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ヒノオーディオ日向野さんとSPネットワーク設計用の計算尺
  • 往年、というか大昔かも知れませんが、「オーディオ」と「秋葉原」とは切っても切れない関係にありました。ラジ館、ラジオデパート、秋月等々、一日経巡れば大抵のものは買えたのです。でも近頃になって久方ぶりに行かれた方は、秋葉の街の様変わり振りにはアングリとなされたことでしょう。それが世の流れなんで仕方ありませんが、Nelson等のように大昔から、例えばこのメモで話題にする「ヒノオーディオ」さんにお世話になって、オーディオの基本を教えて貰った者にとっては、残念ことには違いありません。このお店は、その秋葉原を象徴する個人店舗の一つで、結構突っ込んだ商売をなさるお店でした。店内の片方の壁に沿って大型から超小型までのSPが所狭しと並んでいて、日によって色んなSPが鳴っていたものでした。
    そこの名物オヤジさん
  • その店の片隅にどっかと座りこんで居たのが店主の日向野さんで、オーディオに精通しているばかりではなく、自分なりのアイデアを通した「HyuGer」という真空管アンプ・シリーズまで売り出すと言う専門性も兼ね備えた方でした。この店で初めて聴かせて貰ったのが、Lowther(ローサー、またはラウザー)の6インチフルレンジのけたたましい音でした。恐らく100dBに迫る高能率SPなので、たった数ワットしか出力が無い真空管アンプでも、音吐朗々と歯切れの良い音を出すのには驚愕しました。「けたたましい」とNelsonが驚いたのは未だ初心だったからであって、当時ご隆盛を極めていたブックシェルフSP等の、80dBも行かない低能率な音しか聴いたことが無かったNelsonは、その頬っぺたにビンタを食らうように押し引きの良い音に、正に脱帽したことを今でも思い出します。
  • それ以来の高能率好みは、後にであった菅原さんの出す一ノ関ベイシーの音に通じるものがあり、Nelsonが好む本線モダンジャズには、正にうってつけの音だという気持ちは今も変わりません。無論、お店にはそれ以外のAxiom、Altec、JBL、Tannoy等々のSPもあり、それ等が鳴っている時もあったのですが、Nelsonのこのお店に対するイメージは、2A3シングルアンプでも店内を揺るがす程の音を出していた、僅か16センチの口径しかないLowtherのキッパリとした音なのでした。
  • その日向野さんも数年前に亡くなられて、お店もすぐに閉店となりました。このお店は秋葉の中心ではなく、万世橋を神田方向に渡った、今の街並みならいきなりステーキの隣くらいの位置にありました。つまりは、その気が無ければ端折ってしまい勝ちな場所にあるんですが、いつ行っても何人かの客が店員と話をしていて、活気とか賑わいとまで言わないまでも、知る人ぞ知る良いお店だったのでした。
  • ある日、結構な額の買い物をして持ち帰ろうとしたら、「大丈夫かなぁ、重いだろう?」の声がかかりました。皆さんも覚えが一度くらいはおありでしょうが、早く家で音出しをしたい一心で両手に持ったものの、秋葉原駅の階段の中ほどにある足溜まりで、痺れてしまった手の感覚が戻るまで、手を開いたり、閉じたりしつつ、「俺は多分馬鹿に見えているんだろうなぁ・・・」と後悔するのは目に見えていました。その時に、店主さんがそれまで説明してくれていた、恐らくは売り物である筈の、SPネットワーク設計に便利な計算尺を何を思ったのか、「ホイ、コレ、持ってきなよ」と掌に押し込んでくれました。それが右掲のオモチャ、じゃなかった、お店特製の計算尺なのでした。それが、つい2,3日前に我が聴き部屋の滞貨物を整理していた時に、色々と積み上げたモノの間から出て来たのです。「ウゥーーーン、これなぁ、何度かお世話になったなぁ・・・」と眺め直して、このメモをして置く気になった次第です。話せば長いことながら・・・ということで、メモは何回にも亘る筈ですが、オーディオ好きな方なら、「そうだよなぁ・・・」と御理解頂けるような内容となる気がします。
    先ずは外観から、、、
  • 表面に誇らしげに「HINO AUDIO: Technical Slide Rule」とありますが、その下に書かれているように、これは「ネットワーク回路と減衰料別L・C値スライドルール」なる、言ってみれば計算尺の一種です。NelsonがJBLのユニットなどを組み合わせて、自己流のシステムを組み上げるのに夢中だった頃、例えば
    • ウーファーとツイターの互いの減衰カーブは6dB/octや、12dB/octのいずれにするのか
    • これらを揃えるのではなく、下はゆっくりと切り、上はユニットを壊さないようにキツ目のスロープで切るか
    • 両者のクロスする周波数での減衰量は-6dB(半分になる)落ちで合成するのか
    • それとも音はエネルギーなんだから-3dBクロスでないとおかしいんじゃないか
    ・・・といったようなクダランorzことに大いに悩んだものでした。その時にコンデンサー、コイル、そして抵抗にどんな容量のモノを選ぶべきかは、オーディオ雑誌に時折掲載されますが、雑誌はどっかに行っちゃうのが常です。いざ調べたい時にその記事が座右に無いことも多いんで、「こんなのがあると、マニアは大いに助かるだろう。」と店主が制作なさった神器(^^;がコレですが、それをタダで貰ってしまったのでした。無論、ことはコレを使うだけで済むわけもなく、その先にあるのがどのブランドの、どのシリーズの部品がNelsonの好みに適しているのかという、別の大問題があります。
  • しかし、取り敢えずは先ず計算上の最適容量が判らないと話になりません。この計算尺は、小うるさい能書き無しに、自分が試みたいパラメーターに合わせた、各部品の所定の容量が直ちに小窓に表示されてしまうのでした。しかもユニットのインピーダンス、クロスする周波数と減衰カーブの違いによる値も個別に表示されるのだから、こんなに便利なものはありません。毎日、自作マニアの相談に乗ってやっている店主さんならではの、痒いところに手が届く使い勝手の良さには頭が下がります。
  • まぁその先は、、、色々あって長くなりますので、次回に個別の使い方に触れます。

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