宍戸式送信管8012シングルアンプ
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自作の真空管アンプの調子も良い、というおはなしです。
真空管アンプ
- 「今時、真空管なんて、、、」と言われるのはごもっともですが、偶々本を拾い読みしていたら、Nelsonの生まれた大昔に全盛を極めた真空管が、「今でも、アンプにすれば音が出る。」と書いてありました。実は、義母愛用の大昔のシンガー・ミシンが今も動くので感心していたところでしたので、「真空管もスゴイなぁ。」と感じ入りました。「今もそういう古典的真空管が売られており、店の片隅の白箱の中で、誰かが火を入れてくれるのを待っている。ちゃんと使えば、素晴らしい音を奏でてくれる。」というのです。泣ける話ではありませんか。そうすると、Nelsonは「急に、遠くを見るような目つきになって」(これがアブナイ兆候だそうです(^^;)、後は、雪崩を打つが如く進んでしまったのです。宍戸先生というエライ方の回路をそのままに、部品を買い集め、先輩に道具も借りたりして、作り始めました。8012シングルで7ワットというのは、300B並みの中出力であり、期待を持って取り掛かりました。
シャシーの穴あけ
- アンプの部品の配置は、議論をすれば切りの無いことらしいのですが、宍戸先生の流儀の左右対称で行くこととし、手にいれたトランスその他の部品を並べてみて、シャシーの加工図を書きました。この時点で、先輩が呉れた穴あけ器(シャシー・パンチ)をどう使うのかは知らなかったのですから、ムチャも良いところです。そのパンチはまぁ、缶切りと思えば良いわけですが、買ったA4大の天板の厚さがアルミの2ミリで、手作業の限界に近いのだ、と後で知りました。ミニチュア管や電解コン用の小穴あけぐらいは直ぐに出来ました。しかし、この8012というソケットの無い送信管を埋め込みにするために、デカ穴を空けようとしたところ、これが大変。1日掛かりで一つ空け、「もう、2度とやらないぞ」と後悔交じりの家訓を新たに作って、ヒィヒィ言いながらもう一つを空けました。手指は皮が剥けて真っ赤になり、いや、大変だった。「マイリました。」
3極・5極複合管の込み入った配線
- 何しろキットはやったことがあっても、素のままのアンプ作りは初めてのことです。「初段管のグリッド配線は短く」、ということらしいので、ピンジャックの直ぐ近くに複合管の6BM8の穴を空けました。この複合管は当然ながら2本分の数の電極が有り、普通の管よりも本来からして配線が輻輳するものです。その上、シャシーの端に寄せてありますから、狭くて手が入らず、ラグの設置にも苦労する始末。「別の穴を空けようかなぁ、、、」と思ったくらいの失敗であったのですが、数日間呻吟して、何とか格好を付けました。
ソケット無し送信管
- 自分の生年頃に作られた工業製品が動くのを楽しみたいという単純な発想から選んだRCA 8012送信管ですが、アキバの富士商会でペア物を入手してみると、なかなかの威容です。測定データも仔細有りげで、これは相当に濃い世界のようです。古い管でソケット無しですから、ガラス管からそのまま黄緑のジュメット線が出ているので、シャシへの取り付けは工夫が必要です。宍戸先生は、トランスの側壁に緊縛していましたが、何だかサディスティックで、強引そうでもあるし、結構面倒そうなので、そこだけ他の先生に浮気して、電解コンのバンドを使うことにしたので、簡単に済みました。
電源スイッチ
- 今になって考えれば、不要なことだったのですが、その時は何故か「電源のトグルスイッチが前面にある方が良いなぁ、、、」という気がして、そのように取り掛かりました。しかし、電源トランスは当然後部にありますから、配線が前後を往復するわけで、「100V/ACの配線を、シャシ中央部でそんなに無造作にのさばらせて良いものか。」と気づいたのも、後の祭りでした。結局、往復の線を撚り合わせるくらいで、お茶を濁しています。更に、スイッチは工夫して、フィラメント予熱と、B電源投入とを使い分けられるようにして、「どんなもんだい。」というところ。
フィラメント用整流ダイオード
- 宍戸先生は信念の人らしく、この発熱の大きな素子をシャシ直付けで放熱するとしておられます。そのとおりにしましたが、結構熱くなっています。数年後の記事を見ると、ナットを一つかましてシャシーから浮かせ、シャシーに数個穴を空けて対流で除熱、という方式も良いとされており、これにすりゃ良かったと思っています。
8012への給電
- 8012は、グリッドとプレートの端子が管壁から金属線で突き出しており、これへの給電には配慮が必要です。何とかこの線径にあう接続端子を見付けて、ガラスの耐熱被覆スリーヴを付けて配線しましたが、これで良いのかなぁ、と腑に落ちません。数百ヴォルトの配線がアンプ上に屹立しており、子供がもうおん出た家庭環境とは言え、何かの拍子に触ることも無しとしない。ちょっと心配です。同じ管で市販アンプがありますが、流石に全体をアクリル板で囲ってあります。
ステレオ構成
- ステレオ構成で、左右対称に配置し、しかも初段グリッド配線を最短で、となれば入力端子は左右泣き別れです。ステレオアンプでは、唯でさえどう接地をとるかが難しいのに、これではどうしてもアース・ループの面積が大きくなってしまうことに、製作途中に気づきました。相当にハムが出そう。そこで、B電源配線を少し変更し、「こんな所か、、、」としました。このように、この8012アンプは入力が左右泣き別れ、シャシー中央をAC配線が往復、という禁じ手連発にもかかわらず、奇跡的にとくに問題無しでした。まぁ、プリだったらトガメが出たんでしょうが、幸いにパワー・アンプなんで悪事露見とまでは行かなかったということでしょう。
使ってみて
- 宍戸式とは、高電圧で駆動すべき送信管を、中電圧・大電流で、特許も取った独自のトランス駆動(イントラ反転式と称するそうです)をするもので、高音域があまりギラつかず、中音・低音にリキがあるという特色があります。出た音も正にそのとおりで、ジャズ・ヴォーカルなどはクーッと言うほど良い音がします。数十年前に出荷された真空管が初めて火を入れてもらって、嬉しそうに音を出すのも正に懐古趣味の極致です。特にこの管は、プレートが赤熱するタイプであり、照明を落として聞いていると、プレートの橙色、そこから洩れるフィラメントの光等々で、雰囲気も最高です。とはいえ、他の先生方も批判するように、素子の使い方が過酷気味です。半日聞くと、アンプ全体が相当に熱くなります。この音と引き換えの代償と言うことでしょう。
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