Digital Channel Dividerへの期待と不安
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マルチチャンネルシステムを動かしている人にとって、期待の星だったDigital Channel Dividerは、特効薬ではないらしい。
マルチチャンネルシステム
- スピーカーを複数のユニットで構成し、各ユニットを最適の音域でのみ鳴らし、パワーアンプの言うことを的確に聞かせるためには、マルチチャンネルシステムが適しているということで、Nelsonもこれを採用しています。「最適の音域で鳴らす」ということでは、市販の殆どのスピーカーも幾つかのユニットに再生を分担させているので同様なのですが、「パワーアンプの言うことを的確に聞かせる」には、通常のcondenserや、coilを使ったネットワークを経由していては無理があり、ユニットをアンプと直結させる必要があります。このために、ユニットの数だけパワーアンプが必要になるわけですが、その費用に見合った澄んだ音が選られる筈である(^^;というのが能書きです。
パワーアンプとの直結
- ユニットはコーン紙、ヴォイスコイル等々からなっていますが、電気的にはなかなか複雑な代物ですので、低いインピーダンスで電力を送り込むパワーアンプとは直結するのがベストであり、condenserや、coil等の余計な介在物は避けるべきです。オシロで見ると判りますが、ネットワークを介した時のサイン波伝送波形は見るのも嫌になるほど奇怪な動きをしています。これが音楽入力であったら、さらに複雑な動作になってしまいます。野球のバットの先を持ってねじると、根元を力持ちに握られていても回せますが、逆に根元を持ってねじると、先を子供が握っているだけでも、簡単には捩じれません。これはDampingという概念ですが、パワーアンプをバットの先に繋ぎ、根元にスピーカを繋ぐ形で動かさないと、スピーカーは勝手な動きをするのです。高音ユニットの場合、海外製アンプはスイッチ投入時に雑音が出るものが多いので、保護がしっかりした国産アンプにしないと、ユニットを壊してしまいます。
再生される音の整合
- ユニットをそれぞれの得意の音域のみで使うのは良いことなのですが、一本で全音域を再生するフルレンジのユニットと比較して、各ユニットから出る音がバラバラにならず、整合が採れていることに注意を払う必要が生じます。整合は、単に音の大きさ(振幅)が同じである程度のことでは収まらず、音色、位相等が出来る限り互いに馴染み合う必要があります。
位相の整合
- あまり専門的なことは判りませんが、ユニットをある音域でのみ動かすには、不要な音域の入力をカットしなければなりません。電気回路でこれを行おうとすると、condenserや、coilを挿入する必要があり、これをやると必ず位相が90度単位で回ってしまうということが生じます。一旦回ってしまった位相は、世に言う逆相接続等の小手先の細工では、どうにもなりません。二つのユニットを1キロヘルツで分担を分けることとし、接続の工夫で巧く繋ごうとしても、1.2や2キロヘルツでも両者から音は出ており、ある周波数で良かったからそれで良いや、ということには成らないのです。仕方なく、Nelsonは今、24db/octという急峻なカットの仕方で、両者の干渉する音域を少なくするという方法を取っています。この問題を回避する唯一と言われる方法が6db/octという緩やかなカットを採用する方法なのですが、実はこれでもユニットから出る音の発音位置に差があるとかえって悲惨な繋がりになることを、安○さんという人がMJ誌でとうの昔に発表しています。
音源位置の整合
- アンティークの名器で、Altec A-7という機器があります。これはフロントロードホーンといって、ウーファーを箱の奥の方に取り付け、そのまえに短いホーンを置いて中低域の補強がされています。これが名器なのは、箱の上に置いた中高音ホーンのドライヴァーの発音位置が、引っ込んだウーファーのそれと同じになるようにセットされており、音源位置の整合がとれていることです。そして、この音源位置の整合は、とても大事で、しかも有効なてだてのようです。しかし一般のスピーカーではこのような配置をとることは至難であり、一部でユニット取り付け位置の工夫によりこれに対処しているものがあるのみです。また、同じAltecの604series(現在は8Kが最新)や、Tannoyでは、ウーファーの中心に高音ユニットを埋め込む同軸スピーカーを古くから製作しており、安定した評価を得ています。これは、この音源位置関係を総合的な音の仕上がりに合わせて固定できるという利点がいかされているということですが、埋め込むほどのサイズのユニットの出せる高音域までは、ウーファーが付いていかないという欠点もあります。
Digital Channel Divider
- というような複数ユニットの繋がりの問題に関する究極の解決として、渇望されてきたのがDigital Channel Dividerです。これを使うと、位相の変化を伴わずに音域を切り分けることが理論的に可能であるからです。更に、上記音源位置の差から来る音のずれを、音域毎に時間遅れを調整できるので、ユニットが異なる前後位置にあっても、出てくる音はピッタリ合わせられるのです。そりゃ、言うことないなぁ、と誰でも思います。幸い、いまや音源はデジタル化されたものが殆どですし、デジタルのプリアンプがあって、アナログ音源でもデジタル化してくれるので、LPの再生にも苦労はありません。しかも、ユニットの干渉で問題となる不要音域のカットでも、デジタルでは70db/octなんて凄いことも可能なので、それも魅力です。しかし、民生用にDigital Channel Dividerが発売されるには至っていなかったのです。それが、昨年くらいから、いくつか、そういう機器が発売されてきたので、よぉし、やるか、と思っているのはNelsonだけではなかった筈です。
試聴報告を読んで
- 既にそれらの機器の試聴の結果が少しづつ、記事になり始めています。しかし、どうも、話が違うようで、理想の実現とは程遠いようです。色んな筆者の言うことも揃っていないのです。先ず、音源位置の差を測ってみて17ミリとすると、0.05msecの発音時間差ですから、それだけの差をDigital Channel Dividerに設定をします。若干の誤差を見込んで、その前後で何度か試聴してみるということを皆さんやっています。そうすると、各ユニットの音の繋がりが変化し、全体としての音の印象が変ります。ここまでは予想通りなのですが、どうも、ぴったり合ったからと言って、世界がひっくり返るほどのものではないようです。調整を済ませても、音が細身になりすぎてどうも、という人も居れば、音がしっかりしたから素晴らしい、という人もいます。なんと、少し理想の点よりも外れた方が、かえって力感が感じられるのでそのほうが良い、という人までいました。うーん、と唸ってしまいます。これでは、昔からいわれている鉄則には変りはないと言うことでは有りませんか。「大事なのは方式や、回路や、部品ではなく、全体としてのシステムが良い音を出しているかどうかである。」 恐らく、例によって、現実の世界では不可避な「部屋の影響」等、種々の要素のからまりが問題を複雑化しているのでしょう。細かいことに気を遣ったうえで、全体の仕上がりもちゃんと見る、という鉄則からすると、Digital Channel Dividerは、どうも不可欠の特効薬でもなさそうな雲行きになってきました。
どうなってんの、、、
- まぁ、実態が触れ込みと違うことはどこでもあることで、単純に期待した私が馬鹿だったのか、と言うことかもしれません。それに、まだ出始めたばかりの製品と言うこともあるのでしょう。本音を言えば、Digital Channel Dividerをまたいじれるから面白い、と思っていたのにアテがはずれて残念、というところです。
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