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ヒノオーディオ日向野さんとSPネットワーク設計用の計算尺(2)
  • さて、その日向野さんが苦心をして作った右掲の「HINO AUDIO: Technical Slide Rule」が、自作オーディオファンにとって、如何に便利なものかという各論に移ります。前記したように、これは「ネットワーク回路と減衰量別のL・C値早わかり計算尺」です。オーディオ自作に嵌まりこんだ人は、例えばJBLやAltecの名SPが欲しいけど高くてとても手が出ないとか、名器ユニットをいくつか選んで夢の組み合わせをしてみたいとか、世界でただ一つの、自分専用のSPを作ろうとする時に直面するのが、そのSPを組み上げるのに必要なネットワークの設計です。高音を出すツイターに低音まで入れると壊れてしまうし、低音用のウーファーに中高音まで入れるとヒドイ雑音が出て困るから、それぞれのユニットの得意な音域の音だけを送り込むのが、ネットワークの役目です。
    自分好みのネットワークの素子を決めるには・・・
  • その辺の機微はオーディオ雑誌にも詳しくは書いていませんから、マニアは日向野さんに知恵を借りに来る訳です。それに応じている中に、如何に人が良い日向野さんでも同じことばかり説明さされるのにはウンザリしてしまった筈です。そこで右掲の計算尺の原型のようなものを作って、「そこはこうだからな・・・」等と各素子の数値を教えることになったようです。客人の方も何度も相談に来ていて、いつも茶菓子持参ではないから気が引けていたので、その計算尺を覗き込んで、使ってみて、といった挙句にその計算尺そのものを欲しがった・・・なんてことになったに違いありません。まぁ、そうじゃないかと想像しただけですが、非売限定品で出来上がったのがこれだと思われます。(以下の説明は、出来上がりSPだけしか買わない人には無縁の話であり、一方好きなユニットを選んでSPを自分で組み上げて楽しみたい人なら興味津々の話です。ちょっと読んでワケワカの方には、この話は向きませんので、読み飛ばされるのが吉です)
    ユニットのクロス周波数から、LCRの数値を出すのなら、先ずインピーダンスを指定する
  • ユニットをいくつか使って自分だけのSPをでっち上げたい人は、それぞれのユニットの特徴を生かせるように再生周波数の分担範囲を決めます。コレは、、、こんな所に簡単に書き切れるほど簡単なことではなく、色々あって長くなりますから省略します。まぁ、クロスさせる周波数と減衰量が既に決めてあることにしましょう。右図では、結構本格的なウーファーを使う場合らしく、通常よりもグッと低い500ヘルツまでしか出さないようにする使い方をしています。この上限クロス周波数の指定は赤丸の中で「16,8,4」と表記されている「8」の所に、中紙を上下に動かして「500」という数字に合わせることで行います。この数字は何なのか・・・もう見当が付いておられる方が多いでしょうが、これは500ヘルツまでで使おうとしているウーファーのインピーダンスです。市場にあるユニットのインピーダンスは、16、8、4オームのいずれかですから、自分の使うユニットのインピーダンス値に合わせます。ここでは8の所に三角印があっていますから、8オームのウーファーを使おうとしているのです。
    次に、どれほどの減衰量にしたいかを決める
  • ウーファーを500ヘルツまでで使うと言えば、それで終わりになるものではないことはご存じのはずです。ウーファーにも都合というものがあって、その上の、例えば501ヘルツは全く出さないでくれと言っても、それは出来ない相談です。物事には順序というものがあって、現実に出来ることは、500ヘルツで切るとしても、その勢いが余ってしまいますから、「倍の1000ヘルツで、音量が半分になるくらいで良いや」と言えば、コイル一個で出来ます。それが右の緑丸の所の窓に出ている「2.5mH」という数値で、この値のコイルを図で判るようにユニットの直列で入れると、周波数が2倍になる毎に音量は半分になって行ってくれます。ここは算数じゃなく乗数の世界なので、周波数が4000ヘルツになると、音量は8分の一に迄減ります。4キロヘルツでも小さいとはいえ8分の1の音は出続けている・・・と思う人も居るでしょうが・・・いやそうじゃなくって、8分の1しか出なくなるんでしょ・・・って思う人も居ます。
    減衰量に応じた素子の決定
  • その横に「12,18」という欄があって、その上にも数値が出ている所が、日向野さんの工夫した点です。緑丸の枠の数は、左が3つ、真ん中が2つ、右が1つ、と減って行っています。これはこういうことです。6デシベル減衰だと左端のコイル1個で良いけど、12デシベル減衰だとそれと並列にコイルが1個余計に要り、18デシベル減衰だと更にその後ろに直列にコイルがもう1個余計に入る・・・ということです。それを、「500ヘルツ」の所に「8オーム」を合わせるという指定をするだけで、3種の減衰量のネットワーク素子の数値が判るように、同時に使い分け出来るのです。
    今はやりの「コレ考えた奴、天才かよ」というセリフが・・・
  • コレが日向野さんの工夫の賜物であり、「痒いところに手が届く」という、この計算尺の価値でもあります。コレだと初心の方でも、中音・高音が出ないようにしたい時のネットワークを作るとして、ハイカットの割合が6デシベル減衰の場合、並列コンデンサーと追加の直列コイルの数値が無いので買うことはありえないわけで、つまりはコイル1個しか買わなくて良いことが、直感で理解できるわけです。
  • とまぁ、ここで一服しましょう。まぁこの先は、、、色々あって長くなりますので、次回に触れます。

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