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ヒノオーディオ日向野さんとSPネットワーク設計用の計算尺(4)
  • さて、その日向野さんが苦心をして作った右掲の「HINO AUDIO: Technical Slide Rule」で、高・低音ユニットをクロスさせるネットワーク素子の容量(メモ2)、そして音量のレベル合わせをする減衰素子の容量(メモ3)が早判り出来ました。事はそれだけで終わらず、自作の場合にはメーカー推奨のSPボックスの容量を念頭に置きつつ、縦・横・奥行を算出して、ホムセンで買った36板をどう切り刻むかを決めねばなりません。さらに、密閉箱ではなくバスレフにして低音域を増強したければダクトの形状を決める必要もあります。日向野さんの元にはこういう疑問をぶつけるマニアが沢山来たからでしょうか、これらもこの計算尺の裏面を使ってサッと早判りで求めることが可能になっています。それを微に入り、細にわたりメモする気でいたのですが、あんまし深入りするのもなぁ・・・と我に返って、少し端折り気味のメモにしてこの計算尺の話を終わりにします。
    ボックスの容積から高さ、幅、奥行きを求めていく・・・
  • これも要望が多かったのでしょうか、日向野さんは計算尺の裏面も使っており、それを上掲しました。SPボックスの容量に当たりを付けてこの裏面上部のスケールをコチョコチョと動かすと、ボックスの高さ、横幅そして奥行きが読み取れます。こういう実学では当然のことですが、さ・幅・奥行きは互いに互換なものとして受け止める程度に、頭は柔らかくないとなりません。この見当で補強桟や前面枠等も書き込んだ板取り図面が書けたら、ホムセンで25ミリ厚の36合板を買って来れば良いわけです。端折って詳細には立ち入りませんが、この辺は、どういう音にしたいかによって、以下のように狙う方向に合わせることが必要なのです。
    3辺のバランス
  • 実は、SPボックスの外形をどんな感じにするかで、出る音が固くなったり、押し引きが良くなったりするので結構悩むのですが、そういう時に外形を色々と変えていく時に、こういった早判りスケールがあると、置き場所と出したい音とのバランスを取るための試行錯誤の繰り返しが容易に出来ます。
    • 前面バッフルの幅
      昔はSPと言えば据え置き式が殆どでしたが、今はブックシェルフ式が多くなって来ていて、必然的に前面バッフルが小さくなって来ています。確かにバッフルが小さいととSPからの音離れが良くなると感じますから、横幅を大きく取るやり方は流行らなくなっています。その方向はユニットの製法にも変化をもたらし、今では箱鳴りを起こさず、箱にまとわりつかない音を出すことが重視されています。そういう面からも、SPボックスの外観を細身にすることが好まれます。
    • ボックスの高さ
      これも大昔は、ダイアトーンの16センチユニットの名作、「ロクハン、P−610DB 」などは、100リットル超のバスレフ箱で鳴らせと言われていました。今はフリーエッジが当たり前なので、16センチだと30リットルでも低音が充分に出るのが普通です。そうなると、箱はどうしてもブックシェルフ型程度になってしまい、椅子に座って聴く人が多いので、箱に足を付けないと耳の高さに合いません。しかし、この足がくせ者で、グラグラするのはマズイからといって金具で固定したり、しなかったり・・・とマチマチですし、重い方が良い、とか言って「本体よりも立派な足」を買わねばならない・・・等と本末転倒なことになっています。それで流行るのがトールボーイ式で、これだと音源が耳の高さに来ます。結果的に容量が大きくなるんで、低音が出易くなると言う御利益もあり、SP自体の安定性も良くなります。同時にバッフルの幅も狭まって、音離れが良くなるし・・・となるのです。これが同軸のフルレンジだったりすると点音源化するので、聴きやすくなる利点まで生じるので、まぁ、大流行です。
    • 奥行き
      これは自作する方々が昔から指摘して来たことですが、奥行きを浅くすると裏板からの跳ね返りのせいでしょうか、音がパキパキして来ます。逆に深くすると、音がゆったりした方向に変わります。こういった形状のバランスは、ショップ巡りを丹念に繰り返して、自分好みの音がするSPの形状を良く憶えて置けば、自分好みの音作り見当が付きます。

    バスレフのダクトの大きさ
  • バスレフの場合、ダクトを大きく取るか、小さく取るか・・・また浅くするか、深くするかで共振する周波数と共振の強さが変わります。長岡さんの本のほか、フォステクス等にも参考になることが書かれていますから、それらを拳拳服膺しましょう。
  • ここでも、日向野さんは、丸ダクトの直径を矩形の辺の長さに換算するスケールを上掲のように付加しておられます。
  • JBLやALTEC等の凝ったユニットの場合、磁気回路が異常に強烈なものが多く、単にバッフルに穴を開けただけで、深さが殆ど無いような、ほぼ息抜き程度のダクトが好まれることが多くあります。確かにじっくりと聴くと、密閉箱の鼻詰まり感が抑えられ、しかも奥行きがないダクトだからさほどボン付かないのです。また、いわゆるオンケン式と呼ばれる、前面バッフルの両端全部を使うスリット状のダクトなどの工夫も、実際に聞いてみると結構効きが良いのが良く判ります。更に、円形のダクトを複数開ける方法とか、ダクトを中間で曲げたり、中に吸音材を差し込んでみるとか・・・はたまたボックス全体に紙風船様の中空の紙箱を幾つか入れてボックス内での共鳴を抑えると共に、低音の吸収を図るとか、、、バスレフには手癖でいじれる部分が多い事も知られています。
    今様のSPは箱鳴りを嫌って・・・
  • 昔のSPは結構盛大に箱が鳴り、それがそのメーカーの味付けになっていましたが、今では理論解析が進んで来たので、その辺の理詰めが徹底しており、箱の内部にガンジガラメと言えるほどに制振用のブレースを組み込んで、箱の板にはなるべく振動をさせず、従って妙な音も出させないという方式が市場を席巻しています。自作の場合には、この辺は桟や枠組みの追加で幾らでも出来ますが、余りやり過ぎると音に躍動感が無くなる感もあり、ホドホドにする見切りが必要です。
  • ・・・というように、SPの自作は結構楽しめる作業であり、そういう時に日向野さんの計算尺は役に立ちます。実際にショップでSPユニットを売りさばき、その間に使い方の相談に気軽に乗っていた日向野さんならではの工夫がテンコ盛りのこの計算尺が、Nelsonの道具箱の隅から出てきたので、数回にわたってその使い方をメモしながら、あの人懐っこいオジサンの面影を偲んでみたのでした。

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