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ALTEC 604-8H
  • ALTEC 604-8H ALTEC 604-8Hは、1940年代に開発されたALTEC 600シリーズに起源を発する由緒正しい40センチ同軸フルレンジのユニットです。左図で判るとおりに、独立した高音ユニットのホーン部分が、40センチ口径のウーファーの磁気回路を貫通して開口しています。この形式の「同軸構成の40センチ・ユニット」のことを、ALTECでは「Duplex」と名付けています。1941年に601が先ず最初に開発された時から、600番台の型番は「Duplex」専用です。この辺のことをお知りになりたい方で、英語が苦でない方はここでどうぞ。かの名器604E等を経て、アルニコ磁石の最後の製品が、ALTEC 604-8Hです。現行品はALTEC 604-8Kですが、これはフェライト磁石を採用しています。枝番が時代を追ってAからKまで来た訳ですが、基本設計は一貫しています。ある時期からバッフル後ろ付けではなく、フロント・マウントになりました。中古市場では604E以降のものが多く出回っており、ペアで30から40万円位です。見ての通りの布エッジなので、2,30年前のものでも十分使用に耐えます。
    製品の諸元
  • この604-8Hの諸元は次の通りです。
    • 再生周波数帯域:40- 20,000Hz
    • 能率: 100dB
    • インピーダンス: 8オーム
    • クロスオーバー周波数:1.5kHz
    • 最大入力: 65W
    • 寸法:直径41X 奥行き28センチ
    • 重量:15キロ
    どこをとっても文句の付けようがない性能ですし、図体も立派なユニットです。そのような風格と性能なので、これ一発で、十分に満足できます。同軸構成のたまもので、音像の定位は抜群で、若干中音が張り出しているので、ヴォーカルなんかを聞くには最高ですし、管やピアノの再生も立派なものです。独立したネットワーク・ボックスが付属しており、構成を工夫して中高音と高音を別個に増減できるので、3ウェイ的な使用が可能です。
    ユニットの構成
  • ALTEC 604-8H604-8Hは、簡単にいうと、ALTECの515ウーファーと、802ドライバーを足し合わせて同軸構成に仕上げたものです。515ですからオーヴァー・ダンプ気味で、バスレフの場合には工夫が必要です。別に605シリーズもあり、こちらは515よりもマグネットの弱い416ウーファーに、806ツイターを組み合わせたもので、バスレフで使いやすくなっています。同軸は、音を発する部分が、前方から見て上下左右共に一致しているので、全再生帯域にわたって整った音を出せるのが、何よりのウリです。独立したウーファーとツイターを組み合わせる通常の2ウェイ・システムでは、低音と高音で発音位置がかなり違いますから、厳密にいえば「バラバラな音」が出ているわけです。そういう欠点が、同軸にはありません。種々の帯域でのスピーカーからの音の出方を測定し、モアレ図で示した記事が技術誌に時折掲載されますが、同軸の音の揃い方は歴然としていて見事であり、唸ってしまいます。「2,3米離れて聴くンだもの、誤差の範囲だョ」で済ませられるかどうか、気にする人は同軸の良さを認識しています。(無論、発音位置の完全な一致は不可能で、同軸でも前後に僅かですがズレています) ウーファーを貫通するホーンは、古くは多分割のマルチセルラーといわれるタイプでしたが、最近はマンタレィ(魚のエイ)といわれるタイプです。
    マンタレィ・ホーン
