シングル・コーンのSPユニットで遊ぶ
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世はまだTechnicsどころか、Panasonicですらなかった松下電器のナショナルだった時期に、Nelsonは親が決めた高校に何とか潜り込めた事を口実にして、当時はステレオと呼んだ機器類を大阪市内のニッポンバシを見て回って買い込みました。親類が電気屋だったので、「何んやいなぁ・・・ウチが電気屋と知ってるやろがいなぁ・・・」と後で嫌味を言われました。その頃出始めていた電蓄に毛が生えたような「ステレオ」一式ではなく、プレイヤー、アンプ(真空管式)そしてスピーカを個別に選んで揃える式の現物を見て、その叔父さんは「何じゃコラ・・・」と絶句してしまいました。金が足らずに左右で違うボックスを捨て値で買ったり・・・と苦労して一式にでってち上げたんだから、呆れかえったに違いありません。無線をやっていた長兄がアンプのイコライザーを通さずにAMラジオの音声を入力出来るようにしてくれて、その頃はまだ珍しかった放送音源のテープ録音が可能にしてくれました。その時に、カートリッジ、ラジオ、オープンリール・テープの入出力レベルには違いがあり、それをアンプで増幅するには工夫が要ることを始めて知って、オーディオ入門をしたのでした。指折り数えると昭和30年代末でしかたから、半世紀も前のことです。その時にSPに使ったのが名器「8PW-1」という20センチ径ダブル・コーンで、生まれて初めてのシステムで既に、シングル・コーンでhなあいにしても、ワン・ユニット物に目を付けていたことになります。
ナショナル EAS-20PW09の仕様
型番 EAS-20PW09
ボイスコイル・インピーダンス 8Ω
最低共振周波数(f0) 50Hz
再生周波数帯域 f0?15,000Hz
定格入力 3W
最大入力 8W
出力音圧レベル 94dB
等価質量 8g
Q0 0.73(50Hz)
総磁束 75,000MX
磁束密度 T 10,500G
コーン紙有効直径 166mm
質量 1.26kg
公称口径 20cm
公称インピーダンス 8Ω
イコライザー付・ダブルコーン
アルニコマグネット
原型の旧型番8PW1が発売されたのが1954年11月、生産販売の終了が1984年とされています。30年の長きに渡って"ゲンコツ"の愛称で親しまれ、使われてきた事になります。1984年の販売定価が3,900円だそうです。後述のように複雑な作りに比しても、また当時の物価を考えても(CDが一枚3,500円でした)非常に安価で良心的な価格設定だったと思います。そうした面からも、たくさんのアマチュア自作派に親しまれ、支えてきた優良なユニットだったと言えるでしょう。自社のシステム用にフェライトマグネットを使用した廉価版(20PW49)や、エッジやマグネットを変更し、ハイコンプライアンス・広帯域化した物(20PW56)など、いくつかのバリエーションが存在するようです
うです。Lowtherという会社のユニットにも同様の物体が付けられた物・'A'SERIES DRIVE UNITSがあります。ただし、松下と違って英国のオーディオ製品らしい立派な価格になっています。これを見ると、日本の輸入代理店があこぎなピンハネをしてきたわけでもなさそうです。そう言えば、バブル経済爛熟の頃、ターンテーブルのT社とかトーンアームのS社から日本限定販売なる物が作られていました。それを見て、日本の某大手食品会社が主力商品の化学調味料を、東南アジアでは頭が良くなると称して売っていた事を思い出しました。自分の国では相手にされないような代物でも、金満のイエローモンキーなら騙されて金を出すだろうというゲスな根性が見え見えで、不愉快でした。
このイコライザの動作については、製品カタログに詳しく解説されているそうです。残念ながら、手元にありませんので、それを元にした解説記事から引用します(小原由夫 「20PW09を使ってバスレフ型SPシステムを作る」1984年11月 /ラジオ技術社編 『スピーカシステム製作集』より)。
メインコーンは楕円コラゲーションを用い、中央部より周辺に至る間の成型圧力を変えて、機械損失を変化させ、周辺部はコンプライアンスを大きくなるよう特に薄くすきあげ、大振幅時にも非直線ひずみを極少にしています。さらにその効果を高めるために裏面より化学処理を行い、とくに中音域以上でその特性の乱れが少なくなり、平坦な周波数特性を得ています。
高音コーンはとくにヤング率の大きな繊維を選び最高の形状に成型し、性能を十分生かすために一切の染色を行っていません。
また、大きな体積のマグネットと高純度軟鋼を用いたヨークにより強力な磁気回路を形成し、さらに銅被膜アルミボイスコイルと軽量で堅牢なコーンにより過渡特性にすぐれ、また高能率です。
面白いなと思うのは、サブコーンの形状です。他のダブルコーンのユニットで良くあるのは、メガホンの様な円錐状の物です。あれは、見るからに特定の周波数で共振してサワサワ鳴るような気がして好きではありませんでした。実際に海外のユニットでは、そうした形状のサブコーンの裏側に発砲ウレタンを張ったり、フェルトをコーンの端に付けたりしてダンプしている物もあります。このユニットでは、サブコーンの径自体が小さく、外周部で折り返してメインコーンに接着してあります。後で述べるように、このユニットの自然な高域の鳴り方はこうした工夫によるのでしょう。
