かに聴かせながらも、盤によっては最大音量から始まるのを的確に再生してから・・・辺りを見回して状況が落ち着いているのを確認しておいて、ジャケットをレジ近くの展示ラックにそっと置きます。その間、一言も発せず、動作に何の躊躇いも無く、すべきことを事も無げにこなす・・・ジャズ喫茶のマスターはこうあるべきだ、とでも言うべき身のこなしは、いつものことながら客を和ませます。
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