  • ALTEC 604-8Hマンタレィ・ホーンは、JBLがバイラジアルと称し、エレヴォイがCDと称する定指向性ホーンで、拡散性が良いといわれています。その上、古い設計のホーンにありがちな「ブッ飛んで来る」、辛口にいえば「突き刺すような」感じが薄れ、柔らかさが加わります。ホーン開口の曲率が一本調子では無く、途中で大きくしています。両ユニットがクロスする周波数は、1.5kHzです。40センチウーファーでは、一様振動できる限界が数百Hzですから、それをはるかに超えて、分割振動をする中音域に大きく入り込むので、高い方は苦しい所です。またウーファーの邪魔にならない程度の大きさに止めたマンタレーでは、1.5kHzまでの低い帯域の再生は苦しい筈です。さりとて、ホーンを大きくすると単一ユニットにはまとめられません。これに上手く折り合いをつけるのが、この手の同軸構成の設計ノウハウのようです。それにしても1.5kHzまで出すために一定のホーン長が必要であり、ウーファーの磁気回路との干渉も回避しなければならず、ドライバーの磁気回路は一番後ろにあります。上図でも判るとおりに、仕上がりは結構奥行きがあるユニットとなっています。アルニコは壷型といってどうしてもズングリしてしまいます。磁石がフェライトの場合は、これと逆に平べったくなるので、現行品の奥行きは20センチ強と短くなっています。ホーンの付け根の部分には、下図に見るようにコルゲートしたダンパーが入っていて、低音と高音の干渉を回避しています。昔は、ここはフェルトだったそうです。
    新井さんの改造
  • ALTEC 604-8Hこのホーンについては、新井さんという研究家が数年前に一連の成果をMJ誌に発表され、後に単行本化されています。上図のホーンのノド元左右にネジが見えますが、コレをはずして別のホーンに付けかえるという研究です。実に細かい作業のようですが、丁寧に順序を踏んで取り替えておられるようで、指向特性もチャンと調べて、改造の効果の確認がされていました。新井さんは、「工業製品はどうしても数をこなす必要性から余計な手間をかけられないが、アマチュアは手間を惜しまず、トコトン凝れる点を生かすべきだ」と主張されていました。どこかで少数ながら、この改造を受注していた時期があった気もします。新井さんはカリンという超硬木材の加工が巧みであり、図に見えているプラスティック製の黒いホーンを、赤味の綺麗なカリン材に取り替えた仕上がりは実に見事なものでした。そして何と、大阪の中古CD店で、正にこの改造品を聴いたことがあります。オンケン式といわれるマルチ・ダクトの箱に入れたモノが鳴っていたので、CD選びもソコソコに色んな盤をかけてもらっては、「えェなぁ、えェなぁ、、、」と唸った記憶は忘れられません。
    ALTEC推奨キャビネット
  • ALTECでは、このユニット用に多くのキャビネットを開発していきましたが、現行はやや小型の612(170リットル位)と、より大きな620(230リットル位)の二つです。612の方は「銀箱」という愛称があり、モノクロのプロ用然とした無骨な外観ながら、それがかえってスパルタンな印象があるのか、中古ではこちらに人気があります。620の方は余裕があり、たっぷりと低音も出そうです。また、国内代理店が十数年前に組み格子仕立てで有名なヴァレンシアの箱に入れて「604 Valencia」として売り出したことがあります。これは稀に中古市場で見かけることがあり、先頃入手した「6041」が無ければ、コレでも買っていたかも知れません。この代理店は、その前にも605を612サイズに入れた「クレッシェンド」という製品も出し、人気がありました。最近は、「マイルストーン604」という製品も出ているそうですが、聴いたことはありません。他社では、某山本工芸が、カバ櫻合板で箱(170リットル)を作り、ネットワークも独自の物を付属させたものを売っています。
  • 自作では、かの上○さんが515系ウーファーの低音解析をオンキョーに依頼した所、正味100リットル強くらいの小さめの箱でないと、強力な磁気回路でダンプされたこのウーファーの低音を、ダラ下がりさせずに60ヘルツくらいまで引っ張ることは出来ないという結果をもらい、その大きさで仮想同軸構成の箱を作ってもらったという記事を、某SS誌に掲載していたことがあります。確かに、ホーン・ロードをかけた低音を狙って使うほどにダンピングを効かしたこのユニットをバスレフで楽しもうとすると、それはモノの道理に合っています。こういう場合は、昔、JBLでよくやっていたように、バスレフ孔は大きめにして、ダクト長をほとんど取らず、息抜きくらいで使うというギミックが使えそうですね。

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