センチ祖先地ののTechnics 左図に示すEAS20F20は、Technicsがユニット生産を止める直前、1980年代末から90年代初めまで作られた20センチフルレンジです。Technicsには、20センチ・ユニットに名器が多く、同軸構成の8PX-1、そしてダブルコーンの8PW-1、通称ゲンコツ(右図参照)がありました。ゲンコツというのは、ダブルコーンの真ん中に黒い球を設置して、高音を程よく拡散していたので付けられたアダナです。Technicsはその後も、5HH17や、10TH1000といったツイターの逸品を製作していましたが、上記したようにユニット生産の最終期に出たのが EAS20シリーズです。同シリーズはフルレンジなので「EAS20F」という型番を付けられており、更に10,20,100と3つの系列に分かれていて、それぞれに10センチから20センチまで数種のユニットがラインアップされていました。いずれもコーン紙の真ん中にアルミドームが直結されていて、これが強烈な高音を放射します。「10」を標準とすると、「20」はマグネットを強化した低音重視型、「100」は同じマグネットでむしろ大入力に堪える設計という商品構成でした。そして、その中のEAS20F20を何と8本も買った馬鹿がいたのです。
EAS20F20
- この20F20フルレンジの諸元は次の通りです。当時の自作派仲間では、20センチではフォステクスの「208シグマ」と並んで、20F20が最強力なユニットとされていました。この時期、フォステクスと張り合って出した製品で、大メーカーであることを生かして、当時製作可能な最大サイズ、1.4キロのマグネットを20センチユニットにつけた暴挙に、賞賛とあざけりが相半ばしたものです。
- 磁束及び重量:13,000Gauss、290,000Maxwell、4kg
- 最低共振周波数:32Hz (Qoは0.17)
- 等価質量(Mo):13.6gr
- 能率及びインピーダンス: 95dB、8オーム
- 最大入力: 70W
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身分不相応に強力な磁気回路を持つユニットの例に洩れず、中高音は暴れ放題という感じですが、Nelsonはこれをウーファーとして使うので、高音の遮断さえしっかりやれば暴れは難点にはならず、むしろ元気な低音となります。実際には、数百Hzでクロスしましたが、やはりかなり急に切らないと中高音が洩れます。しかし、モルトプレーンというウレタンに似たエッジは柔らかく、コーンを殆ど束縛しないようで、実に深々とした低音が楽しめました。テストCDをかけると、25Hz位からレスポンスがあり、家鳴り鳴動させてはカミサンや子供達に「また始めたな」と白い眼で見られたのも、懐かしい思い出です。
仮想同軸8本使い
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このEAS20F20を90リットルの箱に2本づつ入れて、片側2台、左右合計で4台作って、仮想同軸構成にしたシステムを数年間使いました。左掲のカタログでも判るように、メーカーでも「片側4台のトーンゾイレ構成」という使い方を使用例に挙げていました。何かのことでテクニクスのサービスに電話をしたら、実際に製作に関与している技術者が対応してくれ、EAS20F20を8本使う時の要領などを聞いたところ、テクニクスのスピーカー部門最後の踏ん張りでこれを作ったことを嬉しそうに話してくれました。そして、「片側4本、実に良いですヨ」と言ってましたから、工場でも試作・試聴はしたのかもしれません。片側上下2台の間に挟んだJBL 2426ドライバー + 2370ホーンで中高音、ヤマハ0506ツイターで超高音を受け持たせた全体の仕上がりは、弊社比(^^;ですが、抜群でした。長岡式の計算で上下の箱のfoを、44Hzと32Hzとに振り分けたのも功を奏しました。この時期、デバイダーはパッシブの12dB/Octのものを自作で組んでおり、マルチ・アンプ・ドライブの魅力に圧倒された時期でした。モノの本を見て双信やビタQのコンデンサー、銅箔スチコン、スケルトン抵抗等、部品交換も楽しんだものです。オシロと発振器を中古で買い込み、しっかりと遮断特性を確認するなど、音楽よりも音を聴くのを楽しんだ面も否定できません。色々とその後のコヤシになることを経験した気がします。3体に分かれているので、それぞれの箱は40キロ程度に納まりました。ですから、立て込みも容易で、左右の間隔や内振り角度などの調整も楽でした。
4本並列で、100dB超の高能率、38センチ相当のコーン面積
- Nelsonの場合も、95dBと高能率なこの8オームのユニットを、4本並列した2オーム使いです。2本並列でほぼ3dBは能率が上がりますから、全体の能率は軽く100dBは超えていた筈です。20センチ4本で38センチ相当のコーン面積がありながら、等価質量は60g以下(13.6 x 4= 55)です。JBLの名器、130Aウーファーで70g、後の136A、4343/44等で使われた2235等では倍の重さ、約150gですから、先ず普通では実現不可能な、軽快な動作です。ユニットのfoが、もともと32Hzと低いので、実によく低音が出たものです。右下の図は、別途4発密接設置を試みた時のバッフルで、これはとても持ち上がらないくらいの重さがありました。
エッジがボロボロ
- ある時、システムの点検をしていて、EAS20F20のエッジに割れを見つけてビックリしました。元々は黒いエッジが、灰色に見えるほどに劣化しており、全てのエッジが大なり小なり破損していることが判りました。これが話に聞く「合成エッジの劣化か」と気付き、早速エッジ交換の方法について調べました。そして、エッジの補修は「それなりに出来はするものの、どうも本来の特性には戻らないらしい」と判ったので、泣く泣くこの8本のユニットは廃棄することにした訳です。製造中止後3年は経った今でも、アキバではこれを販売していますが、「在庫中もエッジの劣化はある筈だ」と、もう一度8本も買い直す気にはなれなかったのです。それに、正直な所、直ぐに、次の、全く別のシステムを作る気になっていましたが(^^;)。
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